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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年3月号

提言 自然災害と障害者

旭市における被災者支援の経験から

吉野智

東日本大震災では千葉県の旭市にも津波が押し寄せ、死者14人、行方不明者2人という甚大な被害をもたらした。震災直後には市内11か所に避難所が設けられ、約2000人が避難した。津波浸水エリアにある障害者のグループホームの入居者と世話人は近くの避難所に避難したが、知的障害や自閉症の障害のある入居者は、たくさんの避難者で混乱している状況に落ち着いていることが難しく、情緒不安定になるのを世話人が必死にフォローしていたという。世話人は携帯電話で同じ法人の職員に連絡を取りたかったがつながらず、数人の入居者とともに不安な一夜を過ごした後、翌日連絡を受けた管理者らと合流し、被災しなかったグループホームに移動し、当面の危機からは脱することができた。

旭市では震災から2か月が経過した5月に避難所が閉鎖されたが、最後まで避難所にいた方の多くが市内2か所、200戸の仮設住宅へ移行した。私たちは県の事業を受託し、仮設住宅に社会福祉士や臨床心理士など専門職員を常駐させ、「孤立させない・生活再建」をコンセプトにこころのケアも含めた相談業務を開始した。そこに常駐することで、特異な体験から特異な生活へ移行してこころが疲弊している被災者に目に見えた安心を届け、見通しの立たない再建に向けて、一緒に取り組む方向性を見据えることができた。

仮設住宅には子どもから高齢者、障害のある方もない方も、そして外国人もいる。対象は仮設住宅で生活する人であり、縦割りの考え方はそもそも存在しなかった。また、そこに支援者が常駐していることで、ボランティアなど外からの支援をコーディネートすることができた。

ボランティアはさまざまな支援を届けてくれるが、必ずしもニーズにマッチしないことも多い。しかし、そこにコーディネーター的な存在があることで、被災者のニーズと外部の支援者の想いをマッチングさせることができ、より有効に想いを届けてもらうことができた。足らないものはオーダーし、必要なものは創(つく)ることができた。まさに、ソーシャルワークの原点が被災者支援にあると言えた。

想定外の被害。過去の大震災などは知っているけど、知らなかった。それに尽きる。前述した支援の仕組みも想定しておけば、もっと早い段階から開始することができた。大震災で経験したことは、具体的に防災計画等に盛り込む必要がある。それを他地域にも。まだ終わっていないが、それが私たちのこれからの役割だと感じている。

(よしのさとる 中核地域生活支援センター海匝ネットワーク)