音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年10月号

第3次障害者基本計画の評価

全日本難聴者・中途失聴者団体連合会

はじめに

新たな障害者基本計画は、改正された障害者基本法の規定により障害者政策委員会(以下、政策委員会)の意見を聴いて策定されることとなっており、事実6回の政策委員会と6回の小委員会が障害者基本計画の議論に費やされた。もう少し具体的にいえば、小委員会の議論を踏まえて昨年12月17日、政策委員会は「新「障害者基本計画」に関する障害者政策委員会の意見」を取りまとめた。これを受けて、今年7月22日の政策委員会に政府原案が提出され、続く8月9日の政策委員会で基本計画案が承認されたという流れである。

障害者政策委員会と障害者基本計画

過去の議論であるが、障がい者制度改革推進会議で障害者基本法の改正を話しあったおり、政策委員会の役割は障害者基本計画に関連する事項にとどまるのかという議論があった。議論の背景としては、障害に係る問題・障害者の抱える課題解決における障害者基本計画の役割についての認識のずれ、不全感があったし、政策委員会の役割が障害者基本計画に関する事項に限定されてよいのかという構成員の思いもあった。その時の議論は、結果的に障害者基本法第32条第2項の規定となり、政策委員会は「1.障害者基本計画に関し、第11条第4項に規定する事項を処理すること。2.前号に規定する事項に関し、調査審議し、必要があると認めるときは、内閣総理大臣又は関係各大臣に対し、意見を述べること。3.障害者基本計画の実施状況を監視し、必要があると認めるときは、内閣総理大臣又は内閣総理大臣を通じて関係各大臣に勧告すること。」となった。

障害者基本計画は行政府の施策に関する計画であり、閣議決定を経て実施に移る。政策委員会の役割は障害者基本法第32条の範囲であり、その役割を十全に果たせば、「障害に係る問題・障害者の抱える課題解決」に大きく寄与できるはずであり、政策委員会の役割はそこにとどまる、という考えもあり得る。

策定された障害者基本計画の構成

策定された障害者基本計画は対象期間を「概ね5年間、平成25(2013)年から29(2017)年」としている。従来の計画が期間を10年とし、計画目標を中間時に見直してきたことに比べれば、計画期間をショートレンジにし、施策評価に重点を置いたのは評価されてよい。

障害者基本計画の構成は、1 障害者基本計画(第3次)について、2 基本的な考え方、3 分野別施策の基本的方向、4 推進体制となっており、別表として障害者基本計画関連成果目標が付けられている。「基本的な考え方」には、障害者基本法の規定を受けた基本理念、基本原則に加えて「各分野に共通する横断的視点」が述べられている。第2次障害者基本計画の横断的視点を踏襲しながらも、「当事者本位」、「障害特性等に配慮した支援」、「アクセシビリティ」、「当事者の意見の尊重」などのフレーズが使用され、障害者制度改革の流れを反映した書きぶりとなっている。

分野別施策は、障害者基本法が15の個別分野を挙げたのに対して、基本計画では分野が10に絞られている。また、「差別の解消及び権利擁護の推進」は分野横断的な取り上げ方ではなく、10の個別分野のひとつとなっている。そして、各分野は個別課題に細分されて施策の記述が続き、施策の数値目標が別表にまとめられている。

障害者基本計画の最後は「推進体制」となっており、周知活動・意識向上などを加え、「進捗状況の管理及び評価」、「法制的整備」、「調査研究及び情報提供」の記述があって、PDACのサイクルを回し、計画をダイナミックな、スパイラルなものにしようとする締めくくりとなっている。

評価に代えて

障害者基本計画策定に当たって、政策委員会の議論は障害問題全般のバランスをとることが重要と考えていた。計画は、最終的には限られた社会資源をどのように配分するかに係る。それで、基本計画に関する議論では、大げさにいえば時間的・空間的な俯瞰も必要と考えていた。個別施策の成果目標の設定については、障害分野に充てられるべき原資の理想的な配分目標、実現可能な目標、ストレッチした目標についてのせめぎ合いがあるはずで、政策委員会が意見として出した施策提案についての、行政側の数値を挙げた回答がほしかったが、レシピに類する資料の提出はなく、ほとんど完成形のメニューが提出された。メニューに載せる料理名は変えることができたとしても、材料・作り方を変えることなしには料理の味も見栄えも変わらない。

中途失聴・難聴者の抱える個別課題をどの程度基本計画に書き込むことができるか、何点かの課題を政策委員会に出した。書き込まれた課題もあるが、再三主張した「電話リレーサービスの事業化検討」と「文字表示における音声認識技術の開発推進」は注記に記述が残っただけで、本文に課題の解決の施策が書かれることはなかった。「文字表示における音声認識技術」などは、障害種別を超えた、共生社会の基盤技術と考えて主張を繰り返したが、議論が深まらず残念な思いをしている。

今後、基本計画の実施状況は政策委員会が監視していくことになり、必要があれば政府に勧告することも可能となっている。ともかくも出来あがった基本計画があり、それを使って、政策委員会が主導権をとって基本計画の実施状況を監視し、課題に対する取り組みを省庁に促していくこと。それができれば、策定時の不全感は少しでも癒せるのではないかと今は考えている。