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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年3月号

列島縦断ネットワーキング【愛知】

草の根ささえあいプロジェクトの目指すもの
~「誰もがありのままを認められる暮らしの中で、ひとりひとりの小さな一歩を大切にしあえるやさしい社会」を目指して~

草の根ささえあいプロジェクト

1 こんにちは、草の根ささえあいプロジェクトです!

私たち草の根ささえあいプロジェクトは、結成から3年。名古屋を中心に愛知県で活動をしています。

今、暮らしの中で「生きづらさ」を抱え、さまざまな困り事で行き詰まっている人の多くが、制度からの支援や保障を受けられず、人々からの手助けも得られず、社会から孤立している状況にあります。そんな孤立に苦しんでいる人たちを「しかたがないよね…」と放っておけない!という想いから、私たちは活動を始めました。

2 弱さを表現できる場と「できることもちより」が社会を変える!

メンバーは、とても多様でユニークです。うつ、元引きこもりの人、障害を抱えている人、障害のある家族と暮らす人、できることとできないことのバランスが悪い人…。誰もがどこかに「弱さ」や「生きづらさ」を抱えています。

それでも私たちが孤立していないのは、そばに「仲間」がいるから。お互いの持つ弱さを共有し丁寧に認め合い、〈できること〉を〈もちよる〉ことで、他の誰かの弱さをささえることができる。そんな仲間との小さな「ささえあい」のくり返しが、どれだけ人生を豊かで生きやすく、楽しみに満ちたものにするかを日々実感しています。

だからこそ、誰もが〈弱さを表現〉できて、それぞれの持っているステキな部分を誰かのために役立たせることのできる社会、誰もが優しさや人とのつながりを感じることのできる社会を目指すことで、孤立する人を世の中からなくすことができると信じています。

その道のりは簡単ではありません。私たちにできることのヒントを得たくて、2012年に「社会的孤立や貧困に至るプロセス及び支援のメカニズムに関する調査」を行いました。

3 社会的孤立や貧困に至るプロセス

調査からは、支援者が制度ありきで支援を組み立ててしまうため、本人が本当は希望していることが無視/軽視され、支援者に使い慣れた既存の制度に当てはめられてしまう現象がみえてきました。その結果、行われる本人不在のあり方が、支援の現場においても本人を疎外し、孤立に追いやっている実態が分かってきました。

また調査では、「本人の側」にも視点を置き、社会的孤立や貧困に陥る本人の心的プロセスも分析しました(図1)。そして両方の結果から、社会とつながり直すために必要な機能を見出しました。

図1 社会からだんだん隔絶されていく現象
図1 社会からだんだん隔絶されていく現象拡大図・テキスト

4 社会とつながり直すために必要な4つの機能(図2)

図2 社会とつながり直すために必要な4つの機能
図2 社会とつながり直すために必要な4つの機能拡大図・テキスト

支援の成功パターンでは、相談者への正確で丁寧な聴き取り(アセスメント)が必ず実施されていました。強みや弱み、育ってきた家庭環境などをよく知り、本人を深く理解することがスタートになっています。

その上で、「本人らしさ」や「その人の生きてきたストーリー」に合わせて、一つの支援機関や一人の専門家だけで抱え込まず、多様な専門分野を持つ支援者や支援サービスをつないで本人をサポートし(2.ネットワーク機能)、制度やすでにあるサービスでは足りない部分は、ボランティアや大家さん、近隣の人など地域の力を活用して(3.インフォーマル機能)、さまざまな主体が本人の状況に合わせた支援体制をつくりあげていました。

その際、本人と地域のさまざまな支援者や応援者とを結びつけ、お互いをよりよく理解するための「社会と本人をつなぐ仲介役」の存在が必要不可欠です(1.通訳機能)。この通訳機能は、支援の専門家が担うのではなく、同じコミュニティで暮らす、身近な人が担うことがより効果的です。

こうした支援が循環し始め、本人がコミュニティの中で認められ、役立ちの場を持てるようになると、「必要とされている実感」が生まれます。そこから生まれる本人と社会とのつながりの変化に気付いて柔軟に対応し、状況にあった支援を組み立て直すこと、加えて、ちょっとした日常の声かけや本人を心配してくれる人の存在が、本人を再び孤立させることなく、よりよい成長のループを生み出すことが分かりました(4.見守り機能)。

5 寄り添い、ささえあう活動

調査で見えてきたことを愚直に実践して役立てる!それが私たちのスタイルです。現在の主な活動をご紹介します。

(1)調査研究事業

「複数の困難を同時に抱える生活困窮者へのヒアリング調査に基づく、当事者サイドからみた相談支援事業のあり方に関する研究」を行なっています。これは、複数の困難を同時に抱える生活困窮者の方が、相談員とどのように信頼関係を構築し、継続した支援につなげていけるかを、当事者にヒアリングすることで明らかにするものです。同時に、相談支援事業所のあり方を解明することもねらいとしています。

(2)相談支援事業 名古屋市子ども若者総合相談センター

名古屋市から受託しています。ニート、引きこもりなどの若年者の社会的課題を解決するために、多分野のネットワークで支え、アウトリーチ・同行を中心とした支援を行なっています。

(3)福祉サービス事業

1.居宅介護事業所 でこぼこ

支援を受けにくかった人にも、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスにより、丁寧なサービスを提供しています。

2.猫の手バンク

さまざまな理由で、制度による支援が難しい生活困窮者の方を、ボランティアで支えています。最終的に、地域でのささえあいにつなげることが目標です。

(4)ネットワーク事業

インフォーマルネットワーク名古屋(略称:まるナゴ)

一つの支援団体だけでは解決に至らない事例を共有し、意見交換を定期的に開催することで、重複した問題を抱えた方々を、複数の団体で支援するネットワークです。

(5)ワークショップ事業

1.できることもちよりワークショップ

困り事を抱えた本人を中心に置き、参加者全員ができることをもちより支援を考えるワークショップを2012年に開発しました。現在、地域のネットワークづくりとソーシャルワークに関わる人材育成プログラムに進化&改善中です(写真)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真はウェブには掲載しておりません。

2.草ラボ(草の根研究会)

月に一度の定例会です。支援者だけでなく一般の方も参加し地域でのささえあい、社会的包摂などのテーマについて話し合う場をつくっています。

6 弱さが弱さのまま、価値になる社会へ

草の根ささえあいプロジェクトは、「強いもの」「効率のよいもの」「分かりやすいもの」よりも、「弱いもの」「小さいもの」「効率の悪い試行錯誤」を大切に見つめ、宝物のようにしてきました。

〈弱さ〉を持つ人は、人の痛みが分かるので、他人の弱さに時間をかけてよりそうことができます。弱さを人に伝えて他人に助けてもらうことができ、それを得意とする人の活躍の場をつくります。〈小ささ〉を大切にする人は、大きく効率のよいアクションは苦手ですが、小さくつながることで生まれる多様性やコラボレーションで、今まで世の中になかったものを生み出すことができます。

この「弱さ」や「小ささ」が生み出す価値を、分かりやすく・広く世の中に伝える方法を模索すること。そしてその試行錯誤の営みを、楽しく深みのあるおもしろさに変えて、より多くの仲間を増やしていくこと。

二つのミッションを胸に、草の根ささえあいプロジェクトは、「誰もがありのままを認められる暮らしの中で、ひとりひとりの小さな一歩を大切にしあえるやさしい社会」を目指していきます。


公式サイト
http://grassroots.jimdo.com