「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年10月号
精神障害者とその家族が地域で普通に暮らすために
全国精神保健福祉会連合会
1 家族の現状
当会では全国の家族会を通して、家族調査(平成22年度)をして、精神障害者を支える家族の現状を調べ、家族のニーズを以下の7つの提言にまとめた。これらが今回の「障害者基本計画」にいかに取り組まれているかを考え、今後の課題を考えてみたい。
1.訪問型の支援・治療サービスの実現:本人が自発的に受診できない場合や病状が悪くなった時の訪問による治療、また、サービスにつながらない本人に働きかける福祉的な訪問支援。
2.24時間365日の相談支援体制の実現:夜間、緊急時の対応は勿論、日々の対応、生活の見通しなど、日常的な相談が気軽にできるところが必要。
3.本人の希望に沿った個別支援体制の確立:包括的な回復志向の支援を必要としており、復職、復学等に向けた個別支援体制の構築。
4.利用者中心の医療の実現:本人・家族が医療の主体として尊重され、納得のいく医療が受けられること。
5.家族に対する適切な情報提供:病気の初期段階から、病気に対する正確な知識、対応方法、回復の見通しについて情報が提供されること。
6.家族自身の身体的・精神的健康の保障:経済的、身体的、精神的な負担の中、本人の世話をしている家族、家庭への支援が必要。
7.家族自身の就労や経済的な保障:本人の介護などで、家族は就労の機会を失い、不安な生活を強いられる場合もある。所得保障として、本人の就労の機会の充実を願う。
2 第3次「障害者基本計画」の評価
評価できること(○)と今後の課題(△)
●訪問型の支援体制:在宅サービスの充実
○個々の障害者の実態に応じて、在宅の障害者の日常生活、社会生活を支援するための在宅サービスの量的・質的充実を図る。
△精神障害者の場合、福祉サービスだけでなく医療とのつながりが必要で、往診、訪問看護等の提供と、保健・福祉との連携の仕組みをつくり、訪問型の相談支援も不可欠である。
●相談支援体制:医療・保健・福祉の連携
○生活支援として、障害者が自らの決定に基づき、身近な地域で、障害種別に対応する総合的な体制の整備を図る。特に、人材の育成・確保では、医師、看護職や、保健・福祉事業従事者の教育の充実と資質の向上を図り、連携を図る。
△精神障害者の場合、症状が安定せず、急に症状が悪化することがあることを考え、24時間対応できる体制の構築を考えなくてはならない。
●個別支援体制
○障害者個々の状況、サービス利用の意向、家族の状況を踏まえ、サービス利用計画案を作成する。
△サービス利用に当たっては、支援区分によって決められるのではなく、本人の必要な支援が必要な時に受けられるような柔軟なあり方が検討されるべきと考える。
●本人中心の医療
○精神障害者への医療の提供・支援をできるだけ地域で行い、入院者の早期退院・地域移行を推進し、社会的入院を解消するために地域の社会資源を整備する。
○精神医療における人権を確保するために、都道府県および指定都市に対し、その機能の充実、適正化を促す。
△人材の育成に関しては、本人に寄り添い、本人のニーズを受け止められるような人材の育成が必要である。
●家族への情報提供
○家族とともに暮らす障害者について情報提供や相談支援により、その家庭や家族を支援する。
△思いもよらぬ発病で、本人、家族は動転してしまう。病気の正しい理解、対応の仕方、回復に向けての支援等、丁寧な情報の提供が必要である。
●家族支援
△精神障害者は、社会資源が少なくやむなく家族と同居している人が多い。日常の世話から経済的援助まで家族がしている。家族一人ひとりが困難な問題を抱えている。家庭全体を支援する仕組みの構築を図ってほしい。
●経済的な保障:所得保障
○家族が最も望むことは、所得保障である。今回「障害者雇用促進法」の改正で、精神障害者の雇用の義務化が方向づけられたことは、精神障害者の社会参加を促進させるものと考える。
△受け入れ先がまだまだ広がらない。今後の指針において、精神障害者の就労については、職場定着、合理的配慮が適切に行われるような制度が必要。
3 精神障害者と家族の状況を変えるために:偏見のない社会の実現
今回の「障害者基本計画」策定に関しては、「障害者権利条約」の批准に向けて行われた制度改革の進展を踏まえて取りまとめられた。
精神障害者に関することは、少しずつではあるが改善されてきている。しかし、一般社会の偏見は根強く、いまだに隠れるように暮らしている本人と家族は多い。偏見をなくすための具体的なことは、なかなか論じられていない。精神疾患が「5大疾病」に加えられたことは、だれでもなりえる病気ということになる。地域社会や国民がもっと精神疾患に関心を持ち、理解することで偏見はなくなっていく。
今回の基本計画では、障害者が必要な支援を受けながら、自らの決定に基づき社会のあらゆる活動に参加する主体としてとらえている。この理念に基づく計画が実施され、精神障害者の社会参加が促進することにより国民の理解が進むと考えられる。これが偏見をなくすことにつながると期待している。