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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年3月号

ほんの森

福祉のまちづくりの検証
―その現状と明日への提案

日本福祉のまちづくり学会編

評者 金政玉

彰国社
〒162-0067
新宿区富久町8-21T&Tビル
定価(本体2500円+税)
TEL 03-3359-3231
FAX 03-3357-3961
http://www.shokokusha.co.jp/

この本を手にして思ったのは、題名にある「福祉」をどのように理解すればよいのかという疑問と、障害者制度改革の最初の大きなハードルとなった障害者基本法の改正(2011年7月成立)を議題にした障がい者制度改革推進会議の議論である。議論では、旧基本法の目的にあった「障害者の福祉を増進する」について、「福祉」という言葉のニュアンスが歴史的に障害者を保護の対象とみなしてきた現実を引きずっているという意見があった。改正では「障害の有無によって分け隔てられることなく、(略)共生する社会を実現するため」となり、その中で障害者の幸福を追求する広義の「福祉」概念を包含するという主旨でまとめられた。

この主旨と、本書の帯の「いかなる人も排除せず、包み込むまちづくりが〈福祉のまちづくり〉である!」というメッセージを考えると、本書にはインクルーシブ社会の「福祉」の概念を再構築する方向感があり、制度改革の方向とも大枠で一致しているという理解を私なりにすることができた。

本書には、40年におよぶ福祉のまちづくりの成果と検証が意欲的に詰め込まれている。

最初の〈はしがき〉では「本書では、1970代初頭から少子高齢社会の今日までの福祉のまちづくりを検証し、市民、障害当事者を主体とした福祉まちづくりで、私たちが何を学んだのか、そしてどのように未来のまちづくりへつながるヒントを得ることができるのかについて、取りまとめることとした。」とあり、全体の構成(序…いま、福祉のまちづくりとは何か/1章…二つの大震災から見た福祉のまちづくりの検証/2章…住まいとくらしの検証/3章…移動・公共施設・情報環境の検証/4章…福祉のまちづくりの手法と方法の検証/5章…法制度と仕組みの検証/結び…これからの福祉のまちづくり)を見ても、本書の領域は極めて重層的で広範である。

一方で、施策としての環境整備が一人ひとりの障害特性によるニーズまでカバーしていくにはどうしても限界が生じる現実もある。

「福祉のまちづくり」による環境整備の成果と、制度改革の大きな到達点である障害者差別解消法の個別的合理的配慮がどのようにしてお互いの役割を確認し連携し合えるかは、今後の核心的課題の一つでもある。本書が環境整備と合理的配慮との関係を考え理解することができる一助となり、共生社会の内実づくりに役立つ文献として広く読まれることを期待したい。

(きむじょんおく 内閣府障害者制度改革担当室)