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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年3月号

1000字提言

見えない障害

青木志帆

平成25年6月19日に障害者差別解消法が成立し、3年後の施行を目指して現在「差別とは何か」などを定める指針作りが進められているところである。毎回の障害者政策委員会資料を拝読すると、その障害特性に応じて実にさまざまな差別が存在することに暗澹(あんたん)たる気持ちになる。

ところで、同法の目玉は、「合理的配慮の不提供」をも「差別」と位置づけているところだ。この点を定めた条文が、同法7条2項と8条2項である。ただ、これらの条文には、「障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合に」、社会的障壁の排除に必要かつ合理的な配慮をしなければならない、とされている。あまりここに引っかかる意見を見たことがないが、私は気になって仕方がない。

外から見てもただのうるさい弁護士にしか見られない私は、難病患者である。たぶん、この法律の適用対象となる「障害者」に入っているのだけど、そんな意思の表明など、絶体絶命の大ピンチになるまで口が裂けてもできそうにない。私が、自分の病気を明かし、それによって必要となる配慮を説明するだけでどれだけの人が引いてしまうだろう。まず、病名からして「下垂体機能低下症」である。見たことのない漢字が8つも並んでいる。しかし、支援と合理的配慮なくして健康な人と同じ土俵ではなかなか勝負しづらい。この点は見える障害と同じである。

そこで、ちょっと役に立つアイテムに「見えない障害バッジ」というものがある。これは、2年ほど前に始まった「わたしのフクシ。」というサイト(watashinofukushi.com)で販売している。写真のように、透明樹脂でできたリボン型のストラップだ。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真はウェブには掲載しておりません。

このバッジには、赤いハートマークがついた「当事者用」と、ついていない「啓発用」の二種類ある。啓発用は、この世には病気や、発達障害や、精神障害、高次脳機能障害などのぱっと見ただけではわからない障害というものがあるよ、ということを啓発する趣旨だ。だれでも持つことができる。

これに対し当事者用は、「私には見えない障害があります。」ということをさりげなく示す趣旨である。赤いハートのバッジを持つ「当事者」にとって、偏見多き社会に向かって自分から事情を明かすことは非常に難しい。そこに、赤いハートは「ちょっとした配慮をいただければありがたいです。」というささやかな意思表示になる。

もし、当事者用バッジを持つ人を見かけたら、「なにかお困り事は?」と声をかけてみてほしい。すると、社会的障壁にはね返されて萎えてしまった「社会的障壁の除去必要とする意思表明」をする勇気が、少し湧いてくるかもしれない。


【プロフィール】

あおきしほ。平成21年12月弁護士登録。弁護士法人青空 尼崎あおぞら法律事務所(兵庫県弁護士会)所属。日弁連人権擁護委員会障害のある人に対する差別を禁止する法律に関する特別部会委員。障害者問題(特に重度障害者に対する支給量問題)の事件を扱う。