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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年3月号

提言 自然災害と障害者

福祉事業者と連携した災害時の障害者支援方策

鍵屋一

はじめに

東日本大震災の発生以後、被災地で多くの障害者、福祉関係者から話を伺っている。揺れの直後に、施設職員が知的障害者を車に強引に乗せて命からがら避難し、避難所を転々としながら、何とか支援を継続した例があった。地域の災害時要援護者を受け入れ、地域住民と共に懸命に支援をした話もある。残念なことに、大災害時には障害者、関係者は、一般の人よりも大きな苦難に遭遇する。その苦難を軽減するために、福祉事業者が取り組むべき方策を3点提案したい。

1.福祉事業者の事業継続計画(BCP)作成―筆者らは、2012年度から厚生労働省科学研究において、被災地で障害者施設の事業者をヒアリングしているが、津波や原発避難で施設が使えなかったところでは、代替施設の確保、福祉事業の継続が非常に困難であった。そこで、福祉事業者が災害時にも福祉事業を継続するためにBCPを作成する必要性は高い。

筆者らは、現状の施設の消防・防災計画を点検し、次に、BCPの要素を考える方法で福祉施設職員への研修を実施している。見慣れた消防計画から、徐々にステップアップすることで取り組みやすいものとなっている。

2.災害福祉広域支援ネットワークの創設、運用―平成25年8月、厚生労働省は都道府県宛てに「災害福祉広域支援ネットワークの構築について」の事務連絡を行い、都道府県単位の災害福祉広域支援ネットワーク構築を要請した。これにより、災害派遣医療チームに相当する広域の緊急支援組織作りが始まった。平常時から災害福祉広域支援組織の構築、研修の実施などにより福祉関係者の防災意識や行動力の向上にも資する重要な政策と考える。

3.個別支援計画に災害時対応を記載―現在、障害者総合支援法の個別支援計画等には災害時対応の記載欄がない。そこで事業者研修、支援相談員研修等で災害時の計画の作成、資格試験に防災・事業継続分野の出題等が考えられる。将来的には、災害時の対応が通常の個別支援計画の一部として必須記載事項となるのが望ましい。

おわりに

災害時の障害者支援に関する法制度化はたしかに重要であるが、福祉人材の危機管理能力向上が重要である。このような福祉人材を育成できれば、福祉施設の災害対応力とともに平常時の組織力、福祉サービスが向上するに違いない。また、福祉人材は地域社会の担い手でもあるため、地域防災力の向上にもつながっていく。

(かぎやはじめ 法政大学大学院講師(前板橋区福祉部長))