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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年12月号

ほんの森

リハビリテーションの歩み
―その源流とこれから

上田敏 著

評者 伊藤利之

医学書院
〒113-8719
文京区本郷1-28-23
定価 3,150円(税込み)
TEL 03-3817-5600
http://www.igaku-shoin.co.jp

本書の著者である上田敏先生は、わが国におけるリハビリテーション界の歴史を背負って歩んでこられた第一人者であり、とりわけ、その精神的(思想的)支柱として多くの関係者を支えてきた業績は高く評価されている。

本書は、その上田先生ご自身が学び体験されてきた歴史を、1年間の時をかけて、ご自分の記憶を文献で確認しながら綴られたもので、リハビリテーション医学の歴史を中心に記したものである。わが国におけるリハビリテーション医学の歴史はわずか50年だが、本書は100年前まで遡り、世界的な視野を含めたリハビリテーションの源流から今日に至るまで、単なる事象の羅列ではなく、時には自分史や秘話を織り交ぜながら、著者の視点から見た歴史を物語っている。いわば上田敏が案内するリハビリテーション史の旅行本であるが、その歴史を「これから」を考える糧とした未来志向の書である。

本書はA5版333頁から成り、全体の構成は、第1章 現代的リハビリテーション医学が生まれた年(50年前の日本)、第2章 リハビリテーションの萌芽をたずねて(100~50年前の日本)、第3章 リハビリテーションの源流から「リハビリテーション医学」の誕生まで(100~50年前の世界)、第4章 再び50年前の日本へ(私は1963年をどう迎えたか)、第5章 この50年の歩み(日本と世界のリハビリテーション医学)、第6章 リハビリテーションのこれから(「総合リハビリテーション」をめざして)となっている。いずれの章も興味深いが、私的には、第1章は自分史と照らして、第2・5章は知欲に引っ張られて、第3・4章は個人的興味から、そして第6章は臨床現場で働く実践家として、面白く読ませていただいた。

とくに興味を引いた箇所を若干紹介する。第1章、清瀬のリハビリテーション学院の開校にあたり、砂原茂一学院長が「蘭学事始」の一節を朗読されたくだりは、大いに頷(うなず)け、砂原先生を知る者の一人として、「さすがは砂原先生!」と思えて面白かった。第2章、肢体不自由児の「療育」で有名な高木憲次先生の「夢の楽園教養所」の話は、名前しか知らない高木先生の人柄を知ることができ、先生のイメージが大いに変わった。そして第3章、アメリカにおける職業リハビリテーション法成立の経緯、著者のリハビリテーションの師であるハワード・ラスクやフランク・クルーゼンの活躍とリハビリテーション医学の独立など、枚挙にいとまがない。是非(ぜひ)ご自分で読んでいただければ幸いである。

(いとうとしゆき 横浜市リハビリテーション事業団顧問)