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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年12月号

サイドイベントの報告

記録映画「生命のことづけ」、ニューヨークの空の下で
―「災害と障害者」をテーマに国連サイドイベント

藤井克徳

1 「生命のことづけ」ニューヨーク上映会のあらまし

日本障害フォーラム(JDF)が本年3月に製作したドキュメンタリー映画「生命のことづけ」(37分間)が、ニューヨークで上映された(2013年9月24日)。これは、国連総会「障害と開発に関するハイレベル会合」に関連して、国連が認知したサイドイベントの一環としてのスペシャルイベントとして開催したものである。会場はニューヨーク市立大学ハンター校のラン・リサイタルホールで、国連関連の催し物と並行したにもかかわらず、国連ら米国政府の要人や各国の外交員、日本政府の国連代表部、ニューヨーク市民、邦人など80人余の参加があった。

映画上映をメインに、前段は主催者挨拶(JDFおよび日本財団)や国連関係者からの挨拶や特別メッセージが続き、後段は日本(陸前高田市およびJDF)からの報告がなされた。最後に、短い時間ではあったが、フロアを交えてのディスカッションが行われ、映画への感想も寄せられた。2015年3月に日本での開催が予定されている「国連防災世界会議」に向けて、今回の上映会企画が弾みの一つとなったのではなかろうか。

なお、今回上映された「生命のことづけ」は、英語バージョン(吹き替え、字幕)を用いた。ニューヨークでの上映の3週間後には、中国語字幕バージョンで台湾にて上映会を開催している。今後とも、機会をみて海外での上映を進めていきたいが、今回のニューヨークでの上映企画は、海外上映の端緒の意味をもつものともなった。

以下、スペシャルイベントでの主催者挨拶、出席者(来賓)による挨拶とメッセージ、日本からの報告の概要を記すことにする(総合司会は、JDF事務局の原田潔さん)。

2 主催者挨拶

主催者を代表して、最初に日本財団の大野修一さんより、「障害者や高齢者はこの災害で非常に危険な状態にさらされました。しかしながら、適切に彼らを支援する十分な方法が取れませんでした。大変遺憾に思うのは、障害者の死亡率がすべての住民の死亡率の2倍だということです。私たちは国際的な場において、どのようにして障害者の災害におけるリスクを軽減するかについてのディスカッションを深めて、2015年に制定される新しいDRRのための国際的な枠組みであるHFA2が障害者を含むものであることを保障するために、関連する人々と一丸となって取り組んでいかなければなりません。今日のイベントが、ここにいらっしゃる人々の参加と支援により、これらの目標に寄与することを願っています」とあった。

次に、もう一方の主催者であるJDFを代表して長瀬修さんより「最初に、巨大地震、津波、原発事故に際してのみなさまの優しい心遣いに深く感謝します。2011年3月からJDFは被災障害者に最善のサポートをしてきました。この地震から二つの主な惨事が浮かび上がりました。一つ目は、被災地で障害者の死者が住民の死者の2倍であったことです。二つ目は、地域に住んでいる障害者の死者が、入所施設に住んでいる障害者に比べて高かったことです。『災害と障害者』は、私たちが優先する分野の一つです。後ほど、ワルストロムさんから出ると思いますが、被災地の一つである宮城県で、2015年3月にDRR会議のホストに日本がなるでしょう。開発と災害の二つのプロセスにおいて、JDFは世界中の友達と同僚に私たちの悲惨な教訓を共有したいと思います」とあった。

3 来賓挨拶と特別メッセージ

主催者挨拶のあと、3人の来賓挨拶、2人の特別メッセージが続いた。来賓挨拶は、新美 潤さん(外務省総合外交政策局参事官国連担当大使)、モシャラフ・ホセインさん(国際障害同盟(IDA))、アン・ホーカーさん(国際リハビリテーション協会(RI)前会長)の順で行われた。

特別メッセージの1人目は、マルガレータ・ワルストロムさん(国連事務総長代表―防災担当、兼国連国際防災戦略(UNISDR)ヘッド)で、特に強調したのは、「障害者の死亡率が2倍ということ、そして自宅で暮らしていた障害者の死亡率は、施設で暮らしていた障害者の死亡率よりも高いということを聞きました。私たちがこれらのことについて話し合う時、常にこの数字を使っています。このことがすべてを物語っているからです。国連防災世界会議が開催されるまでの18か月はとても重要になります。私たちは、『災害と障害者』をどう考えればいいのか、みなさまと対話を続けていきたいと思います。アクセシブルな社会は、回復力があると多くのフォーラムで言っているのを聞きました。また、社会が障害のある人のためにアクセシビリティを確保することが、社会をより強くするのだと思っています。これを、私たちは、すべての人のための目標にしたいと思います」であった。

2人目は伊東亜紀子さん(国連経済社会局(DESA)障害者権利条約事務局チーフ)で、「みなさんもご存じのように、障害者の国連のハイレベル会合が昨日(9月23日)開かれました。成果文章はこの会合で採択されました。ディスカッションを通してはっきりしてきたメッセージは、インクルージョンが命を救うということです。私たちの仕事のすべての側面は、命を守ることです。障害者から受け取ったメッセージに基づいて、命を守るために、私はここにいるすべての関係者と共にさらに取り組みを強めたいと思います」と述べた。

このあと、マーシー・ロス (アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁(FEMA)障害者担当部長)さんからのメッセージもあった。

4 基調報告と特別報告

一連の挨拶や特別メッセージを受けて、企画のメインである上映を挟んで基調報告と特別報告が行われた。

基調報告は筆者(藤井克徳、JDF幹事会議長)が担い、「鎮魂から復興へ向けて、たしかな足音が聞こえる一方で、原発事故を抱える福島では今なお震災からの出口が見つからず、他の被災地においても厳しい状況が続いています。被災地の障害者は、災害の前に戻るだけでは住みにくさが解消されるとは思っていません。復元ではなく新生をと主張しています。『障害者の死亡率が2倍』の背景を二つの点でみる必要があります。一つは、既存の防災政策が障害者には無力であったこと、今一つは社会や地域の標準値が障害者をないがしろに成り立っていたことです。天災の側面が大きかったことは事実ですが、合わせて、障害ゆえの不利益を被ったという点で人災という側面も忘れてはなりません。少なくとも、人災の部分は減じることができるはずです」と述べた。

このあと「生命のことづけ」が上映され、参加者全員がスクリーンに集中した。次いで、岩手県陸前高田市副市長の久保田崇さんが特別報告に立った。前半に生々しい被災状況をスライドで紹介し、「津波からの教訓として、1.障害者のための避難所を作るべきだということです。普段から設備の整った施設、供給品、介護士の配置を準備しておくべきです。2.映画でも言及されていましたが、緊急目的のための個人情報の開示です。日本では、個人情報保護法制が優先され、障害者の安否確認が進みませんでした。3.障害者の気質です。特に日本文化において、存在を人から隠そうとする心理があり、他人に援助を頼むのをためらいます。もっと率直に支援を求めてもいいと思います。陸前高田市の将来について、私たちは悲観していません。戸羽太市長が提唱している『ノーマライゼーションという言葉がいらないまちを』を目指して着実に歩んでいくことをお約束します」とコメントした。

5 結びにかえて

稿を閉じるにあたり、一言お礼を述べたい。今回の企画に際し、日米の多くの方々に多大な協力をいただいた。特に、渡辺暁里さん(故丸山一郎さんの長女)には米国との連絡調整の労をとっていただき、ニューヨーク在住のシャーマン・ゲスベンさんには会場の手配から当日の軽食の準備に至るまで全面的に支援をいただいた。また、記録については、日本障害者リハビリテーション協会の野村美佐子さんに担ってもらった。この場を借りて謝意を表したい。

(ふじいかつのり 日本障害フォーラム幹事会議長)