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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年6月号

発達障害者への相談支援の充実に向けた取組について

田中圭

はじめに

平成14年度に発達障害に関する相談支援の拠点である自閉症・発達障害者支援センターの設置が開始されて約10年が経過した。

この間、発達障害者支援法が施行されるなど、発達障害に対する理解の広がりから、これまで潜在的にあった支援ニーズが掘り起こされ、発達障害者支援センターへの相談が急増している状況にある。

全県の発達障害児・者からの相談支援ニーズに対して発達障害者支援センター1か所だけで対応することは困難であり、既存の多分野の支援機関との連携やその機能強化などにより、身近な地域での相談支援体制の整備を進めることが、全国的にも喫緊の課題となっている。

こうしたことから、本稿においては滋賀県での発達障害の早期発見から継続した支援につなぐための相談支援の充実に向けた取組について紹介する。

1 滋賀県における発達障害に関する相談支援の現状について

滋賀県の人口は約141万人、地理的には中央に日本一の面積を誇る湖である琵琶湖を抱え、その周囲は平野部であるが、県境は山間部となっている。市町村合併が進み、現在は19の市町で構成しており、これを7つの福祉圏域に区分して障害福祉施策を進めている。

(1)発達障害者支援センターにおける相談支援

全県的な発達障害に関する相談支援機関として、平成14年12月に滋賀県自閉症・発達障害者支援センター(現在は滋賀県発達障害者支援センター)を県北部(湖北福祉圏域内)に開設した。

開設以後のセンターでの支援実績の推移を見ると、平成22年度以降、相談支援件数は年間延べ3千件を超えるとともに、就労支援や発達支援を加えると4千件前後で推移している(図1)。また、年齢別では、19歳以上の利用者が年々増加しており、全体に占める割合も6割を超える状況となっている(図2)。

図1 相談支援・発達支援・就労支援の推移
図1 相談支援・発達支援・就労支援の推移拡大図・テキスト

図2 利用者の状況(ライフステージ別)
図2 利用者の状況(ライフステージ別)拡大図・テキスト

このように、発達障害者支援センターは、相談希望に対する迅速な対応や、青年・成人期の利用者に対する相談支援の充実が課題となっている。

(2)市町や福祉圏域での相談支援

本県の特徴として、県が設置する発達障害者支援センターに加えて、発達障害に関する1次相談窓口として、市町単位で発達支援センターや発達支援室(以下「発達支援センター」)の設置が進められている。

発達支援センターの設置については、市町独自の取組であることから職員配置やその機能にそれぞれ違いはあるが、相談支援や市町内の行政各課を含む関係機関のコーディネート機能等を有しており、平成14年に、湖南市(旧甲西町)に県内で最初の発達支援室が立ち上げられて以後、同様の取組が全県的に広がり、平成26年4月現在で19市町のうち16市町において設置されている。

組織形態としては、市町直営で運営されている療育教室(児童発達支援事業所等)を発展させたパターンと、障害福祉主管課内に保健や教育等の職員を配置したパターンに分類できるが、いずれも発達障害については、障害が未確定の段階からの支援が必要であることから当事者や保護者が相談しやすくするため、機関の名称も「発達支援」を使用し、「障害」を標榜していないところが多い。

ただ、発達支援センターの多くは、乳幼児期や学齢期の支援からその機能を発展させているため、成人期の支援については福祉圏域単位で設置されている障害者生活支援センターなどの委託相談支援事業所や、働き・暮らし応援センター(就業・生活支援センター)などがカバーしている実態がある。

このため、発達支援センターと連携した支援を担う各福祉圏域に設置されている障害者生活支援センターや、働き・暮らし応援センターでの発達障害に関する相談支援機能の充実を図ることも支援体制の整備を進める上で重要なポイントになっている。

障害者生活支援センター:障害者やその家族等に対して相談支援や居宅介護、短期入所などのサービス提供により総合的な支援を行う地域の支援機関。

2 身近な地域での相談支援の充実に向けた取組

本県ではこうした現状を踏まえ、身近な地域での早期発見から継続した支援につなぐための相談支援の充実に向けた今後の方向性として、1次的な相談支援については、市町の発達支援センターや福祉圏域の障害者生活支援センター、働き・暮らし応援センター等が担い、県の発達障害者支援センターは市町や福祉圏域で支援の核となる人材の養成や、困難事例等への対応による地域支援機能の強化を図るよう整理し、具体的な取組を展開してきたので以下に紹介する。

(1)発達障害者支援キーパーソン養成事業

障害者生活支援センターや働き・暮らし応援センターの職員等を主な対象とした専門研修を、県と発達障害者支援センターの共同で実施している。

研修プログラムは、別表の内容を中心として講義と演習・実技の25単位で構成し、毎年各福祉圏域から1人を選出し、年間7人の養成を目標として実施しており、研修の修了者を「発達障害者支援ケアマネージャー」として県が認証している。これまで、30人を養成しており、今後も研修プログラムを随時見直しながら継続的に養成を進める予定をしている。

表 研修プログラム

○発達障害者支援施策

○保護者支援

○評価・面接技術

○TEACCHプログラム

○行動マネジメント

○就労支援

○自閉症等発達障害支援スタッフ実践研修

○特別支援教育

○医療

○コミュニケーション支援

○ソーシャルスキル支援

○余暇支援、生活支援

○事例検討(コンサルテーション)

○プレゼンテーション

(2)認証発達障害者ケアマネジメント支援事業

県の委託事業として、福祉圏域単位の支援体制の充実を図るため、発達障害者支援キーパーソン養成事業において養成した「発達障害者支援ケアマネージャー」を障害者生活支援センターに配置し、市町の発達支援センター等と役割を分担しながら、主として、学齢後期から成人期を主な対象とした相談支援や事業所等へのコンサルテーション、福祉圏域に設置されている協議会を活用した支援体制の検討などを目的とした事業を実施している。

本事業については、平成17年度から平成19年度まで実施した厚生労働省のモデル事業である圏域支援体制整備事業の成果を踏まえ、平成20年度から事業を開始し、実施圏域を段階的に拡大しており、現在は、大津と南部を除く5福祉圏域(5センター)において実施している。

(3)障害者医療福祉相談モール

地域で対応が困難なケースには、発達障害に加えて他の障害が重複していたり、ひきこもりの状態にあるなどさまざまな課題を抱えている場合が少なくない。

このため、昨年7月に県が所管する「発達障害者支援センター」、「知的障害者更生相談所」、「ひきこもり支援センター」、「高次脳機能障害支援センター」、「地域生活定着支援センター」を県立精神保健福祉センター内に集約し、ワンストップの相談受付窓口を設置するとともに、各機関が連携して相談支援・地域支援を行うことで、地域で対応が困難な複雑・複合化した相談に、障害が特定されていない段階から、高い専門性で一貫した対応を行うことを目的として、障害者医療福祉相談モールを開設した。平成25年度は84ケースに対して支援を行なったが、今後もワンストップ窓口への相談が増加することが見込まれる。

本年度からは、相談対応とともに地域の人材養成として発達支援センターや母子保健、子育て支援等の市町で発達障害児・者支援に関わる職員に対する体系的な研修も実施する予定である。

おわりに

発達障害の支援については、早期発見から、医療・保健・福祉・教育・労働等の関係機関の連携により継続した支援を実施することが大切であるが、そのためには各ライフステージにおいて相談を受け、支援をコーディネートする役割が重要となる。

本県では、その基本的な役割を市町の発達支援センターや福祉圏域にある障害者生活支援センター、働き・暮らし応援センター等に位置付けるとともに、発達障害者支援センターは、直接支援から地域支援に役割を少しずつシフトさせる形で取組を進めてきた。

依然として、各機関のマンパワーの不足や支援機関同士の支援情報の引き継ぎ、さらには支援の専門性の一層の向上など課題は多くある。

また、成人期の発達障害者が利用可能なサービスが不足しており相談支援からつなぐ先がないため、相談に滞留が生じていることも大きな課題である。

このため、本県では、平成24年度より発達障害者に対して、生活訓練と就労準備訓練を一体的に提供し、地域での自立生活につなげるとともに、支援のノウハウを他の事業所等に普及させる取組にも着手したところである。

今後も、より身近な地域で発達障害児・者やその家族が必要な支援を継続的に受けることができるよう相談支援や具体的な支援サービスの充実に取り組んでいきたいと考えている。

(たなかけい 滋賀県健康医療福祉部障害福祉課精神保健福祉担当)