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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年9月号

日本財団における障害者支援活動

相澤佳余

本稿では、日本財団における助成活動について、特に障害分野の支援を中心に、その活動の経緯、特色、現在の状況、今後の展望等を概括する。

支援活動の経緯

日本財団は、1962年10月に財団法人日本船舶振興会として設立された(1996年から日本財団を通称として使用、2011年に公益財団法人取得とともに正式名称となる)。当初は民法第34条に基づき運輸省(現・国土交通省)の監督と、モーターボート競走法の規制を受ける立場であり、公営競技の資金という性格上、該当する分野を所轄する省庁(障害分野であれば厚生労働省)の影響を強く受ける形で助成事業を開始した。

ご存知のとおり、日本財団は、福祉分野のみならず、文化芸術、教育、スポーツ、海洋教育、海洋環境保全、国際協力等多岐にわたる支援を行なっている組織であるが、障害者支援の分野においては、1963年に身体障害者授産施設の建設への助成を皮切りに、翌年には重度心身障害児福祉事業への助成、1969年には精神障害者社会復帰施設への助成を開始する等知的障害を含め、草創期においては、特に入所施設整備に注力した支援を展開してきた。

支援活動の特色

前述のとおり行政の影響を強く受ける歴史の中で、日本財団は民間組織としての自らの立場を意識し、民間資金としての有効活用を思考してきた。そして、少子高齢化の到来で公的サービスが縮小傾向にあるなかで、「民が民を支える社会の実現」を理念に掲げるに至った。この理念に基づき、既存の価値観にとらわれない視点を持って、社会の変化の兆しや社会課題を発見し、それを解決するような先駆的・実験的な支援事業を実施することで、社会をより良く変えていこうという方針を立てている。

具体的には、1980年代以降ノーマライゼーションの理念の浸透に伴い、施設から在宅へという日本の福祉政策の大きな転換のなかで、日本財団は、地域福祉を推進することで、障害の有無や年齢にかかわらず、すべての人々が地域で豊かに暮らす社会の実現を目指し、地域との結びつきを重視する事業を展開している。

主な事例としては、1994年から実施している福祉車両の配備がある。地域での暮らしに欠かせない「足」や障害者が働く「場」として、現在までに約3万台を配備している。また、それをソフト面から補完するものとして、福祉有償運送のガイドラインが国から提示されるよう支援した。

もう一つの事例としては、街の中の空き店舗や空き民家を施設へ生かす改修事業である。2003年の支援費制度の施行により、入所施設から地域の小規模施設へ移行する利用者が急増したことを受け、「もったいないをカタチに」をキャッチフレーズに、使われなくなった既存の建物を改修して住み慣れた地域内に集える福祉拠点を整備する取り組みである。2004年から2011年までにおよそ2300件余を支援した。

支援活動の現状

この流れは現在も継続している。現在特に力を入れているものとして、改修整備の一環としてのアール・ブリュッド美術館の整備を挙げる。街の中にある古民家や蔵をリフォームして開設したアール・ブリュッド美術館は、滋賀県近江八幡市をはじめとし、これまでに4館が誕生、来年には福島県猪苗代町にもオープン予定である。この美術館の整備にあたり、障害の有無を超えた豊かな才能を広く理解してもらうため、福祉分野のみならず、美術・法律・建築等さまざまな分野の専門家の意見を取り入れたガイドラインを策定した。

また、障害者の就労支援の一環として2009年から「真心絶品(まごころぜっぴん)」事業に取り組んでいる。これは障害福祉サービス事業所で、障害者が製造した製品の中から優れたものだけを厳選して、その魅力を多くの人に伝えることを目的としている。一定の基準を満たした製品を認定し、市場に広める支援を行う。障害者が心を込めて真面目(まじめ)に作った「真心絶品」を、旧態依然とした「授産品」に代わる新しい呼び名として広めたい。

今後に向かって

現在から今後にかけて注力していきたい事業として、地域福祉を支える若手の人材育成がある。介護従事者が使い捨てられる現状を改善し、特定の領域に特化しないユニバーサルな街づくりに貢献できるような若い力を育成していくことが必要と考えている。

今後も日本財団は、今、どこで何が最も必要とされているのかを見極め、そのニーズに対して重点的に支援を行い、社会に新たな活力を生み出していくことを目指していきたい。

(あいざわかよ 日本財団 公益・ボランティア支援グループ チームリーダー (福祉チーム兼アール・ブリュッドチーム))