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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年10月号

社会情勢に合わせた機動的な基本計画を求む
―評価と課題―

全日本手をつなぐ育成会

当会としては、この第3次障害者基本計画がまとめられたプロセスについて、まず評価したい。

平成23(2011)年に障害者基本法が改正され、障がい者制度改革推進会議の後継として内閣府に障害者政策委員会が設けられた。障がい者制度改革推進会議およびその下に設けられた総合福祉部会においては、制度の持続可能性を重要視しない意見等もあり、各委員およびその所属団体等のスタンスの違いなどからかみ合わない議論も多かった。それでもなお、そうした議論の中から報告や答申がなされ、障害者基本法や障害者総合支援法に結実した。その過程に数々の紛糾があり、その結果を受け入れないとの意見も一部に見られた。

今回の障害者政策委員会での議論においても、委員による意見の相違は当初から見られたが、石川准委員長の調整により、各委員の意見が取り入れられるかたちで第3次障害者基本計画がまとめられた。立場を異にするものが議論し、現実的な成案を練っていく過程として今回はより成熟したものになったと考えるとともに、積極的にこれを評価したい。

「3.教育、文化芸術活動・スポーツ等」のうち、インクルーシブ教育システムの構築については、すでに本年9月より「学校教育法施行令の一部を改正する政令」が施行されているが、本人・保護者の意向を踏まえた就学先の決定という点を明示し、かつ「多様な学びの場」の充実を掲げている点は、現実的な改善の道筋を示すものとして積極的に考えたい。

「4.雇用・就業、経済的自立の支援」については、障害者雇用の促進および就労支援の充実に関して、特に、特例子会社の活用や使用者による障害者虐待の防止についての言及を評価したい。特に特例子会社については、総合福祉部会等の議論において批判的な意見も見られたが、知的障害のある人にとっては貴重な就労の場であり、かつ貴重な社会参加の場でもある。こうした仕組みによって、知的障害のある人が一般企業の中で働き、本人だけでなく職場環境にもよい影響を与えている所もある。職場での合理的配慮の提供状況なども検討しつつ、知的障害のある人の働く場が増えていくことを期待したい。

「6.情報アクセシビリティ」については、知的障害のある人に必要な支援や具体的な配慮について言及がなく、今後の進展が見通せない点は評価できない。知的障害のある人の情報アクセシビリティについては研究が進んでいないこともあり、その重要性について社会的理解が得られていない。一方で、知的障害のある人の地域移行・社会参加は進んでおり、情報に対する需要は年々高まっている。

前述の障がい者制度改革推進会議においても、資料にルビを振るなど知的障害をもつ委員向けに配慮がなされていたが、あくまで試行的であり、その有効性については疑問を持たざるを得ない。また、その後の検証もなされていない。そのような現状であればこそ、一般的な情報についてどうすればわかりやすく伝えることができるのかといった観点からの取り組みに注力すべきであるが、そうした記述が「絵記号等の普及及び利用の促進」以外に持たれなかったことについては、当会としては評価し得ない。

障害者基本法の改正によって、「7.安全・安心(防災、震災からの復興、防犯、消費者保護)」「8.差別の解消及び権利擁護の推進」「9.行政サービス等における配慮」が設けられたことは、積極的に評価したい。特に「差別の解消及び権利擁護の推進」については、本年制定された障害者差別解消法の3年後の施行に向けた体制づくりに加え、障害者虐待防止法における養護者支援、意志決定支援のあり方の検討も含まれ、非常に意欲的であると感じられた。「当事者等により実施される障害者の権利擁護のための取組を支援」については、障害者虐待防止の取り組みを進める当会としても心強く感じる。合わせて「行政サービス等における配慮」の知的障害によりコミュニケーションに困難を抱える被疑者等に対する取り調べの可視化や、累犯障害者等の円滑な社会復帰、国家資格等の欠格条項見直しなどの項目についても、権利擁護の視点から積極的に評価したい。

従来10年だった計画期間を5年に短縮し、さらに、基本計画の実施状況について障害者政策委員会がモニタリングを行なっていくことに関しては、大きな期待を寄せるところである。期間短縮により、基本計画を有名無実化させることなく、社会情勢に合わせてより機動的に計画を見直し、取り組みの重心をシフトしていけると考える。

障害者基本計画関連成果目標(*)については、計画の推進体制がまとめられており、数値的な成果目標が掲げられている。この仕組みを活用する際には、それぞれの項目ごとの数値目標に着目しすぎることなく、施策の方向性(トレンド)を確認することが肝要だろう。

あわせて、障害者政策委員会でモニタリングとして施策をチェックする際には、俯瞰(ふかん)した視点で「森」全体の調整を図ることが重要で、各省庁との連携・調整の視点で前向きに提起することが真に計画の推進体制の強化につながると考える。


*第7回障害者政策委員会(平成25年8月9日)資料1「障害者基本計画(原案(修正版))」(http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/seisaku_iinkai/k_7/pdf/s1.pdf)を参照のこと。