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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年3月号

平成26年度障害保健福祉部予算について

今村登

平成26年度の障害保健福祉部の予算概要が提示され、1月に厚労省の説明を聞く機会があった。かつての骨太方針で謳われた社会保障費を毎年2,200億円ずつ削減するという制限はなくなったとはいえ、来年度予算編成の基本方針で打ち出された一般会計のマイナス19兆円という縛りの中、自然増を含め総額1兆5,019億円(+1,037億円、対前年度比+7.4%増額)だった。特に、一般財源である地域生活支援事業費の増額は非常に困難で、削減が至上命題のような中、概算要求時は514億円(+54億円)で出したが、最終的に財務省に認められたのは462億円(+2億円)だそうだ。

厳しい財政の中、厚労省も予算確保に大変苦労されているのだろうが、現状の問題解決や更なる制度改革につながりそうな期待感を持てる予算編成と言うには程遠い。それどころか、現行の法律に即した執行すら危ぶまれる予算である。以下にその理由を述べたい。

地域生活支援事業は実施困難〈財源無き必須事業〉

支援費制度から障害者自立支援法に代わる時、大きな問題とされた項目の一つが移動支援の地域生活支援事業化(統合補助金)だった。支援費制度での移動支援は、身体介護、家事援助といった居宅介護サービスの一つであり、自立支援法でいうところの個別給付とされていた。しかし、個別給付とはいえ支援費制度は「かかった費用の2分の1以内を国が補助することができる」という不安定な裁量的経費であったため、自立支援法では個別給付を「かかった費用の2分の1を国が負担する」義務的経費に格上げすることが最大のポイントでもあった。しかし、移動支援は個別給付から外され、市町村が行う地域生活支援事業の必須事業に振り分けられた。市町村には実施義務が生じるが、財源が自治体の裁量で使い道が決められる統合補助金(一般財源)であること、必須事業項目と内容に見合った予算が確保されていないことが相俟(あいま)って、自立支援法施行から7年が経過した現在でも、未実施の自治体が数多く存在しているのが現状だ。

自立支援法での地域生活支援事業の必須事業は、1.相談支援事業、2.コミュニケーション支援事業、3.日常生活用具給付等事業、4.移動支援事業、5.地域活動支援センター事業の5事業だったが、平成25年度の障害者総合支援法では、さらに次の事業が追加された。

1.障害者に対する理解を深めるための研修・啓発、2.障害者やその家族、地域住民等が自発的に行う活動に対する支援、3.市民後見人等の人材の育成・活用を図るための研修、4.意思疎通支援を行う者の養成。

移動支援はもともと支援費制度時代から実施実態があったことから、地域生活支援事業に切り分けられた中で、多くの自治体で必須事業の中でも最優先に実施された。今まで必要性を認めて支給していたものを、制度の変更で一気に切り捨てることはできなかったからだろう。しかし、いくら実績割りで予算配分の算定がなされると言っても、実績の2分の1が保証されている訳ではない。結局、国の統合補助金の総額が抑制される中、多くの自治体で移動支援事業費だけで消化してしまっている計算になると聞く。

そんな状況の中、総合支援法から新たに4つの項目が必須事業に追加された。追加された事業自体は重要な項目で推進していく必要があるが、ただでさえ移動支援事業費だけで限界の予算であるのに、増額は僅(わず)か2億円である。これを単純に1,797自治体で割れば1自治体約11万円である。つまり、新規追加事業を可能にするような予算建てにはなっていないのだ。さすがに厚労省もこの問題には頭を抱えていて、決して看過している訳ではないらしいが、有効な手立てが創りだせないでいる。

増額は実質現状維持分

障害福祉サービス費は9,072億円(+842億円)である。増額の詳しい内訳は知り得なかったが、自然増分と消費税アップに伴う必要経費を報酬に反映させた分、それに平成26年度に全員が対象となる計画相談(サービス等利用計画作成費)分のようだ。

計画相談分としては100億円の算定だそうだ。対象者数は厚労省の見込みで障害福祉サービス利用者67.7万人、障害児支援利用者13.1万人とのことで、合わせて約80万人が対象になる。サービス等利用計画作成費を1件16,000円で計算すると128億円、13,000円の区分や費用のかからないセルフプランもあるので、ここは妥当な範囲だと思われる。ただ計画相談の問題は、圧倒的な担い手不足だし、ここにテコ入れできる有効な予算は見当たらない。結局、現状維持のための増額といったところだ。

長時間介助保障は、依然として不安定

訪問系サービスの給付額が国庫負担基準を超える市町村への財政支援である「重度訪問介護などの利用促進に係る市町村支援事業」は、22億円(+0円)で増額はない。不足分は厚労省内の他分野からかき集めるとのことだが、そもそも東京都分だけで使い切ってしまうような少額予算が示されているため、補填(ほてん)の確証がない中で積極的に長時間ニーズに応える市町村は少なく、地方間格差はなかなか埋まらないと思われる。それでも実績を積み上げることは重要だが。

消費税の増税分は社会保障費に充てると言われているが、障害福祉予算に回ってくるかどうかは、税と社会保障の一体改革の中でも明記されていない。財源不足、不安定さを理由に、再び介護保険統合論が浮上してくる懸念は払拭できない。そもそも介護保険になぞらえたサービス体系と報酬体系を抜本的に見直し、総合福祉部会の骨格提言の真摯な検討と実行を求める。

(いまむらのぼる 自立生活センターSTEPえどがわ事務局長)