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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年3月号

最近の立法・政策動向と平成26年度予算

大曽根寛

1 はじめに

2009年9月から2012年12月までの「民主党政権」時代と、2012年12月に誕生した「安倍政権」時代の数年間に、障害保健福祉領域における多数の重要な法律が、制定もしくは改定された。本稿は、2013年12月までの立法・政策の動向を見据えながら、障害に関係する予算、とりわけ障害保健福祉関係予算が、政策全体のなかでどのような位置を占めているのかを論ずることを目的とする。そこで、ここでは、最近制定・改正された関係法律が、平成26年度予算に本当に反映されているのかを確かめてみよう。

2 現政権の方向と障害に関する予算

さて、筆者が今回参照している関係法律を挙げてみると、次のような二類型になる。1.社会保障領域全体にかかわる法律、2.障害にかかわる法律である。

まず、第一に、わが国の社会保障の基本的方向を定める法律が立て続けに制定されたことを認知しておかなければならない。ここで重要なのは、「社会保障制度改革推進法」(平成24年法律第64号)を軸にしながら、この法律によって内閣に設置された「社会保障制度改革国民会議」(2012年11月から2013年8月まで開催)が、「社会保障制度改革推進法第4条の規定に基づく「法制上の措置」の骨子」を提言していることである。この「骨子」に基づき、「法制上の措置」として、社会保障制度改革の全体像・進め方を明示する法案を提示すること、および関連法律の改定案を提示することが確認されていた。

この結果、「持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律案」が、2013年10月からの第185回国会に内閣提案で提出され、12月に成立している(平成25年12月13日法律第112号)。

この法律が想定する改革の柱は、1.少子化対策、2.医療制度改革、3.介護保険制度改革、4.公的年金制度改革、の4点である。これを進めるために、関係閣僚からなる「社会保障制度改革推進本部」、有識者からなる「社会保障制度改革推進会議」を設置することとした。これらの会議の議論はこれからであるが、実質的に、その内容が先取りされた平成26年度予算案になっていることを知っておく必要がある。

つまり、「26年度社会保障関係予算のポイント」(財務省)では、社会保障と税の一体改革の名のもと、2014年度からの消費税収を、高齢者三経費(年金、医療、介護)に充当するとともに、これらの三経費を基本としつつ、少子化対策経費にも充てることとし、社会保障四経費(年金、医療、介護、少子化)に充当することが柱となっている。

3 社会保障関係予算と障害保健福祉

しかし、ここで取り上げなければならない問題は、障害に関する各種の法律の実施を保障する予算枠組みがどれだけ確保されているかということである。周知のように、「障がい者制度改革推進会議」(2010年―2012年)が、提言してきた改革プログラムが法制化され、「障害者基本法改正」(2011年)、「障害者虐待防止法」(2011年)、「障害者総合支援法」(2012年)、「障害者優先調達推進法」(2012年)、「障害者雇用促進法改正」(2013年)、「障害者差別解消法」(2013年)、「精神保健福祉法改正」(2013年)、「障害者の権利に関する条約」(2013年国会承認)となって、一定の前進を見たということはできるだろう。

ところが、今回の予算案は、これまでの事業・給付にかかる自然増分を見込んではいるものの、これらの立法・政策を実現するための新たな予算的担保は、ほとんどなされていないと読み取ることができる。

というのも、障害保健福祉部予算案1兆5千億円のうち、約1兆円は、障害福祉サービス関係費であるが、これは、障害者総合支援法上の「自立支援給付」と「地域生活支援事業」に関するものであり、旧来の障害者自立支援法の延長線上にあり、際立つ目玉事業はなく、特に大きく評価できるものはない。

むしろ、前述した「持続可能な社会保障制度改革」の流れに巻き込まれていけば、いずれは、自己負担増、他の制度との併給調整(医療や介護との併給を許さない方向)、障害福祉サービスの一層の市場化などの可能性さえありうることとなる。また、「工賃倍増計画」の失敗と就労支援の産業化の動向は、障害のある人の生活保障とは逆行するのみならず、共生社会の理念が掛け声だけに終わってしまう恐れさえ含んでいる。

さらに、障害者権利条約が国会で承認され、障害者差別解消法が制定された今日、障害をめぐる権利擁護により手厚い予算措置が講じられなければならなかったはずである。しかし、虐待防止・差別禁止・後見制度等にかかわる予算は、ほとんど見えてこないし、消費税が、そのために使われるという約束はどこにもない。なぜなら、民主党政権時代から論議されていた「社会保障・税一体改革」の潮流の中に、「障害」という言葉は一度も登場せず、意識的か、無意識的か不明だが、ほとんど無視されてきたというのが実情だからである。あるいは、障害に関係する団体もまた、あえて避けてきた論点なのかもしれない。

障害に関する立法・政策と予算が社会保障改革の埒外(らちがい)に放置されているのを見過ごすことなく、また新たな政権の改革方針に取り込まれることなく、初心に立ち返って、正面から現政権との議論を早急に始めるべきである。

(おおそねひろし 放送大学教授)