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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年12月号

知り隊おしえ隊

ハンドサッカーの魅力を知ってほしい

三浦浩文

1 ハンドサッカーとは

ハンドサッカーとは、東京都の肢体不自由養護学校(現、特別支援学校)で生まれた1チーム7人で行うチームスポーツである。肢体不自由児者を基本的な対象にしたスポーツであり、疾患やその程度は問わずにだれでも参加でき、男女の区別もない。コートに入れる人数が7人であり、途中の選手交代は自由なので、1チーム15~20人ぐらいのメンバーを登録してゲームに臨む。

ゲームは前後半各5分で、ハンドボールやサッカーのようにゴールにシュートをして得点を競うゲームである。得点は3つのパターンがあり、運動機能に制限が多い選手でもシュートチャンスが得られるように工夫されている。7人の選手は運動機能等に応じて4つのポジションに位置する。フィールドプレーヤー(FP)が4人、スペシャルシューター(SS)が1人、ポイントゲッター(PG)が1人、ゴールキーパー(GK)が1人である。コートは12m×20mの長方形を基本としている。メインのボールはミニソフトバレーボール用のボールを使用している。SS、PGが使うボールに規定はなく、その選手の身体機能や課題に応じて用意される。

肢体不自由児者は、接触によるけがが日常生活に多大な影響を及ぼす可能性があるため接触プレーは禁止されている。しかし、実際の試合の中では、多少の接触が起こりうるため、防具を各自工夫する。また、ボール保持が難しい場合は、ボール保持用のポケットを準備する選手もいる。

図1
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2 競技の特徴

ハンドサッカーは、運動能力や知的能力など個々の障害に違いがあることを前提とし、たとえ重度の障害があってもその選手が輝き、能力を最大限に引き出すことをねらっている。選手一人ひとりに活躍の場を広げると同時に、心身を健全に育成することを何よりも大切にしているスポーツである。

競技規則序章にこんな言葉を載せている。「ハンドサッカーとは、既存の競技では十分に対応しきれない様々な実態の障害をもつ子ども達に合わせ、活躍の場を広げ、個々の能力を引き出し、心身を健全に育成するために考え出された競技である。ハンドサッカーのプレーヤーおよび指導にあたる者はこの根本に流れる精神を大切にし、競技・指導に努める。」とある。この思いを大切にして、30年間、東京都の肢体不自由特別支援学校はこの競技を大切に育ててきた。

3 ハンドサッカーの歩み

時代が昭和から平成に変わる頃、東京都内の肢体不自由養護学校の研究会で顔を合わせた教員が、各学校でルールや用具等を創意工夫しながら行なっている体育の授業を紹介しあい、大会を行ってみたらどうかということからハンドサッカー大会が始まった。

都大会は、平成元年度に行われた都立府中養護学校と都立江戸川養護学校の2校の交流試合を第1回大会と定め、今年度が第25回の大会となる。年を追うごとに参加校が増え、平成20年度の大会より都内の高等部のあるすべての肢体不自由特別支援学校が参加する大規模な大会となった。昨年度の24回大会は、17校の参加、今年度の第25回大会では新規開設校を含めた18校の参加が見込まれている。

4 ハンドサッカー独特のルール

(1)タッチによるボールの保持

上肢でボールの保持が困難な選手に対し、身体および車いすにボールが当たった時点で、ボール保持とみなすというルールである。一般的にはボールをパスされた場合は、キャッチが基本となるのだが、多くの選手が障害ゆえにパスキャッチが十分にできない。そのため、ボールが触れたらキャッチとみなすルールを設定した。

(2)運動機能によるボール保持時間の区別

一人ひとりの障害の状況に違いがあることから、プレーヤーがボールを保持し続けられる時間を5秒と10秒に区別した。比較的障害が重度のプレーヤーは10秒までボールを保持し、次のプレーにつなげることができる。一方、比較的に障害が軽度のプレーヤーは、5秒以内に保持しているボールを味方にパスかシュートをしたりしなければならない。

(3)SSとPGのポジションと得点の特徴

フィールドプレーヤーに比べ、比較的重度の障害のプレーヤーはSS、PGというポジションに位置する。SSは、コート左角のSSエリアでパスを受け、あらかじめ決められた自らの方法(課題)により、サブゴールへ2本のシュート権を獲得する。

一方PGは、コート右上のPGエリアでパスを受けると1得点が認められ、あらかじめ決められた自らの方法(課題)により、メインゴールへ1本のシュート権を獲得する。

なお、PGおよびSSのシュート課題は、その選手が運動能力や判断力を最大限発揮できる方法を設定する。ただし、課題は、選手の心身の成長をねらい、成功率50%に設定していて、選手が経験を積み上達することにより、難易度を高くするケースも見られる。

こうした特有のルールは、さまざまな実態の選手が一緒にプレーを行い、障害やその程度の違いにかかわらず最大限の能力を発揮する場を設定するために必要不可欠である。

ハンドサッカーの得点には、「1.メインゴールにFPがシュートを決めると3点。2.SSがサブゴールにシュートを決めると1点、シュートチャンスは2回。3.PGパスを受け取ると1点、課題であるメインゴールにシュートを決めると1点」という3つのパターンがある。SSやPGはフリースローの形でじっくりとシュートすることができるので、得点源としてチームの中で重要な役割を担うことができる。

5 ルールの変遷

当初、ハンドサッカーのルールは、各校が自校の生徒の実態に合わせて作っていた。それがいいところでもあったが、他校と交流試合を行うためには、公平さを保つためにも共通のルールが必要になってきた。「さまざまな障害のある子どもたちの力の発揮」を求め、細部までルールを検討し、整備する必要があった。

(1)試合時間の短縮(大会ごとに検討)

当初は前後半8分・ハーフタイム3分で行なっていたが、改定し、前後半5分・ハーフタイム5分とした。たかが8分と思うかもしれないが、ボールタッチやシュートの度に時間が止まる。そのため、試合時間が1ゲーム1時間半ぐらいかかっていた。生徒の疲労度を考慮し、何とか1ゲーム1時間以内に収めるために時間の短縮は必要だった。

(2)独歩選手と車いす選手の身長(高さ)の差による不公平解消(平成12年度)

選手の「真上の空間の権利」(シリンダーの範囲)を取り入れ、他の選手の真上の空間を侵すとファールになるルールを採用した。高さの違いから、覆い被されるとされた方は身動きがとれず、不利になる。そこで「真上の空間の権利」を設けことで、背が低い者、高さが低い者の不利を解消した(図2)。

図2 シリンダーの範囲
図2 シリンダーの範囲拡大図・テキスト

(3)5秒タッチ選手の新設(平成14年度)

動きは早いが、マヒが強かったり、手指の操作が難しかったりするプレーヤーもいたため、5秒キャッチ選手、10秒タッチ選手に加え、5秒タッチ選手というポジションを追加した。

6 全国に向けて

スポーツ祭東京2013のオープン競技としてハンドサッカー競技を行なった。初めての全国大会である。当然、代表を決める平成24年度の大会は、国体への出場を目指し、例年以上に盛り上がりを見せた。

都大会の上位4チーム、ハンドサッカーフェスティバル(OBOGチームの大会)の上位2チーム、茨城県代表チーム、栃木県代表チームの計8チームで行われた(図3)。日本大学文理学部百周年記念館のアリーナを会場とし、大いに盛り上がりを見せた。各チームの力が拮抗していて、全国大会にふさわしい見応えのあるゲームが続き、大盛況のうちに幕を閉じた。

図3
図3拡大図・テキスト

7 今後の目標

ハンドサッカーは重度障害児者が一緒に行える集団競技である。障害の状態を問わず、だれでも参加することができるスポーツをユニバーサルスポーツと呼ぶのなら、まさにハンドサッカーは文字通りのユニバーサルスポーツである。

シュートの時は会場中の視線を一身に集め、その選手はまさに主役である。選手が自らの課題をクリアし、見事シュートを決めたときの盛り上がりは最高潮に達する。

東京発信のこの競技の魅力をたくさんの方に理解してもらい、輪を広げ、関東さらには全国に伝えていきたいと考えている。

(みうらひろふみ 東京都立墨東特別支援学校長、日本ハンドサッカー協会副会長)


・日本ハンドサッカー協会:http://handsoccer.jimdo.com/