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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年6月号

列島縦断ネットワーキング【福岡】

一般社団法人Q-ACTが運営する北九州市初のACTチーム
「Q-ACT北九州」の活動がスタートしました!!

須田竜太・矢野祥太郎

2014年4月、北九州市内初となるACTチーム「Q-ACT北九州」が活動を開始しました。一般社団法人Q-ACTが運営する2か所目のACTチームです。

1 ACT(アクト)とは

ACT(Assertive Community Treatment:包括型地域生活支援)は、1970年代初頭に米国で開発されたプログラムです。重い精神障害をもつ人であっても、地域社会の中で自分らしい生活を実現・維持できるよう包括的な訪問型支援を提供するケアマネジメントモデルのひとつです。わが国では、2003年度に千葉県市川市国府台地区で日本版ACT(ACT-J)が開始され、その後に京都、岡山、静岡、仙台、長崎、福岡など全国20数か所で、それぞれの地域・システムの中でACTチームが活動しています。

2 ACTの特徴

以下にACTの特徴や考え方を整理します。

1.多職種によるチームアプローチ

精神保健福祉士、看護師、作業療法士、就労支援専門家、精神科医などの多職種で構成されるチームで支援を行います。

2.アウトリーチ(訪問)での支援

自宅や職場、病棟および入所施設など、本人が生活している場に訪問して、現場で直接支援を行います。

3.低いケースロード

スタッフ1人に対して利用者10人までの受け入れ上限が決められており、濃厚な関わりができる体制を整えています。

4.24時間365日対応

夜間や土日祝日も、緊急時には電話対応および緊急訪問いたします。

5.明確な加入基準

利用対象者を明確に定めており、主に統合失調症や双極性障害、重いうつ病などの診断を受け、独力での生活が難しく、社会的に孤立している人たちを対象としています。

6.リカバリー概念

ACTのスタッフは、どんなに重い精神障害をもった人でも自分らしい生活を取り戻し、精神障害をもちながらも成長し、自分の人生に新たな意味や目的を見出していくことができると信じて、その実現に向けて支援を行なっています。

7.ストレングスモデル

症状や障害などのマイナス面に着目してその改善に向けて支援するのではなく、長所や特技、健康的な部分や本人の興味関心に焦点を当てて支援を展開していきます。

8.ハイリスク・ハイサポート

再発などのリスクを避けて保護しようとするアプローチではなく、リスクに挑戦していくために必要なサポートを提供していこうとする考え方です。

9.パーソンセンタードケア

利用者中心の考え方で、治療よりもリハビリテーションよりも、本人の希望や自分らしい生き方を優先して、支援者は伴走者としてサポートしていきます。

3 Q-ACTの特徴(Q-ACTモデル)

当法人が運営するACTチーム「Q-ACT」と「Q-ACT北九州」には共通した特徴があります。

1.家族のバックアップで立ち上がったチーム

もともと当法人は、福岡県内の家族会の方々の強い要望により、全国から志をもった専門職が集まり立ち上がりました。現在も県内各地の家族会代表者の方に法人役員を担っていただき、宣伝および後方支援と第三者評価的役割としてチーム運営の大きな助けになっています。

2.実践と経営の両方をチーム全員で担う

当法人ではチームごとにスタッフ全員で経営を担っています。雇う側と雇われる側の関係をチーム内でつくらないことで、本当の意味でのチームアプローチが可能であるという考えがあったのと、自分たちの食(く)い扶持(ぶち)は自分たちで稼ぐという強い意志があったからです。

3.チームDrを置かず、地域の精神科医と連携してACTを実施

本来ACTプログラムではチーム精神科医がいて、利用者全員の主治医として関わります。つまり、ACTを利用するためには主治医をACTのチームDrに変更しなくてはなりません。しかし当法人のACTチームでは、チーム内にDrを置かずに運営をしています。その分、医療的支援における連携の必要性や手続きの煩雑さなどのデメリットがありますが、利用者からすると主治医を変更しなくてもACTを利用できるという大きなメリットがあります。

4 事例紹介

入退院を頻回に繰り返していたAさんの家族からQ-ACTへ利用相談がありました。Aさんは「退院して地域で暮らしたい」という目標がありました。しかし、病院のスタッフは「この方が退院して地域で暮らせるならうちの入院患者さんは全員退院できる」と話すほどでした。Aさんとの関わりは病院の保護室からスタートしました。週1~2回、Aさんを訪問しながら病院スタッフ等とケア会議を行い、外出同行や外泊支援を繰り返し、退院後は一人暮らしに結びつきました。地域生活の継続には頻回訪問が必要で、週5~15回(1日に2~3回の日もあり)のACTの支援がなければすぐにでも入院になってしまう状態です。

ACTは家族との話し合いや近隣交番、住んでいるアパートの保証会社と連携し、日中活動の場として地域活動支援センターに同行するなど、生活に必要な支援をAさんと話し合いながら進めていきました。

現在、退院して8か月が経過しています。Aさんは地域での自由と苦労を満喫し、近隣トラブルはちょくちょくあるものの、なんとか地域での生活を維持できています。家族は「今までは入院か、家族が命を削って支える以外の選択肢がなかったけれども、ACTができたことで第3の選択肢ができた。専門家が支援してくれるおかげで私たちも気持ちの余裕ができて息子にやさしく接することができるようになった」と話していました。

5 Q-ACT北九州の活動内容

現在、活動を始めて約1か月が経過しました。基本的な開設時間は9時~18時で、朝はミーティングから始まり、全利用者の状況をスタッフ全員で共有しています。ミーティング後は各自訪問に出発し、家族や本人との信頼関係の構築や生活のサポートに努めています。現在の契約者は13人で、契約前段階の相談者が18人います。開設当初ということもあり、医療機関や行政、家族会などから新規利用相談を多くいただいており、チーム内での検討を行なっているところです。毎週金曜日の午前中はケースカンファレンスの時間に充て、チーム全員で生活状況の把握と支援計画作りを行なっています。さらに、ACTからの卒業(ステップダウン)を利用開始当初から意識して、積極的に地域の関係機関との連携も図っています。

すでに利用者には変化が起こっています。引きこもり状態だった方がACTの余暇活動の支援を受けて一人でボウリングに外出したり、退院後に地域での生活が不安で入院したいと話していた方が地域での生活が充実したことで「この生活が楽しいから入院したくない」と話すようになっています。また、家族からも「今まで家族だけで対処してきたけど、ACTさんが来てくれることで心強いし、自分たちも心の余裕ができた」との声があります。このように、利用者や家族の変化に触れることでスタッフもモチベーションがさらに向上しています。

Q-ACT北九州の理念

・ゆめ、希望を持って、自分らしく、感情を表現しながら生きていけるよう支援する

・生活モデル、ストレングスモデルを拠り所とした支援を行う

・見守る 与えない 自らができるような方法を一緒に探す

・障害を持ちながらも、住みやすい「場」を作る

・ハイリスク・ハイサポート

・永続的、普遍的支援であるために、チームで関わる

6 今後の目標

Q-ACT北九州は現在スタッフ5人で運営しています。ACT経験者が1人、未経験者4人というチームです。まだまだ勉強不足は否めませんが、実践を通してスキル、知識を獲得し、利用者、家族の方々へ満足のいくサービスを提供していくという気持ちはチーム全員が共有しています。また、現在のチームだけでは北九州エリアの一部しかカバーできないため、チーム数の拡大を念頭に熱意のあるスタッフの確保および育成を行なっていくことも一つ目の目標としています。

(すだりゅうた・Q-ACT北九州チームリーダー、やのしょうたろう・Q―ACT北九州ケースマネージャー)