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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年8月号

ワールドナウ

CBRグローバルネットワークの誕生

佐野竜平

地域に根ざしたリハビリテーション(CBR)/地域に根ざしたインクルーシブな開発(CBID)とAPCD

タイ・バンコクに位置するアジア太平洋障害者センター(APCD)は、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)による新たなアジア太平洋障害者の十年(2013―2022年)の指針「インチョン戦略」の実施推進機関として、さまざまなプロジェクトを実施している。CBR/CBIDについては、世界保健機関(WHO)、東南アジア諸国連合(ASEAN)等と連携して、メコン川流域国を対象にしたコミュニティ開発プロジェクト、CBID実践者研修、出版・PR活動を行なっている。本稿では、APCDがWHO、CBRアジア太平洋ネットワーク、他のパートナー団体と連携して支援している「CBRグローバルネットワーク」について、そのポイントを紹介する。

地域レベルのネットワーク活動の広がりと深まり

1980年代に始まったCBR活動であるが、アフリカ地域、中南米地域およびアジア太平洋地域の関係者は、主としてWHOによるファシリテーションの下、ネットワーク化によって関係者間の横のつながりを確立している。

まず、2001年にウガンダで行われた第1回CBRアフリカ会議において、CBRアフリカネットワークが設立された。その後、2004年にマラウイで第2回、2007年に南アフリカ共和国で第3回、2010年にナイジェリアで第4回会議を行うなど、CBRアフリカネットワークによるCBR活動の普及はアフリカ全域を網羅する形で広く進めている。なお、2014年にエジプトで第5回会議が開催される予定である。

中南米でCBRを推進するCBRアメリカネットワークについては、これまで2006年にチリで第1回CBRアメリカ会議、第2回会議を2010年にメキシコで行なった。2013年にコロンビアで第3回会議が予定されている。

アジア太平洋地域については、2009年にタイで第1回CBRアジア太平洋会議が行われた。52か国から650人が参加した本会議の成果として、CBRアジア太平洋ネットワークが誕生した(2013年7月現在、37か国・地域が加入。写真1)。APCDは、ネットワーク事務局として継続してサポートしている。日本からは、障害分野NGO連絡会(JANNET)がその窓口として連携活動を行なっている。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1はウェブには掲載しておりません。

なお、2011年にフィリピンで行われた第2回会議の結果、第3回会議は2015年に日本で行われることになった。その後のフォローアップにより、CBRアジア太平洋ネットワーク、JANNETおよび日本障害者リハビリテーション協会の共催により、東京で第3回会議が開かれること、日程は2015年9月1日(火)から3日(木)までの3日間とすることなどが決まっている。

世界レベルのネットワークの誕生

こうした地域ネットワークの活性化と相まって、世界レベルのネットワーク化とさらなるCBR/CBID促進の機運が高まっていった。2012年11月にインドで行われた第1回CBR世界会議は、国連・障害者権利条約および他の国連人権条約、CBRガイドラインの主旨を踏まえた上で、障害者とその家族、および地域に生きる人たちの権利促進に有効な手だてとしてのCBR/CBIDを確認する場となった(写真2)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真2はウェブには掲載しておりません。

第1回CBR世界会議の大きな成果は、CBRに対する見解の共有、国際的な知識共有・経験交流を目的に、CBRグローバルネットワーク立ち上げについて世界の関係者から賛同を得たことである。特に、CBRアフリカネットワーク、CBRアメリカネットワーク、CBRアジア太平洋ネットワーク、国際障害同盟(IDA)、国際障害・開発コンソーシアム(IDDC)、WHOおよびAPCDが合意したその主旨は、会議の成果文書である「アグラ宣言」に盛り込まれた。

CBRグローバルネットワークの目指すものと重要な任務

CBRグローバルネットワークは、「インクルーシブでエンパワーされた地域」を目指すものとして掲げている。その具現化のために行う重要な任務として、「CBRガイドラインおよび国連・障害者権利条約に沿って、地域に根ざしたインクルーシブな開発(CBID)のコンセプトを広めること。そしてグローバル、地域および国レベルのネットワークおよび関係団体を通じて、人権啓発を行うこと」「障害者のエンパワメントと日常生活への参画を実現させるため、障害当事者団体と連携していくこと」等が規約内に明示されている。

第1回理事会開催

2013年7月1日(月)と2日(火)、バンコクのAPCD研修棟において、第1回CBRグローバルネットワーク理事会が開催された(写真3)。今理事会は、WHOおよびAPCDのサポートによって、手話通訳者およびファシリテーターを含む15人が世界中から集まった。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真3はウェブには掲載しておりません。

なお、理事構成については、CBRアフリカネットワーク、CBRアメリカネットワーク、CBRアジア太平洋ネットワークから各3人ずつ計9人、障害当事者団体の世界ネットワークである国際障害同盟(IDA)2人、主要な国際障害NGOをメンバーとする国際障害・開発コンソーシアム(IDDC)2人、WHO1人、APCD1人、他の国連機関1人、選出理事2人、次回世界会議主催国代表者1人の計19人となっている。

CBRグローバルネットワークの最大の特徴は、その中心メンバーが開発途上国出身の障害当事者である点にある。実際、代表にナイジェリアのMr. James Lalu(CBRアフリカネットワーク)、事務局長にパキスタンのMr. Ghulam Nabi Nizamani(CBRアジア太平洋ネットワーク)、出納長にMs. Madezha Cepeda(CBRアメリカネットワーク)が選出されている。

今回の理事会の結果、障害インクルーシブなコミュニティづくりを促進するネットワークとして現場の声をより反映させていく意味でも、3つの地域ネットワーク(アフリカ、中南米、アジア太平洋)の一層の発展を念頭にCBRグローバルネットワークとして活動していくことが強調された。実際、各地域ネットワークを互いに支えあう仕組みを強化していくこと、特に毎年、アフリカ・中南米・アジア太平洋の各地で行われるようにアレンジされた国際会議を軸に交流し、活動を深め合うことが合意された。この他、事務所はAPCD事務棟の3階に設置されること、早い段階で事務局スタッフを採用すること、活動として情報発信機能、研修機能などを確立していくことが決まった。

CBR/CBIDを主流に

2013年は「障害と開発」関係者にとって非常に大切な年である。CBRグローバルネットワークは、国連・障害者権利条約の第6回締約国会議(2013年7月17日-19日、国連本部、ニューヨーク)においてパネリストとして参加、国連総会「障害と開発に関するハイレベル会合」(2013年9月23日、国連本部、ニューヨーク)への参加(予定)など、世界の潮流に合わせる形でその活動を具体化しようとしている。

その背景の一つに、公式・水面下ですでに行われているミレニアム開発目標(MDGs)の期限となっている2015年以降の枠組みに関する議論がある。「障害と開発」を具体的な焦点とすべく、CBR/CBIDアプローチの具体的な広がりはますます喫緊の課題となっている。世界の「障害と開発」関係者と連携するプラットフォームとして、CBRグローバルネットワークへの期待はさらに大きくなっていくであろう。

(さのりゅうへい アジア太平洋障害者センター(APCD)ゼネラルマネージャー)