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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年12月号

1000字提言

病名による誤解に苦しむ患者たち

篠原三恵子

慢性疲労症候群という病名を聞いた時に、何を思い浮かべるだろうか。「慢性的に疲労が続いているのか」、「だったら休養すれば治るのではないか」と思われがちだ。慢性疲労症候群という病名によって、この病気の深刻さが矮小化され、「詐病」や心因性の病気であるかのように誤解され、患者たちは偏見と無理解に苦しんできた。この病気が疲労の病気であるかのような報道はいまだに続いており、患者たちの苦悩を大きくしている。実はこの病気は、1950年代から筋痛性脳脊髄炎として知られており、イギリスやカナダ、ヨーロッパでは筋痛性脳脊髄炎と呼ばれている。

この病気は、生活が著しく損なわれるほどの極度の疲労とともに、頭痛、微熱、筋肉痛、脱力感などの全身症状と、思考力・集中力低下などの神経認知機能障害などが長期にわたり継続し、社会生活が困難になる難病だ。世界保健機関の国際疾病分類において神経系疾患と分類されており、国際的に認められた診断基準が存在し、疾病概念が確立している。その主な病態は中枢神経系の機能異常や調節障害であり、通常ウィルス感染後に発症するというのが、欧米諸国における共通認識となっており、決して慢性疲労が重症化すると発症するわけではない。国内の患者は24~30万人と推定されている。

当法人では、寝たきりで何年も経管栄養に頼っている患者や、10年近くも専門医を受診することができずに死亡した患者がいることを把握している。

国際学会は、患者の約25%は寝たきりに近いか、ほとんど家から出ることのできない重症患者であると発表している。

慢性疲労症候群という病名から、誰がそんなに深刻な病状を想像するだろうか。世界中の患者たちが、誤解を生む「疲労」という言葉を病名に使わないでほしいと、強く望んでいる。

昨年、法人化する際、筋痛性脳脊髄炎という病名を会の名称に使用することを選択したが、病名を筋痛性脳脊髄炎へと変更することを求めてはいない。慢性疲労症候群という病名は、病態を表していないので、病因・病態を解明する研究を推進し、病態を表す病名に変更していただきたい。そして、病態を表す病名が確定するまでは、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群と病名を併記してほしい。たったそれだけでも、患者の苦痛は少し和らぐ。

この病気により就労困難となる患者は極めて多く、また、病気の認知度が低いため、家族や周囲の理解が得られず、身体的のみならず、経済的、社会的にも苦痛を強いられている。患者はやっとの思いで生きているが、「制度の谷間」に生きる弱者への思いやりこそ、優しい、生きやすい社会のバロメータではないだろうか。


【プロフィール】

しのはらみえこ。1990年に発症。2010年に「慢性疲労症候群をともに考える会」を発足させ、2012年よりNPO法人「筋痛性脳脊髄炎の会」理事長。