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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年6月号

当事者からみた相談支援
―知的障害当事者へのインタビューを通して―

髙橋悦子

1 聴きとり調査(概要)

「相談支援」ということを、知的障害当事者は、どのように受け止めているのだろうか。そしてその相談支援を利用して、どう感じ、何が必要だと思っているのだろうか。

これらの疑問から、相談支援の利用体験のある知的障害当事者7人(30~40歳代、男性4:女性3、重度1:中度4:軽度2)に、2011年4月~11月、聴きとり調査を行なった1)。調査は、当事者の思いを聴きとり理解を深めるため、原則複数回実施して対話を重ね、さらに調査前後にわたり、説明や内容の確認・同意等を丁寧に行うよう努めた。

本稿では、当事者の方々の声、相談支援への思いや願いを紹介する。

2 当事者が語った相談支援

*は当事者のことば ( )は筆者の加筆

(1)「自分は頼んでいない・何も聞いてない」〈きっかけや説明〉

*○○さん(=支援者)、家に来てくれた。(頼んだのは)自分ちがう。

*(最初に)説明とか全然なかった。親がたぶん契約して、自分してない。頼んでないし、聞いてないし、知らんし。

*(最初に)説明、誰からもなかった。記憶にない。センターの人から、説明とか「こんなんできる?」「したことある?」も聞かれなかった。契約もサインもしてない。何かいきなり、支援してもらうってなってた。決まってた。

*(前の相談支援終了時)契約書「もう支援しません」って紙見た。説明なかった。(書類)見てわかった。サインした後、(支援者が)「もう支援は打ち切り」って言った。

これらの声から、きっかけは家族など周囲の人の働きかけで、その都度の説明等も十分行われたとはいえない様子がみられた。では、実際の相談場面をどう感じていたのだろうか。

(2)「なかなか言えない・わからんから聞けない・言わないまま」〈相談場面で〉

*(相談時)ずっと遠慮してた。イヤって言ったらアカンって気にしてた。

*(相談が)前はイヤやった。「恥ずかしい」「これ言って良いんかな」「わからんこと、聞いて良いんかな」とか思って。わからんから、聞けなかった。

*困ってる時に(支援者が)「どうしたん」って、聞いてくれたら言えるのに。

*(要望)伝えてません。言ってみたいんですけど、自分からは言いにくい。

*(相談に行った時)周りに人いたら、話しにくいから、言わんまま帰る。

*他の人(=当事者)が支援者に(意見を)言ってるのを見て「言って良いんや」って思った。でも、なかなか言われへんかった。勇気なくて言えなくて。

前記の声から、不安や遠慮によって、自分からはなかなか相談できない様子が伝わってくる。しかしそれも、相談を重ねるうちに、変化がみられるようなっていく。

(3)「聞いたらわかる・言ったら変わる」〈相談の(+)の変化〉

*(相談して)「わからないことは、聞いたらわかる」という事が、わかった。

*「グループホームに入りたい」って言ったら、(支援者が)「あるよ」ってなって、入った。(その後)「出たい、ほかに移りたい」って言ったら、新しいとこに移れた。

*パソコン買う時、相談の人(=支援者)に「一緒に行って」って。で、選んでもろた。

*後悔したことあって。支援者に言っとけば良かったって、いくつかあって。で、言うようになった。言ったら変わったから「言わな損」って思った。

以上から、「相談支援」というものを、当事者が体験をとおして受け止め、利用する様子・(+)の変化が表れていることが分かる。ただ同時に、相談してもうまくいかない場合もあるようだ。次に紹介する。

(4)「よくわからない・あまり変わらない・支援してもらえない」〈相談の(-)の変化〉

*相談しても、よくわからないとか、あまり変わらないとかあります。支援者が難しい言葉、言ったり、よくあります。(その時は)「どういうこと?」と聞きます。教えてくれてわかる時もありますけど、(説明が)わからない時もあって、困ります。

*「話、聞いてほしい」って言っても、「忙しくって、話聞かれへん」って言う。困った時とか、全然(支援)やってくれへん。「アカン」ばっかり。(そんな時は)相談のってもらえる知り合いに、言ったりする。

*(前の相談支援の時)何度「話聞いて」「支援して」って言っても、聞いてくれない。全然(支援)なくて、そのままやった。(そんな中)骨折して(困って)電話しても、支援者は(家に)来なかった。で、支援者ちがう別の人が、来て助けてくれた。

伝達面の齟齬(そご)などで困る様子や、支援が受けられず不利益を被(こうむ)る状況があることが浮上していた。このような経緯を踏まえ、当事者は現行の支援をどう感じているのだろう。

(5)「困ったことを一緒に・話聞いてもらうと安心・役立つ」〈相談支援を利用して〉

*後見人が見つかったとか、将来の状況、わかったのが良かった。

*いろいろ情報、教えてもらえるのが良い。就職とか、お世話になった。

*(支援者に)話聞いてもらうと、気が楽になって落ちつく。

*何かあったら、すぐ連絡できるから安心。いつでも、相談できることが大事。

*今は、(支援者が)訪問して話聞いてくれる。困った時、すぐ一緒に動いてくれる。

*前に困った時、支援者が一緒に動いて、(対応を)やってくれた。

*今の相談支援、困ってても、ほったらかしで、役に立たない。かわりたい。

前の全員の声では、相談での安心感や支援での有益感を大切に考え、評価している様子がみられ印象的だった。では、どんな相談支援を必要だと考えているのだろうか。

(6)「話聞いて・理解して・自分で決めたい・選ぶ支援者」〈必要な相談支援〉

*話、ちゃんと聞いてほしい。時間かけて、1コ1コ聞いて、一緒に考えてほしい。

*勝手に決められたくない。いろいろ聞いてもらって、自分で決めたい。

*できないことやってほしい。お金のこととか、何かあった時の対応とか。

*相談の時、ゆっくり話聞いてほしい。みんな(が)おらんとこで、1対1で。

*話聞いて、一緒に考えて、わかりやすく、わかるまで説明してほしい。

*言葉で、「どうしようか」「こうしたい」って、キャッチボールしてる感じ(が良い)。

*支援者が、当事者のこと、わかろうってするのが大事。当事者も、(支援者に)わかってもらうことが要る。両方(必要)。

*支援者がどう思ってるか、わからないから、ちゃんと言ってほしい。

*(当事者が)自由に何言ってもいいって思う、何でも話ができる環境が要る。

*良い支援者は、当事者本人の立場になって、考えてる人。理解してくれる人。マニュアルとか教えてもらった通りにだけ、考えなしに仕事してる人は、悪い。

*支援者が、(当事者を)見た眼で判断してたらアカン。ちゃんとわかって支援せな。支援者がみんなわかってないってことないけど、わかってない人多いんちゃう。

*支援者は、当事者が良い状態な環境を整える、創るような支援しないと。

*話聞いて、本人の状態とか変化に気付く支援。で、本人が、気付いてないことも気にかけるような支援が要る。必要なら、本人に伝えて、すぐ動くのも良い。

*支援者、選ぶって良いな。選べた方が良い。選びたい。

全員が「話を聞く相談支援」を必要とした上で、意向に沿った支援や要望の実現を強く望む声や、双方の伝達や理解のための配慮や努力・工夫を切に願う声を挙げていた。このことが重く受け止められた。

3 当事者が自分で選び決めるための相談支援へ

調査から、支援次第で当事者の生活が左右される様子、すなわち「自分の暮らしは自分で決めたい、という当たり前のことが(知的障害当事者には)当たり前でない」(三田1997:23)2)ことが浮上した。だからこそ、当事者にとっての相談支援は、自分で決めるという当たり前を取り戻す「“Nothing About Us Without Us”(私たち抜きに私たちのことを決めないで)」3)でなければいけない。

その実現のために、改めて「話を聞く」という相談の本質を第一に、当事者が自ら選び決める人生を、共に創り上げていくような支援が不可欠だと考える。

(たかはしえつこ 大阪府立大学大学院人間社会学研究科博士後期課程)


【註・文献】

1)髙橋悦子(2013)『知的障害者にとっての「体験知」の意味と主体的に生きるための支援』大阪府立大学大学院修士論文

2)三田優子(1997)「暮らしを問う 当事者のスタンス」Aigo 44巻7号P.20-25

3)国連「障害者権利条約」(2006年採択)へのスローガン