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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年6月号

フォーラム2014

障害インクルーシブな災害リスク軽減に関するアジア太平洋地域会議の報告

松井亮輔

はじめに

2014年4月22日(火)から23日(水)の2日間にわたって、仙台メディアテークを会場に、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)、国際リハビリテーション協会(RI)および日本財団の3団体共催による「障害インクルーシブな災害リスク軽減に関するアジア太平洋地域会議―知識を通じて固定観念を変えよう―」(以下、仙台会議)が開かれた。

参加者は、アジア太平洋地域の13か国の政府関係者(防災対策担当および障害対策担当)、国連国際防災戦略事務局(UNISRD)等、国連専門機関代表、仙台市および陸前高田市代表、ならびに障害当事者団体を含む、市民社会団体代表など、全体で約130人であった。

以下では、同会議の背景、目的、主なプログラムおよび同会議で採択された成果文書等について、その概要を紹介することとする。

会議の背景

3.11東日本大震災被災者のデータによれば、障害者の死亡率は、障害のない人びとの2倍以上高い。高齢化と障害は密接に関連しており、今後、アジア太平洋地域各国において高齢化が急速に進むことを考えれば、障害者を配慮した、災害リスク軽減対策が採られなければ、その差はさらに広がることが予想される。

2006年12月に国連総会で採択され、2008年5月に発効した障害者権利条約(日本は、2014年1月に批准)では、第11条危険な状況及び人道上の緊急事態で、「締約国は、(中略)危険な状況(武力紛争、人道上の緊急事態及び自然災害の発生を含む。)において障害者の保護及び安全を確保するための全ての必要な措置をとる。」と規定されている。

また、2013年5月のESCAP総会で採択された、第3次アジア太平洋障害者の十年(2013~2022)推進の政策ガイドラインである、「アジア太平洋障害者の『権利を実現する』インチョン戦略」の「目標7:障害インクルーシブな災害リスク軽減および管理の確保」では、「(中略)災害リスクを軽減および災害に対応するためのプログラムは、障害インクルーシブなものでなければならず、あらゆる人のアクセスと安全のためにサービスおよびインフラストラクチャーにユニバーサルデザインの原則を取り入れることが不可欠である。」とし、そのターゲットには「障害インクルーシブな災害リスク軽減計画を強化すること。」などが掲げられている。

そして、2015年に最終年を迎える、「極度の貧困と飢餓の撲滅」等を目指す「ミレニアム開発目標(MDGs)」後の取り組みとして国連で検討が進められている、「ポスト2015持続可能な開発目標(SDGs)」では、「(障害者も含む)貧困者のレジリエンス(災害への抵抗力および災害からの回復力)を構築し、災害に関連した死亡および経済的損失をX%減らす」こと等の提案が見られる。

会議の目的

これまで世界的な防災・減災対策のベースとなってきた、第2回国連防災世界会議(2005年1月、神戸市で開催)で採択された成果文書「兵庫行動枠組(HFA)2005―2015:災害に強い国・コミュニティの構築」では、障害については明確に言及されていない。

HFAは、2015年3月14日から18日まで日本政府主催により仙台で開催される、第3回国連防災世界会議で総括的に評価され、2015年以降の国際的な防災枠組(HFA2)として再構築されることになっている。今回の仙台会議は、HFA2を障害インクルーシブなものにすることを意図したものである。

会議の主なプログラム

初日の開会式では、主催団体代表による歓迎のあいさつ、マルガレータ・ワルストロム国連事務総長特別代表(防災担当)のメッセージ(UNISRD駐日事務所代表松岡由季氏が代読)、ならびに藤本章仙台市副市長および亀岡偉民内閣府大臣政務官からの祝辞があった。

それに続く「アジア太平洋地域の災害動向と障害インクルーシブな災害リスク軽減の付託事項」セッションでは、日本障害フォーラム(JDF)制作のドキュメンタリーDVD「生命のことづけ~死亡率2倍 障害のある人たちの3.11~」(短縮版)の上映に続いて、藤井克徳JDF幹事会議長から、東日本大震災被災地での障害者の悲惨な経験を繰り返さないためには、障害インクルーシブな取り組みが不可欠であること、またその取り組みを効果的に進めるには、障害のない者と比較しての障害者の被災実態等を正確に把握しうる調査の必要性等が強調された。DVDと同氏のプレゼンテーションは、会議を方向づける上で、大きなインパクトを与えたと思われる。

この会議のユニークなプログラムとして注目されたのは、2日間にわたり、仙台会場とマニラおよび北海道浦河町をインターネットテレビで結んで行われた「障害インクルーシブな災害リスク軽減のさまざまな段階での障害インクルージョン―実践とギャップ分析の共有」をテーマとするセッションである。そのセッションでは、事例研究1として「台風ハイアンから学んだ教訓」についてのマニラ関係者(フィリピン全国障害者問題協議会地域コーディネーター・フレクダ・レバノン氏等)による発表に続いて、リスク評価、準備性、早期警報に関するスニア・ラツレヴ・フィジー政府災害管理局主任災害管理担当官など3人のパネリストによるパネルディスカッション(ファシリテーターは、河村宏・障害インクルーシブ災害リスク軽減プロジェクト・マネジャー)と質疑応答、ならびに、事例研究2として「北海道浦河町における3.11つなみ避難からの教訓」について、北海道医療大学教授向谷地生良氏を含む、社会福祉法人べてるの家等関係者による発表があった。

続いて、災害への対応に関する、アシャ・ハンス・シャンタ記念リハビリテーションセンター副理事長(インド)等2人のパネリストによるパネルディスカッション(ファシリテーターは、マシュー・ロディエック・マーシイコープス公衆衛生・障害スペシャリスト(オランダ))と質疑応答がそれぞれ行われた。

これは、空間的に離れた場所にいる人びとの参加を可能とすることで、仙台会議への参加者を国内外に大幅に拡大するとともに、その成果を同時進行的にそれらの人びとと共有できるようにしたという意味で、画期的な試みといえる。

2日目には、事例研究3として「インドネシアの実践:教育と省庁間協力」について、メリナ・マーガレッタ・アウベイター・サマリター・フンド・プログラムマネジャーによる発表に続いて、「復興―(元通りではなく)よりよい再建―」に関する、阿部一彦・仙台市障害者福祉協会会長等2人のパネリストによるパネルディスカッション(ファシリテーターは、可児さえ・ASB防災教育プログラムマネジャー)と質疑応答が行われた。その後「アクセシビリティと障害インクルーシブな災害リスク軽減」をテーマとするセッションでは、宇田川真之・人と防災未来センター主任研究員による発表「ユニバーサルデザインはすべての命を救う」に続いて、福田暁子・世界盲ろう者連盟事務局長等2人のパネリストによるパネルディスカッション(ファシリテーターは、石井靖乃・日本財団国際協力グループ長)と質疑応答が行われた。

そして、この会議の最後のセッションでは、成果文書「アジア太平洋における、レジリエンス(回復力)に富む、インクルーシブで公平な社会のための、障害インクルーシブな災害リスク軽減を促進する仙台宣言」案についての検討が行われ、一部修正のうえ、発声投票により採択された。

成果文書の主な内容

仙台会議で採択された成果文書は、前文、A.主要メッセージ、B.災害リスク軽減に障害を含めるための具体的行動、C.障害インクルーシブな災害リスク軽減のための戦略的行動、から構成される。その主な概要は、表のとおりである。

表 成果文書の主な概要

A.主要メッセージ

1.災害リスク軽減に障害を含めることは、レジリエンス(回復力)に富む、インクルーシブで公平な社会の創造に極めて重要である。

2.災害リスク軽減のあらゆる段階と意思決定プロセスに、障害のある少年少女および男女とその組織が公平に関与することは、すべての人の有意義な参加の前提条件である。地域社会は、レジリエンス(回復力)の強化において、障害のある人々の知識と技能から利益を得るであろう。

B.災害リスク軽減に障害を含めるための具体的行動

1.国家政府および地方自治体は、障害者団体およびその他の市民社会団体の支援を得つつ、以下を含む行動を通じて、障害インクルーシブな災害リスク軽減の義務付けと実施を確保するために、複数の省庁、複数の部門および複数のレベルによる協調と協力を促進しなければならない。

(a)障害インクルーシブな災害リスク軽減および管理にかかわる政策、計画および戦略を、地域およびその他のレベルでの実施に向けて国レベルで策定するにあたり、障害のある人々と障害関連団体の参加を得る。

C.障害インクルーシブな災害リスク軽減のための戦略的行動

4.我々は、加盟国に対し、本文書に記載されている主要メッセージと具体的行動および戦略的行動を、以下に十分に反映することを確保するよう要請する。

(a)2015年以降の災害リスク軽減枠組。障害を社会的弱者集団のカテゴリーのみに限定することはせず、進捗状況に関する測定可能な指標などに、障害の視点を明白に反映する。

(b)2015年以降の持続可能な開発目標の策定と採択

※成果文書の全文は、以下に掲載されている。
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/resource/bf/sendaioutcome140424jp.html

おわりに

仙台会議を共催した3団体の代表等は、2014年4月25日(金)午前、内閣府に古屋圭司防災担当大臣を訪ね、仙台会議で採択された成果文書を手渡すとともに、その内容について説明した。当日午後、放映されたNHKニュースでは、同大臣は「障害者の防災対策は、重要なテーマとしてしっかり議論していきたい」と述べたことを紹介している。

同大臣の言葉にあるように、HFA2やSDGsに障害インクルーシブな災害リスク軽減等がきちんと盛り込まれるよう、日本政府がイニシアチブをとることを期待したい。

(まついりょうすけ 法政大学名誉教授)