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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年2月号

現場から

現場での一つの問題、日常支援活動保障の不連続のしわよせ

岡本明

特定非営利活動法人「風の子会(以下、当会)」は、東京港区で活動する障害のある人のための通所生活実習所である。「一人ぼっちの障害者をなくそう」をスローガンに、35年前に始まった活動は、やがてその活動が認められ、通所訓練事業所として職員を雇用するようになった。その後NPO法人にもなり、現在は障害者総合支援法の多機能型(生活介護・就労継続支援B型)事業所として活動している。

当会は利用者(以下、メンバー)30人、職員8人と決して大きな組織ではないが、他にはあまり見られない大きな特徴をもっている。それはメンバー、家族、職員、ボランティアがまったく平等の立場にあるということである。皆がニックネーム、ファーストネームで呼び合い、実習所の日常は、職員、ボランティアたちと一緒に、パソコンを使っての創作活動やビーズ製品制作など好みの作業をし、お昼は持ってきた弁当や仕出し弁当をおしゃべりしながら一緒に食べる。職員やボランティア自身も食べながら食事介護をする。訓練、リハビリテーションなどは行わない。家族的な雰囲気に満ちているのである。

当会はメンバーが家庭の延長のように実習所でも過ごせることを目標にしており、日常の活動運営はメンバー中心に皆で決めている。NPOの役員にもメンバー、職員、ボランティアが加わっている。

当会にはこのような雰囲気のもと、20年、30年も通ってきているメンバーも多く、必然的にその方々は高齢である。高齢のメンバーの中には、介護保険によって特別養護老人ホーム(以下、特養)に入所したあとも継続して通ってくる人が何人かいる。当会では、この方たちを当然のように継続して受け入れている。ところがここに、当会としては納得がいかないことが発生している。介護保険法と障害者総合支援法の問題である。特養から通ってくる方たちについて、当会は行政からのサービス費用支給を受けられないのである。

介護保険法では、高齢者へのサービスは障害のある人であっても原則として介護保険を優先することになっている。ただし、介護保険で提供されないサービスは障害者総合支援法のサービスを受けることができる。しかし、これは特養の利用者には適用されないと規定されている。つまり、この方たちへのサービス活動の負担はすべて当会の持ち出しとなっているのである。それでも、他県などに引っ越したならともかく、自宅から同じ区内の特養に引っ越した(むしろ近くなった場合もある)にすぎないのに関係を絶つことになど思いもよらないし、古くからの大切な仲間を失うことはできない。また、この方たちが来られることは、当会が大切にしている家庭的な雰囲気、仲間の絆づくりにも寄与していると考え、以前と同じく通所していただいているのである。

当会では前述のように、特養ではなかなか得られないサービスをこの方たちに提供している。このようなサービスは、たとえ特養入所者であっても、当然、介護保険のサービスと併用して受けられるようにするべきである。

なぜ、特養に入所している方は障害者総合支援法のサービスを併用して受けることができないのだろうか。その根拠となっているのは「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準」の第13条第8項「指定介護老人福祉施設は、入所者に対し、その負担により、当該指定介護老人福祉施設の従業者以外の者による介護を受けさせてはならない」にあるとされている。

つまり、特養の入所者は、当会などほかの事業者の有料介護サービスを併用して受けられない、ということである。ここには、入所者へのサービスは特養ですべて十分提供されているから、ほかで有料サービスを受ける必要はないはずだ、という前提があるようだが、これは現実とは大きく乖離したものである。

たしかに、同基準第16条第1項には「指定介護老人福祉施設は、教養娯楽設備等を備えるほか、適宜入所者のためのレクリエーション行事を行わなければならない」、第4項には「指定介護老人福祉施設は、入所者の外出の機会を確保するよう努めなければならない」とあり、入居者の生活の質の向上に努める義務が課せられている。

しかし、特養としても限られた財源、人員のもとではこれはその施設内での活動にとどまりがちだし、外出も職員が付き添うには限度があるだろう。特養とはそのようなことはあまり必要ない、あるいはできない人が入所するところだとされているかもしれないが、特養入所者といえどももっと広く活動したい人、社会参加したい人も多く、これだけではまったく不十分なことは明らかである。

もちろん、この問題の解決は容易ではない。単純にほかの事業者にもサービス費を支給するのは二重受給になり、あり得ない。併用を認めると特養の収入減になってしまう。特養の今のサービスを充実させるよりも、4万人とも10万人ともいわれる特養の入所待機者への対応が優先だという意見もあるだろう。しかし、在宅の人には容認されている幅広い活動への参加が特養の入所者に認められないのは矛盾である(これは障害者総合支援法においても同じことがある)。

当会のメンバーも高齢化とともに特養へ入る人もさらに出てくる可能性がある。しかし、古くからの大切な仲間の通所を断ることは絶対にできない。一刻も早く、特養入所者もほかの事業者のサービスを受けられるようにする何らかの施策を強く要望したい。

(おかもとあきら NPO法人風の子会副理事長、筑波技術大学名誉教授)