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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年3月号

ワールドナウ

被災障害者の今
~フィリピン台風被災障害者緊急支援 タクロバン現地調査報告~

堀場浩平

調査の背景

2013年11月8日にフィリピンを直撃した大型台風30号(現地名ヨランダ)は、中部レイテ島を中心に高潮や土砂崩れなどにより死者・不明者数は7986人に上り(マニラ新聞 2014年2月1日)、食料・水の不足、衛生環境の悪化により被害は甚大な規模となっている。DPI日本会議は、同月22日より被災障害者に対する支援金の受付を開始すると同時に、マニラの自立生活センター「ライフヘブン協会」を通して、被災地の障害者に関する情報を収集し、東日本大震災支援においても連携してきた特定非営利活動法人ゆめ風基金と協働して被災障害者支援を行うことを決定した。

現地にて活動拠点となる当事者団体との連携が可能と思われることから、レイテ島北東部に位置する東ビサヤ地域の経済・物流の中心となる港湾都市であり、被害が甚大であるタクロバン市(人口22万人)を対象地域とした。また、持続的に被災地の障害者の生活環境の改善に寄与するべく、1.当事者組織の拠点整備(事務所の改修、備品購入等)、2.福祉機器の提供、の2点を支援方針とした。現地活動拠点への支援内容と福祉機器の提供対象の特定のため、障害当事者を含む5人の調査団を派遣し、2014年2月2日から8日まで同市内で調査を行なった。

調査対象地の概要

沿岸部ほど高潮による損壊が激しく、内陸では強風により(最大瞬間風速は105メートルとされる)屋根が飛ばされている家屋が多く見られた。建築用の木材が街の各所に積まれており、住民は部分的に壊れた家屋を補修、または放置して住み続けている。現在、国連機関や海外NGOにより仮設住宅が各所で建設され、コンべンション・センターの敷地内や海岸付近には国連機関の仮設テントが設置されている。電信柱が各所で傾き、あるいは倒れており、電力供給は部分的に復旧しているというが、大部分はジェネレーター使用によるものと思われる。

中心部を外れると日没後は極めて暗い。避難所や貧困家庭では、支給されたと思われるソーラー発電の懐中電灯の使用が散見された。水道は復旧しておらず、各家庭には大小のタンク、バケツが置かれており井戸や避難所の供給に頼っている。道路の被害は僅少で、ジムニー(乗合バス)、トライシクル(サイドカー付バイク)など交通量は多く、また被災後に入ったと思われる新車のハイエース、ハイラックスやフォードのSUV車等も多く見られた。街の中心部では銀行や小規模な商店が営業を再開しており、人手も多い。同市に多く存在する学校も再開されており、通学する学生が多く見られた。

現地活動拠点

現地活動拠点として連携するTAPDICO(タクロバン障害者共同組合)は、2008年に発足した、約20人の組合員からなる障害者自助組織である。市政府より提供された事務所で、学校用の椅子等を作製することにより収入を得ている。調査団は、ポリオや四肢切断等の職員約10人と面会した。被災後、職員の多くは事務所内および事務所の隣に設置された仮設住宅で生活している。同団体より、拠点整備として車両整備および事務所移転にかかる支援の要望があった。

同団体が現在利用しているトヨタ・ハイエース(リフトなし)はメンテナンスが全く行き届いておらず、エンジンやトランスミッション、空調等さまざまな所に不具合が見られた。このため、調査期間中にオイル交換等の修理を行なったほか、当面の修理に必要な現金を提供した。また、現事務所は政府より借用しており恒久的な利用保障がないため、カナダの団体からの支援により郊外の土地を購入し、事務所、作業所、職員住居の移転建設を計画している。調査団は、事務所移転に対する日本側の支援の実現可能性を検討すべく、移転予定地を視察した。移転先の用地は全くの未開墾地であり、書類上の土地利用手続き、整地について今後相当の時間を要すること、また、同団体の目指す活動が軽度障害者中心の自助を目的としており、地域生活・インクルージョンを目指すDPIの方針と必ずしも一致しないことから、事務所移転に関しては支援しないとした。

しかしながら、同団体の存在が多くの障害者の生活・就労の場を提供していることが多くの職員からの聴き取りから明らかとなった。地域に密着して活動しており、障害者のニーズ発掘が可能であり、TAPDICOへの当面の活動支援は、被災障害者の救援に効果があると考えられることから、ゆめ風基金・DPI日本会議は若干の支援金を提供した。

個別ニーズ調査

TAPDICOによる事前の地域在住の障害者の割り出しを踏まえて、現地での調査期間中に28人の障害者にインタビューを行なった。全体として、被災により窮状にあるタクロバンの一般的な世帯状況と比較しても、インタビューを行なった障害者の世帯は貧しいレベルにあると思われた。特に車いすを要望する障害者は、狭く暗い半壊状態の住宅か仮設住宅内での不自由な暮らしを余儀なくされており、移動・通信手段としての福祉機器の提供が緊急に必要である。インタビューしたある全盲の夫妻は、避難する際に近隣住民の支援が得られず、10歳の娘の案内により避難したと涙ながらに訴えた。また、バランガイ・キャプテンより避難所への入居を拒否されたため、コンベンション・センターの避難テントでの生活を余儀なくされていた。

台風により障害を負ったケースは本調査では確認されず、収集されたニーズは被災以前からあったものである場合が多いと考えられる。現地で障害者情報の収集に当たったTAPDICO職員は、各人が貧困地域に居住しており、その近隣から障害者のいる世帯の情報を収集したことから、インタビューを行なった障害者の生活は極めて貧しいことが観察された。障害者を世帯成員に抱えることが、その家庭の生活水準を低いレベルに維持していることも想像しうる。従って、福祉機器の供与がそれら障害者の家庭の介助労働、経済負担を軽減し、今後の生活改善に寄与することが期待できる。

■個別ニーズ調査結果

性別 年齢 障害 ニーズ 特記
45 ポリオ 松葉杖 両脚に麻痺、サイズの合わない木製松葉杖を使用している。両親と同居、自宅は全壊。OXFAMの救援に頼っている。
58 片脚切断 義肢装具 左脚膝より下を切断。自宅は全壊。トライサイクルの運転手。
29 先天性四肢欠損 義肢装具 右脚膝より下欠損、アルミ製松葉杖使用。TAPDICO職員。自宅全壊、家族はマニラへ移住。TAPDICO事務所にて生活。
46 ポリオ 車椅子 両脚に麻痺。妻共に無職、子供3人。両親と同居、自宅は半壊し、親戚宅にて生活。洋裁の技術があるためミシンが欲しい。
31 聴覚障害 補聴器 手話にて意志疎通。TAPDICOメンバー。自宅全壊、TAPDICO事務所にて生活。
32 聴覚障害 なし 自宅は屋根が損壊したが家族と住み続けている。無職、TAPDICOでの就労意欲あり。
40 視覚障害 白杖
トーキングフォン
全盲(幼少時寄生虫により)。無職。夫、10歳の娘、母親と避難所でNGOの支援に頼り生活。
8 判別できず 車椅子 上体安定せず、両脚に麻痺、発語なし。母親が同席。父親は自動車工。自宅は全壊、仮設住宅にて生活。
17 髄膜炎 車椅子 四肢麻痺、知的障害、発語なし。幼少時発症。父はペディキャブ運転手、母は小さな商店を営む。自宅は浸水したが被害は軽微。教育その他行政サービスは皆無。
67 脳出血 車椅子 左半身不随。避難所にて生活。
40 脊髄損傷 車椅子
(車輪交換)
自宅は半壊、使用している車椅子の車輪の損傷が深刻で交換が必要。

*調査結果の一部を抜粋して掲載

今後の支援方針

本調査でインタビューをした方を中心に、緊急支援として車いす15台、松葉杖8組を供与する。これら福祉機器の調達については、当初日本で中古品を募る予定であったが、保管スペースの確保、日本からの輸送費や関税等の出費を考慮し、調査団はフィリピン国内での確保を検討した。その結果、マニラ市内で視察した障害当事者による車いす等の福祉機器、知育玩具等の木工品等の製作を行う福祉工場Tahanang Walang Hagdanan Inc.での調達が可能と判断した。

東日本大震災でも見られたように、障害者は災害時に食料などの支援物資を配給しているところまでたどり着くことができない、避難所を利用できない、情報が得られないなど、通常以上に困難な状況に置かれる傾向にある。本調査では同国における障害者が置かれた、おそらく被災前から存在したであろう悲惨な状況を垣間見た。

フィリピンにおける貧困者比率は全人口の3割以上を占め、東南アジアでも最低レベルにある。脆弱な国内経済、教育格差と高い失業率、劣悪な衛生環境、保健医療へのアクセスの悪さ等、過酷な実態に今回のような自然災害や環境悪化が拍車をかけており、最も脆弱な層である障害者は、障害が貧困を招き、貧困が障害者を生み出す悪循環にあると言える。長期的な取り組みのため、DPI日本会議では引き続き支援金を募り、被災障害者の支援を継続する。

(ほりばこうへい DPI日本会議)


※緊急支援への寄付はこちらよりお願いいたします。
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