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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年3月号

列島縦断ネットワーキング【宮城】

障害者検診事業の実施
~四肢機能等の低下予防のために~

西嶋一智

高齢者の介護予防は重視されていますが、障害者の運動機能低下の予防も同じく重要な問題です。誰でも具合が悪い時、たとえば熱がある時などは、近くの内科などを受診するかと思います。ところが、手足の運動機能の悪化や使用している補装具の不具合を感じて相談したい時には、どこに相談したらよいか迷われることが多いのではないでしょうか。

宮城県では、平成25年度から「障害者検診事業」を開始しました。ここにその経緯と内容、実施状況、受検者の声を紹介し、今後の展望を述べたいと思います。

検診を始めた経緯

当センターは身体障害者更生相談所であり、障害者の方からの相談が日々寄せられています。なかでも、地域には身体機能を管理してくれる主治医がいないという声をよく耳にします。相談に上がった時点ですでに、これまで身体機能の管理が十分になされていなかったがためにさらなる機能低下をきたしてしまっている方がいます。リハビリテーションの介入や補装具の工夫で機能・能力の改善が図れるチャンスがあるのに、見逃されてしまった方もいるのが実態です。

宮城県リハビリテーション支援センターでは、平成25年度の新築移転に伴い、附属診療所における障害者専門クリニックの機能拡充を図りました。その一環として、障害者の運動機能面の検診事業を始めました。

事業の目的と内容

健康診断やがん検診など一般的に行われている通常の検診事業は、健康状態の維持や疾病等の予防・早期発見が目的ですが、この障害者検診事業では、運動機能障害悪化の早期発見をしたいと考えています。検診を受けたことをきっかけに、筋力の低下や筋肉が痩せてきたことを知ることで、健康管理に今まで以上に関心を持っていただくことにつながります。

以下は、障害者検診事業の実施要綱の内容です。

〈目的〉 身体機能低下の早期発見をし、リハビリテーションの視点での支援、装具療法など医学的側面、生活的側面への支援を行うことで、障害者のQOL(生活の質)向上を図る。

〈内容〉 四肢などの身体機能面に不安がある方の身体機能評価、リハビリテーション専門医による医療相談。検診結果報告では運動の必要性、身体機能面の健康管理の重要性を啓蒙する。

〈対象〉 身体障害者手帳(肢体不自由)をお持ちの方、あるいは、難病等で四肢機能等が不自由な方。

〈費用〉 無料

※検診の結果、精査が必要な場合は保険診療となることがあります。

〈検診内容と手順〉 検診スタッフは当センタークリニック班が中心となり、リハビリテーション科専門医2人、看護師2人、保健師1人、リハ専門職4人です。

検査項目は次に示すとおりです。

(1)問診チェック(困っていること・痛みの有無等)

(2)身体計測:身長・体重・血圧・握力・肺活量・血中酸素飽和度、四肢周囲径、四肢長、筋力、関節可動域

(3)ADL(日常生活動作)の評価:FIM・FAI、QOLの評価:日常生活満足度(SDL)・SF-36

(4)医師診察(X線撮影・補装具評価等)

(5)生活支援・保健指導

医師の診察の結果、痛みのある部位のX線撮影や、装具で生じた皮膚の創処置が必要な場合は、ご本人の了解を得て、附属診療所での保険診療として対応することもあります。

平成25年度の実施状況

検診といっても、集団検診のように1日に何十人も受け付けるシステムではなく、すべて予約制で対応しました。そうすることで障害のある方の待ち時間を少なくし、リラックスして検診を受けていただくことができたと思います。

〈実施期間〉 平成25年5月1日から9月17日まで、金曜日を中心に検診日を11日間設けました。1時間に2人枠で1日4人程度、希望日時に予約実施しました。

〈受検者の概要〉 総受検者数は34人で男性17人・女性17人、年齢は54~73歳(平均61歳)でした。肢体不自由の原因疾患別内訳は、ポリオ後遺症27人・その他7人(右大腿骨骨髄炎、両人工股関節全置換術後、脊髄梗塞、先天性下肢変形、脳性麻痺、くも膜下出血、関節リウマチ)でした。

〈検診結果の概要〉 検診結果は、A3版の検診結果報告書を各個人に郵送しました。検診結果のコメント欄は医師が記入し、個々人の状況に応じて身体機能の維持、機能低下予防に関する注意点などをきめ細やかに記載しました。初年度であったため、仙台ポリオの会と連携して事業を実施しました。

以下に主な検診結果を示します。

(1)自覚症状の有無:受検者34人中33人(97%)に自覚症状(筋力低下、冷感、関節痛、歩行障害、疲労感、腰痛、筋肉痛、息切れ、肩の痛みなど)がありました。これらの自覚症状がある方のうち、24人(73%)の方が2種類以上の症状を訴えていました。

(2)下肢装具を使用している人は15人(受検者の44%)でした。

(3)ポリオ後遺症27人のうち、Halsteadの診断基準によるポストポリオ症候群に該当する人は9人(33%)いました。

(4)附属診療所での外来診療につながった方は12人(35%)いました。このうち11人にX線撮影を行いました。他には、疼痛への薬物療法、短期間のリハビリテーション介入、装具療法、身障手帳等級変更の診断書作成、定期的な経過観察でした。

(5)保健師による栄養指導を1人に行いました。

受検した方からの声

検診に対するアンケートは23人(受検者の68%)の方から回答をいただきました。

(1)検診時期、滞在時間、検診内容、職員の対応等については、回答者全員が「良かった」と回答されています。

(2)「次回も検診を受けたいと思いますか?」の問いには、22人(96%)が「受けたい」と回答されました。1人は「(センターの所在地が)遠くて不便なので分からない」と回答されました。

(3)また次のような声がよせられました。「自分の体調管理上大変良い」「このような検診が広まれば、いろいろな予防につながると思う」「自身のデータが登録されたので、今後はそれを基に相談やアドバイスが受けられるので良かった」「自分の体のことでも分からないことがたくさんあるので今後とも相談に乗っていただければ心強い」「1歳でポリオに罹患、60歳過ぎたころより身体に不安が増してきたこの時期に検診をしてもらい非常に安心した」「各自治体に、この検診を広めてほしい」「職員の対応がよく、検診結果も分かりやすかった」

以上のように、多くの方が検診を受けたことで安心され、今後も継続して検診を受けたいという結果でした。

今後の展望

今年度は仙台ポリオの会の会員を中心に試行的に検診事業を行い、受検者もまだまだ少人数でした。初年度でもあり、検診を行う側のスタッフも手探り状態で始めたところです。来年度以降は肢体不自由の方に限らず、障害者総合支援法で新たに対象となった難病の方や、知的障害の方、フォローアップも兼ねて当センターで補装具判定を受けた方などにも関係機関と連携しながら当事業の検診を案内していく計画です。

さらに、得られた結果を地域にフィードバックし、四肢機能の低下予防に向けた障害者ケアマネジメントにつなげることが大切であると考えています。また、毎年継続して受検された方には、機能の変化に応じた今後の生活スタイルの再構築を提案したり、必要性に応じてリハビリテーション介入につなげていきたいと思います。

(にしじまかずのり(医師)、およびクリニック班一同)