音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年2月号

現場から

高齢化する障害者を支える介護
―介護福祉士養成教育から見た現状と課題―

岡田圭祐

介護福祉士養成教育の現場で、学生に「福祉とは何か」と尋ねると「介護」という答えが返ってくる。質問を変え、「介護とは何か」と尋ねると、決まって「高齢者の○○」という答えが返ってくる。本来、福祉とはその対象も役割も限定するものではないが、世相の影響からか、多くの学生は、福祉を介護と言い換え、介護とは高齢者を対象とするものであると考える。こうした考えは、障害者福祉に関連する科目を担当し、教授する者が、最初に越えなければならない高い壁である。

わが国は、2007年に人口高齢化率21%を上回り、世界で最も早く超高齢社会に突入した。長寿国と言えば喜ばしいことだが、反面、社会保障を根底から揺るがす問題に直面しているのも事実である。とりわけ介護を取り巻く課題は山積している。慢性化したとも言える介護人材の不足もその一つである。こうした介護現場を支える専門職の介護福祉士を養成する機関(以下、養成校)でも近年入学者数が減少し、人材不足に歯止めがかからない。これを受け国は、介護福祉士の質の向上を図り、社会的評価を担保し、人材不足を解消するため、介護福祉士国家試験制度の改正に乗り出した。2009年には、介護福祉士養成教育が開始されて以来となる大幅なカリキュラム改正が行われ、介護福祉士養成教育カリキュラムは「人間と社会」「介護」「こころとからだのしくみ」の3領域に整理され、領域ごとに関連性を持たせた教育を柱とした、新たな介護福祉士養成教育がスタートした。

また、喀痰吸引や経管栄養に関わる医療的なケアの一部が介護福祉士の業務として認められたことから、2014年からはこうした教育も追加される。そして、2015年には新制度の下で初となる介護福祉士国家試験が実施される。このように、介護福祉士養成教育は大きな転換期を迎えている。

改正は、障害者福祉に関連する科目も例外ではない。これまでの科目を内容面で再編し、新たな科目が設置され、教育内容も変化した。カリキュラム変更前(障害者福祉論、社会福祉概論の一部、形態別介護技術の一部、その他)と、変更後(障害の理解、社会の理解の一部、生活支援技術の一部、その他)を比較してみると、法制度、特に障害者総合支援法(旧:障害者自立支援法)の理解を深める内容が充実した。一方で、理論、歴史、生活への理解といった部分が縮小され、障害者の生活理解、ライフステージに応じた支援等についての教育が不足しているのではないかと感じる。

この不足を補うものとして期待されたのが実習である。これまで以上に多様な種別での実習が可能となったため、障害者関連の種別に関しても選択肢が広がり、障害者支援を現場で体験し、学ぶことが可能となった。これは、障害者福祉教育の観点からも、大いに期待されるものであったが、実際は違っていた。ある養成校が契約している実習先施設を例に挙げてみると、約9割が高齢者関連の施設となっており、障害者関連の施設は全体の1割にも満たない。元来、障害者施設の割合は、高齢者施設と比較すると少数であるが、養成校が契約する実習先施設の割合もこれに比例すると考えるならば、学生に障害者施設での実習機会を提供し、数的部分で障害者福祉に関する教育的効果を高め、不足を補うところまで至っていないと言わざるを得ない。

こうしたことを踏まえ、あらためて養成校における障害者福祉教育を考えてみると、学生が障害者福祉に触れ、感じ、考え、学ぶ機会が不足しており、故に学生は、障害者の生活を理解し、ライフステージを意識した障害者支援を学ぶことが極めて困難な状況にある。その上、関連して新たな課題も表出している。それは、高齢期を迎えた障害者に対する支援のあり方である。

このたびの改正で、認知症に代表される高齢化に伴い現れる障害、こうした障害を抱える高齢者への介護のあり方に関する教育は、強化されたポイントの一つである。しかしながら、高齢期を迎えた障害者に対する支援については、十分に教育の機会が確保されたとは言い難い。それどころか、学びの多くは障害者福祉教育と高齢者福祉教育との融合、応用に頼るところが大きい。これにより学生の多くは、高齢期を迎えた障害者と向き合った際、高齢者への介護に主眼を置くあまり、ライフコースを意識した障害者支援の視点が薄れてしまう傾向にあると感じている。こうした課題の解決に向け、経験を通して、数的部分で教育的効果を高めていくことも考えられるが、施設数、割合から見て現実的ではない。こうなると、求められるのが教育の質である。不足部分を補い、質を高めていく教育が強く求められる。

私には師と仰ぐ先生がいる。自らが重度の障害を抱える先生は、ことあるごとに私を街へ連れ出し、自らを生きた教材として学びの機会を提供してくださった。こうした経験を通し感じながら学んだ障害者支援は私にとって財産である。当事者の声に耳を傾け、それに応じた支援を提供することが原点であるならば、こうした学びの機会を提供することも重要であると考える。

超高齢社会を迎え、高齢化する障害者も増加傾向にある。こうした中、養成校における障害者福祉教育は、障害者の生活理解、ライフステージに応じた支援、さらには高齢化する障害者の支援に関する教育内容の充実と強化、これを教授するための工夫が求められている。このような時こそ原点に立ち返り、当事者の声に耳を傾け、学びの機会を提供し、障害者福祉教育の質を高めながら、求められる介護福祉士の養成に努めていく必要があるのではないだろうか。

(おかだよしひろ 浦和大学短期大学部介護福祉科専任講師)