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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年10月号

情報アクセシビリティのさらなる推進を

全日本ろうあ連盟

第2次障害者基本計画(2003年度~2012年度)では、聴覚障害者関係は情報・コミュニケーションの基本方針として、施策の基本的方向に「1.情報バリアフリー化の推進、2.社会参加を支援する情報通信システムの開発・普及、3.情報提供の充実、4.コミュニケーション支援体制の充実」のみが記されていました。

また、他分野においても「1.聴覚障害者に対する防災や防犯対策に緊急通報、ファクス、Eメール等の緊急通信体制の促進、2.手話のできる警察官の交番等への配慮」という施策のみであり、基本計画の文中に「手話」の用語はたった3か所、「手話通訳」も1か所のみの記載という状況でした。

この第2次障害者基本計画策定から今日までどのような変化があったか、触れたいと思います。

2006年に採択された国連・障害者権利条約では第2条に、「手話は言語」という条文が入ったことをはじめ、「改正障害者基本法」第4条では、手話を言語として規定し、コミュニケーション手段の選択の機会の確保と拡大、意思疎通を仲介する者の養成と派遣について明記される等の成果を出すことができました。この改正障害者基本法の附帯決議(衆議院)では、以下のような内容が記されています。

「国及び地方公共団体は、視覚障害者、聴覚障害者その他の意思疎通に困難がある障害者に対して、その者にとって最も適当な言語(手話を含む。)その他の意思疎通のための手段の習得を図るために必要な施策を講ずること。」

「国は、この法律による改正後の障害者基本法の施行の状況等を勘案し、救済の仕組みを含む障害を理由とする差別の禁止に関する制度、障害者に係る情報コミュニケーションに関する制度及び難病対策に関する制度について検討を加え、その結果に基づいて、法制の整備その他の必要な措置を講ずること。」

この附帯決議には、障害者の「情報・コミュニケーション」保障制度について検討を行う旨が示されており、これまであまり語られることのなかった「情報・コミュニケーション」の権利性が明確に打ち出された画期的なものでした。

全日本ろうあ連盟(以下「ろうあ連盟」)は、障害者政策委員会において、「情報・コミュニケーション」分野での障害者政策の遅れを指摘し、「情報アクセシビリティ」はインクルーシブ社会にとって非常に重要な概念であり、障害者の情報アクセスの向上を図る重要性について障害者政策委員会全体で共有できるよう努めてきました。

同時に、ろうあ連盟をはじめ日本盲人会連合、全日本難聴者・中途失聴者団体連合会、全国盲ろう者協会という、情報・コミュニケーションに障害をもつ当事者4団体で独自に会合を重ねてきました。この4団体で2013年3月20日に、東京で「情報・コミュニケーションシンポジウム」を開催し、情報保障の重要性と共通認識、情報・コミュニケーション保障を制度的に実現させることを訴えました。

前記シンポジウムにおいて、石川准静岡県立大学教授(障害者政策委員会委員長)は「障害者のエンパワメントは、情報と知識へのアクセスの保障なしには成し得ない」と話されています。

いつでも、どこでも、誰からでも自由に情報を受け取り、情報を発信すること。コミュニケーションの方法や手段を、自らの意思で自由に選択できることは、誰にとっても当然の権利なのですが、この権利の重要性はなかなか理解されません。このことが、聴覚障害者の社会参加を阻害する要因となっていることに気づかれない状況です。

今回新しく示された第3次基本計画では、当初「情報バリアフリー」と記載されていた文言を、議論の結果、「情報アクセシビリティ」に修正することができました。「アクセシビリティ」という概念はまだ日本ではなじみが薄く、一見すると難しく感じる言葉ですが、今日の情報社会では、重要な概念です。その言葉を基本計画に盛り込めたことは大きな意義があり、今後「アクセシビリティ」という概念を軸に据え、さまざまな法の整備を進めていく必要があります。

また、この基本計画の策定の前に、障害者差別解消法が成立しています。差別解消法に基づき進められていく障害者施策や政策を審議する国・地方の審議会や委員会の選任の際には、情報・コミュニケーションに障害をもつ当事者を必ず含めることを強く訴えていく必要があります。「障害当事者の代表」ではなく、それぞれの分野で、まんべんなく障害当事者の声が反映されるようにすべきです。そういった委員会構成を取れない場合は、まさに不均等待遇と合理的配慮の不提供のいずれかであると言えるのではないでしょうか。

さらに、障害者総合支援法の施行後3年を目途として「手話通訳等を行う者の派遣その他の聴覚、言語機能その他の障害のため意思疎通を図ることに支障がある障害者等に対する支援の在り方」(同法附則第3条)と規定されています。来年から本格的検討が開始される見込みですが、障害者権利条約の理念に基づき、聴覚障害者の自立と社会参加の支援という観点に立ち論議していきたいと思います。

最後になりますが、こうした流れのなか、改正障害者基本法に示された「言語に手話を含む」という理念が少しずつ地域にも根付いてきている例を紹介したいと思います。

鳥取県では「鳥取県手話言語条例」が、北海道石狩市でも「石狩市手話言語条例」の取り組みが進んでいます。これらは、国が示した理念を地域で体現する模範です。私たちもこの流れを逃さず、11月22日から24日までの3日間、秋葉原で「情報アクセシビリティ・フォーラム」および「手話言語法フォーラム」を開催して、国民の中に「情報アクセシビリティと手話」という考えを浸透させていきたいと思います。