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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年10月号

文学やアートにおける日本の文化史

障害のある人のコミュニケーションとIT支援機器

猿渡達明

はじめに

私は現在、東京都文京区に住み、障害は脳性マヒと注意欠陥・多動性障害(ADHD)をもっています。仕事は、自立生活センターの当事者スタッフ、文京区地域福祉推進協議会の地域福祉保健計画に関する審議会の委員、小中学校の総合学習の講師もしています。

私が目指しているのは、共生社会です。その実現には、コミュニケーションが必須です。しかし、障害のある人にとって、障害が重度であればなおのことコミュニケーションほど難しいものはありません。IT特に、パソコンの活用で、障害のある人が自己表現したり、それによって自己実現できたり、とコミュニケーションできる環境は整いつつありますが、その恩恵を受けていない、利用できない、あることさえ知らない、という方が多いことも事実です。今回、私の関係する方が、重い障害がありながら、どのようにITを使いこなして自分らしく地域で生きているのか、アナログ方法も含め各人のコミュニケーションをご紹介します。そして皆さんは、ディズニー映画「レミーのおいしいレストラン」(米、2007)をご存じですか。私はこの映画を見て、コミュニケーションの極意ともいうべきヒント(?)を得ました。それも最後にご紹介します。

私とパソコンとの出合い

もともとパソコンに興味があったものの、アニメの「シティーハンター」を見た時に衝撃が走りました。曲はGet Wild。この曲はTM NETWORKの小室哲哉さんがシンセサイザーを弾いていました。パソコンとシンセサイザーがつながって、プログラムが走り、いろいろな音が走り…パソコンの打ち込みで音を出します。今でも大ファンでライブにはよく行きました。

都立養護学校の高等部に入学した時、パソコンの授業とクラブがあり、授業の中でBASICを習っていました。脳性マヒや筋ジスの友達と授業を受けていた中で、AppleのマッキントッシュやNECのPC98シリーズやMSXなどとともにパソパルPCやトーキングエイド、ワープロと出合いました。

パソコンの支援ソフトとして、以前はSKLというシフトロックプログラムやマウス操作を簡単にするチューチューマウスを使用し、音(言葉)のでない時に、かなトークを使っています。腕の緊張が強い時は、音声入力ソフトDragon Dietationを使っています。今は、主にトーキングエイドfor iPadやiPhone、iPad miniを使用し、Dropboxでデータ共有しています。

各人のPC使用とコミュニケーション

○Kさん

もう20年ほど、オペレートナビを使っている彼は、ピンタッチスイッチとスイッチを動かすプログラムとスイッチコネクタを使い、オートスキャンパソコンで文字入力をしています。以前、神奈川県の情報バリアフリー事業でテレビ神奈川の取材を受けました。

Kさんの課題は、パソコンに接続する手間と、1行の文章を書くのに20分程度かかること。また、OSがバージョンアップするたびにソフトの対応にもお金がかかること。行政から補助がでるといいと言っています。

○Sさん

彼は、二つ折りの大きい文字盤を指して、介助者や周りにいる人に文字を読んでもらってコミュニケーションを取っています。パソコンを使う時は、文字盤風のキーボードで入力しています。キーボードは本人仕様に作ってもらいました。口述筆記で介助者に頼むのと、時間がかかっても自分が思ったとおりに入力するのとどちらがいいのだろうかと悩んでいます。

○Aさん

彼は言語障害が重いので、慣れている人は、彼のジェスチャーや言葉でのコミュニケーションは可能なのですが、緊張が強いと難しい時もあります。でも、彼なりの工夫がいっぱいあります。一つは、話しても伝わりにくい言葉、本人がよく行く(行きたい)場所などは、仲間や職員との協力でカードを作成しています。身体の緊張のほぐし方や介助の仕方や注意点などは、言葉やジェスチャーで相手に伝えています。

○Hさん

自分で、トーコロ情報処理センターを探し、在宅講習し、情報処理第2種資格などを取得し、テクノツール(株)の在宅勤務で14年になります。仕事は、ソフトウェアの開発と修正、バージョンアップです。Skypeでミーティングを行なっています。普段は、左手の中指一本で入力しています。仕事をしていてよかったと思うのは、自分でお金を稼いで好きなことに使えること、趣味が広がったことだそうです。Hさんは、当事者目線でのアイデアがあるので会社でも重宝されています。

○Uさん

脳性マヒのUさんは、自称「言葉でつくる料理人」。最初は移動販売でシフォンケーキやカレーを売っていました。電動車いすに写真入りの大きな看板を掲げ、大きな保冷バッグを付けて走り回っています。彼は、声をかけられるとお客さんに商品をとってもらい会計もお客さんにやってもらいます。言語障害が重いのですが、一人で出かけ、最初はお客さんもUさんの言葉がよくわからなかったが、今では大丈夫だそうです。世田谷の三軒茶屋で、障害のある人とない人が交流できる場所として「カフェゆうじ屋」を昨年オープンしました。月に数回、ライブを開いたり、総合学習の講師として活動したり、地域のお祭りに出店したりと地域の人と関わりを持っています。

○Sさん

最近知り合いになった世田谷区に住むSさんは、頭で文章を構成し介助者が文字にします。気になった人に詩を書いて渡して介助者としてゲットしたり、介助者と「脳性麻痺号」というバンドを組み、作詞、ボーカル担当もしています。「歌なら歌詞を通じてバリアフリーを訴えられるのでないか」とイベントなどに出演しています。

以前、福祉機器展に行った時、OAKというソフトを実際に使わせてもらいました。それまでは、身体にスイッチをつけるか、スイッチを押すという操作が必要でしたが、このOAKはカメラで身体の動きを捉え、モーションヒストリーとキネクトのセンサーを利用し、身体の動かせる部分をスイッチにするというものです。Sさんには普段のコミュニケーションの取り方にもいい意味で感心させられています。

○知的障害のある人

知的障害のある人とのコミュニケーションは、言葉はわかっていても意味が通じないことも多く、よく聞き返されます。常にわかりやすく、的確に伝えること。難しい言葉をわかりやすい表現にしたり、カードや写真といった視覚的に訴える要素を大きくします。表情や身振り、手振りも重要な情報になります。

映画「レミーのおいしいレストラン」

内容を簡単に紹介すると、レミーはグルメなネズミ。リングイニはレミーのことを『リトル・シェフ』と呼ぶ。リングイニは料理ができなくてレストランで雑用係として働いていた。ある時、リングイニが大事なスープを台無しにしてしまった。レミーは思わずスープを作り直してしまうが、レミーの料理の腕前を目の当たりにした彼は、「二人で、パリ一番のシェフを目指すんだ!」と。そして、フランス料理界に大事件を巻き起こす…。

この映画を見て私は、介助者と生活する自分を重ね合わせていました。つまり、障害のある私たちの生活に介助者は必要不可欠です。介助者に何か手伝ってもらう時には細かく指示を出し、家事、洗濯、入浴、コミュニケーションの介助をしてもらいます。でも、介助者も初めてで、言葉も通じなかったりすると、介助する側も難しい。慣れるまで何回も繰り返します。私たち障害者も、生活をさらけ出すことになり大変です。

映画の中で、レミーは、リングイニに目隠しをして手の動かし方を特訓し、レミーの適格な指示によってリングイニが手を動かす。そして、料理が完成する…。こんな場面が、私たち障害者と介助者のコミュニケーションのヒント(?)になるな、と思ったところです。

さいごに

ITに関しては、コミュニケーション機器、意思伝達装置など、障害のある私たちがどこまで使えるか、が鍵になります。各人各様のそれぞれの障害にあった支援装置がソフトやハード面も含め求められます。今あるものを使いつつ、ユーザーと会社、それぞれが力を出し合い工夫を重ねていって、そして、できれば小学生の頃から身近にIT機器を使っていける環境が整えられたらと思います。私自身の体験を通して、もっと障害のある人に使いやすいコミュニケーション機器を発信していきたいと思っています。

(さるわたりたつあき)


いつも弁慶の七つ道具を電動車いすの前後に装備してぼくの所にやってくる猿渡君に、このコーナーへの登場を願った関係で、ぼくがコメントを添えることとなった。ここに紹介された人たちは、ジェスチャーやカードに視覚的工夫を凝らす人から、口述筆記にするか、当人が入力するかに悩む人、電動車いすでの販売でお客との呼吸を身に付けた人から、詩を渡した相手を介助者として確保するというしっかり者、体の動きそのものをスイッチとする者までいて、コミュニケーションはこんなにも幅のあるものだということが手に取るように分かるのだ。ディズニー映画の紹介では、IT機器がいかに素晴らしいものであっても、そこにコミュニケーションの相手との付き合い方や、的確な指示等のソフト面での大切さを暗示しているのだ。ITとアニメ、一見結びつきがないようで、猿渡君のような見方ができてこそ、アートや文化のコーナーを設けた意味も大きく開かれるのだ。(花田春兆)