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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年8月号

知り隊おしえ隊

横浜市における急性期から回復期の病院内で実施したスポーツ導入の試み

田川豪太

1 はじめに

横浜市では、横浜市総合リハビリテーションセンター(以下、横浜リハセンター)および障害者スポーツ文化センター横浜ラポール(以下、横浜ラポール)が中心となり、障害者へのスポーツ普及を進めている。

さて、障害者がスポーツを始めるきっかけには、さまざまなケースがあるが、脳血管障害(脳梗塞や脳出血など)や脊髄損傷、四肢の切断などの、いわゆる後天的な障害の場合は、一定の治療とリハビリテーション過程(理学療法(以下、PT)、作業療法(以下、OT)など)を経た後に、リハビリテーションセンターや障害者スポーツセンターのようなところで開始するのが一般的である。

横浜市においても、この状況に大きな相違はないが、より早い段階からスポーツの導入を図ることができれば、自宅での閉じこもりによる廃用性の体力低下や、機能の低下などの悪循環を未然に防ぐことができると考え、急性期から回復期を担う病院内でのスポーツ導入を試みた。

そこで、以下では関連する病院や横浜リハセンター、横浜ラポールなどが連携して進めたこの取り組みについて紹介し、新しいチャレンジについても報告する。

2 取り組みの実際

1.横浜市立脳血管医療センターとの連携

横浜市立脳血管医療センター(以下、脳血管センター)は、急性期から回復期を担う、横浜市内における脳血管障害専門の病院である。横浜リハセンターや横浜ラポールでは、さまざまな形で脳血管センターと連携しているが、その典型例は、急性期・回復期に脳血管センターで治療・訓練を行なったケースが、その後、横浜リハセンターや横浜ラポールの利用者となり、生活期(=維持期)のリハビリテーションやスポーツ活動につながることであろう。

この際、PTやOT等のプログラムは、当然、脳血管センターでも実施されているので、横浜リハセンターへも比較的スムーズに引き継がれる。

一方、スポーツ活動の場合は、横浜リハセンターや横浜ラポールで初めて導入することとなるため、必ずしもスムーズに開始できるという保証はなく、むしろ一定程度、期間が空いてしまうことの方が多い。

もちろん、対象者の障害状況やリハビリテーションの進展具合によっては、PTやOTの訓練が十分進んでからスポーツを導入する方が良い場合もあり、スポーツ開始までの期間が短ければそれで良い、ということにはならない。しかしながら、対象者によっては、比較的早くからスポーツ活動を始められる場合もある、と考えられる。

そこで、我々は、脳血管センターのPT部門と連携し、同センターに入院中の対象者のうち、PTの判断で、スポーツ活動の導入が望ましいと評価される者について、横浜ラポールの指導員の出張指導による、スポーツ導入を試みることとした。

2.当初の試み

具体的な取り組みは、2004年10月ごろより開始した。事前に、脳血管センターのPTと横浜ラポールのスポーツ指導員が内容を検討し、病棟入院中のPTプログラムとして、週1回、約40分で、ボッチャ系の軽スポーツ(ボッチャの用具を利用した横浜ラポールオリジナルの種目)やグラウンドゴルフを実施している(図1および図2)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図1・図2はウェブには掲載しておりません。

参加者の意見を聞くと、「楽しくて良いと思う」「他の患者と競争ができて面白い」が大半を占めた。また、担当PTからは、「明るく前向きになった」「意欲的になった」「本人の自信づけになった」など精神面の変化のほか、「独歩のきっかけになった」「自信を持ったことにより応用動作能力が向上した」といった身体面の変化もあげられた3)

一方、横浜ラポールや横浜リハセンターのプログラムへスムーズに移行したかどうかについては、十分に評価し得なかった。というのも、脳血管センターでスポーツプログラムに参加した対象者のすべてが横浜ラポールや横浜リハセンターの利用者となる訳ではなく、我々との接点がないまま、地域生活へ戻る場合もあるからである。

とはいえ、脳血管センターから我々のプログラムへつながったケースにおいては、ボッチャ系軽スポーツ、グラウンドゴルフを問わず、すでに経験してきていることのメリットは大きく、以前と比べて、より速やかにスポーツ活動へつながっているので、その意味では、当初の狙いは果たされている、と言えよう。

3.新しいチャレンジ

前述のように、当初は脳血管センターを退院後に、スムーズにスポーツ活動を開始することを目的としていたため、対象者の多くは退院が近づいてきた方々であった。発症から間もない場合は、急性期と回復期におけるPTやOTの訓練が主体となっており、その後、対象の状況に応じてスポーツを試みる、という流れである。

ところで、スポーツ活動の持つ「ダイナミックな動きの誘発」「楽しい活動」といった特徴を活(い)かすことにより、より早い段階でのPT訓練的なアプローチにおいても有効ではないか、という点が議論となった。これを踏まえ、脳血管センターのPT部門と横浜ラポールのスポーツ部門が検討を重ね、新たなチャレンジとして卓球を実施することとした。

このチャレンジでは、発症からの期間が以前の対象者と比べて短いことから、立位バランスや歩行の安定性なども、まだ十分獲得できていない段階での活動であり、安全面への配慮が特に重要なポイントとなる。

卓球は、台が前面にあるため、事実上前方への転倒がありえないこと、広く国内で行われているので、対象者にとってもなじみやすい種目であること、横浜ラポールでの経験から、バランスなどの悪い方にも、安全な指導方法がある程度確立していることなどが、種目選択の理由であった。

さて、2011年度と2012年度の2年間にわたって、脳血管センターのPTと横浜ラポールのスポーツ指導員が協力しながら卓球を指導した結果、卓球に参加しなかった対象者と比べて立位バランスや、歩行能力の向上に効果のあることが示唆された4)(図3)。横浜ラポールとしても、普段は対象とならないような時期の対象者に関わることで、スポーツ指導員のスキルアップにつながるなど、大変良い機会となっている5)
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図3はウェブには掲載しておりません。

3 まとめ

横浜市において、脳血管センターと横浜ラポールが中心に連携しながら進めてきた、病院内におけるスポーツ活動の取り組みを報告した。当初は、退院後のスムーズなスポーツ活動の導入を想定したプログラムであったが、近年はより早い段階から、PT訓練の一部としてのアプローチも行い、一定の成果をあげてきた。

このように、関連する組織や施設などがお互いの専門性を理解しながら役割分担を行い、有効なプログラムを開発、実施していくことは、地域でのリハビリテーション推進や社会参加の機会の増加につながるので、今後もさまざまな形で検討し、取り組んでいきたい、と考えている。

(たがわごうた 障害者スポーツ文化センター横浜ラポール スポーツ事業課指導担当課長)


【参考文献等】

1)田川豪太:障害者スポーツ、上田敏(監)、伊藤利之ほか(編):標準リハビリテーション医学第3版、p.242―247、医学書院、2012年

2)田川豪太:脳卒中患者の体力評価とスポーツ指導のポイント、理学療法ジャーナル、第33巻、第1号、p.29―34、医学書院、1999年

3)田川豪太:地域で展開するリハビリテーション・スポーツ 第4回、地域リハビリテーション、第2巻、第4号、p.367―370、三輪書店、2007年

4)北川敦子ほか:脳卒中患者に対する卓球を用いた立位訓練の効果、第30回神奈川県理学療法士学会、パシフィコ横浜(会議センター)、2013年3月3日

5)加藤美穂ほか:回復期脳血管患者への卓球指導の試み、第74回神奈川リハビリテーション研究会、横浜市立大学福浦キャンパスヘボンホール、2013年3月16日