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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年5月号

列島縦断ネットワーキング【愛知】

みんなプロジェクト
~地域と心をつなぐ「楽らくスタイル」~

山口美香

「みんなプロジェクト」の始まり

障害のある子どもたちがおしゃれをして外出したいと願っても、既製服では、着用に時間がかかり、動きも制限され、色や形の選択も限られてしまいます。そんな悩みを解消し、子どもたちの自立と社会参加への一助にしようと、愛知県立一宮特別支援学校が6年前から地域と連携して取り組んでいる「みんなプロジェクト」について紹介します。

始まりは、平成20年度、「『楽らくスタイル』で社会参加」のテーマのもと、愛知県教育委員会から指定を受けて取り組んだ「心をつなぐ学校づくり推進事業」です。「楽らくスタイル」とは、着脱が簡単で、着心地が楽、気持ちも楽しくなるような、着やすくておしゃれな衣服や小物の総称として、一宮特別支援学校で名付けられたものです。伝統ある繊維の街一宮市の地場産業を生かし、学校が核となって、公益財団法人一宮地場産業ファッションデザインセンター(FDC)や、あいち産業科学技術総合センター尾張繊維技術センター(以下、繊維関連機関)、地域企業、地域の高等学校との交流と協働により事業を実施しました。障害がある人たちのニーズに対応した布地を開発し、車いす用リクルートスーツやレインコートなど、子どもたちの夢がつまった、着やすくておしゃれな「楽らくスタイル」衣服23点を制作しました。子どもたちが企画・出演したファッションショーで披露し、新聞やテレビでも報道されました。

平成21年度以降も、地域の繊維関連機関や企業との連携を継続し、毎年1点ずつ新しいデザインの「楽らくスタイル」衣服が完成しました。さらに、平成22年度からは、衣服だけでなく、子どもたちや保護者、職員のニーズをもとに、抗菌、消臭性などの機能的な生地を使用した姿勢保持クッションなど、子どもたちの生活を豊かにする小物の制作にも活動の幅を広げました。そして、学校(職員、保護者、子どもたち)を中心に地域の繊維関連機関や企業の協力を得て、みんなが活用できるものをみんなで協力し合って作り上げる取組「みんなプロジェクト」が発足しました。

「みんなプロジェクト」6年間の歩み

(1)「楽らくスタイル」衣服の制作(連携)(平成20年度~現在)

肢体に障害がある人のための着やすくておしゃれな衣服はなかなか手に入りません。「みんなプロジェクト」では、「着やすくてかっこいい服が着たい」という子どもたちの夢を形にしようと、生徒や保護者、職員からのアイデアをもとに、いろいろな服を考案しています。服の上から見える車いすのベルトが目立たない工夫をしたり、袖下や脇にファスナーをつけて着脱をしやすくしたり、汗やよだれを考えて抗菌性のはっ水素材を使用したりするなど、一人ひとりの障害に合わせたオリジナルの服を作って子どもたちの夢を叶えています。これまでにリクルートスーツ、レディーススーツ、ジージャン・ジーパン、Pコート、レディースコート、レインケープ、フォーマルスーツなどたくさんのおしゃれで機能的な衣服が出来上がり、毎年、FDC主催の展示会で発表し、本校のホームページでも紹介しています(写真1・2)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1・2はウェブには掲載しておりません。

(2)開発生地を使用した「楽らくスタイル」小物の制作(平成20年度~現在)

子どもたちや保護者、職員のニーズをもとに、高等部生徒の「作業学習」や「職員研修会」、「PTA小物制作会」において、開発した生地を使用してクッションなどの姿勢保持グッズや体温調節に役立つ小物の制作を行なっています。暑い夏に保冷剤を入れて首にまくことができるおしゃれな「ひんやりスカーフ」は、大活躍です。これらの一宮特別支援学校オリジナルの小物には、全校から公募した若葉のロゴマークをつけ、子どもたちが学校や家庭で毎日活用しています(写真3・4)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真3・4はウェブには掲載しておりません。

(3)地域への発信と広がり(平成20年度~現在)

平成21年度には、全国肢体不自由教育研究協議会において、本校の取組を紹介しました。平成23年度には、教育雑誌「肢体不自由教育」に掲載された本校の取組に対して、日本肢体不自由教育研究会から「奨励賞」を受賞しました。また、平成24年度には、国立障害者リハビリテーションセンター主催の展示会に参加し、日本各地からの来場者に「みんなプロジェクト」を知っていただく機会となりました。

さらに平成24年度からは、美容組合の方々のご協力で、素敵なヘアーとメイクをしていただいた浴衣姿の子どもたちが、「一宮七夕浴衣ヘアーコレクション」にも参加しています。

(4)大学との連携(平成23年度)

平成23年度には、京都女子大学短期大学部からの研究協力依頼がありました。これは、3次元計測を利用して、障害のある人が簡単に自分の体型や感性に合う衣服を低価格でオーダーできるシステム「オンデマンドファッション」を構築するための研究で、高等部の生徒がモデルとなった3次元計測が本校で行われ、素敵なレディーススーツ3着が完成しました。

(5)アクティブチャレンジ事業(平成25年度)

平成25年度は、「みんなプロジェクト~地域と心をつなぐ『楽らくスタイル』~」のテーマのもと、県事業「アクティブチャレンジ事業」に取り組み、学校と一宮地域、遠く離れた岡山県の会社とも連携して、スーツなど7着の服が出来上がり展示会で発表しました。また、「アクティブチャレンジ!」と元気な掛け声が校内に響きわたり、全校の子どもたちがスポンジをちぎり、力を合わせてクッションを作りました。日頃お世話になっている繊維関連機関や一宮駅、消防署など地域の方々に感謝の気持ちを込めて届け、たくさんの笑顔と「ありがとう」の言葉をいただきました(写真5)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真5はウェブには掲載しておりません。

笑顔の花咲く「みんなプロジェクト」

6年前、思い描いた服を着て、目をキラキラ輝かせながら手作りのファッションショーの舞台に立った子どもたち。「“障害がある私たちも輝けるんだ”“堂々と胸を張って生きていいんだ”と生きる希望と勇気をもらえました」と涙ながらに語ってくれた言葉は、今日までずっとこのプロジェクトに取り組む原動力となってきました。

「着やすくてかっこいい服が着たい」という子どもたちの夢を叶える「楽らくスタイル」の衣服作りでは、「この服を着たら、僕、元気になれるね!」とモデルの子どもの満面の笑み。そして、「今まであきらめていたおしゃれが、近づいてきました」と素敵な服を着たわが子に向けるお母さんの幸せそうな笑顔。「子どもたちの笑顔が何よりの喜びです」と言ってくださる心温かい地域の方々の穏やかな笑顔。職員研修会で、「私が作ったクッションを使って姿勢が楽になったとM君が言ってくれたよ」と満足そうな先生の笑顔。PTAの小物制作会で、わが子のために苦手な裁縫にチャレンジ!し、愛情たっぷりのエプロンが出来上がった時のお母さん方のうれしそうな笑顔。

私たちの「みんなプロジェクト」には、この6年間、本当に素敵な笑顔の花がたくさん咲きました。小さかった「みんなプロジェクト」の若葉は、子どもたちの笑顔のためにたくさんの方々が注いでくださった愛情たっぷりの陽ざしを浴びて、少しずつ大きくなってきました。子どもたちの夢を形にしようとつながった温かい心の糸を大切に紡ぎながら、「みんなプロジェクト」がこれからも大地にしっかりと根を広げ、子どもたちがおしゃれで着心地のいい服を着て、社会に踏み出そうとする勇気と自信、そして、地域の方々との豊かな交流を育んでいく架け橋となれば幸いです。

(やまぐちみか 愛知県立一宮特別支援学校教諭)