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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年7月号

大田区地域生活安定化支援事業の取り組みから

今村まゆら

はじめに

筆者が勤務するかまた生活支援センター(以下、当センター)は、平成14年4月に東京都大田区2か所目の精神保健福祉法上の社会復帰施設である旧地域生活支援センターとして開設された。平成14~17年度の3年間で、東京都内では25か所が開設されており、当センターもその“開設ラッシュ”の波の中でできた施設の一つである。そして、平成18年10月の障害者自立支援法(以下、自立支援法)の完全施行に伴い、旧地域生活支援センターは、経過措置期間も無く、法律上からその名称が消えた。精神保健福祉法内施設になって7年。当センターに至っては開設してわずか4年足らずで、根拠事業が消滅するという事態となった。

そして、多くの旧地域生活支援センターと同様に当センターも、相談支援事業と地域活動支援センター1型事業と1事業所2事業体制へと移行し、現在は、加えて指定特定相談支援事業および指定一般相談支援事業、そして、大田区地域生活安定化支援事業(以下、安定化支援事業)を実施している。

本稿では、地域移行・地域定着を目的とする安定化支援事業に焦点を当て、約6年間の取り組みから、精神障害者の方への地域生活支援についての課題および展望について考えてみたい。

安定化支援事業受託開始までの経緯

当センターでは開設以来、電話相談や面談による相談だけでなく、同行や訪問などで生活支援のニーズに応えていく中で「センターに来所していない」方たちへの支援も増えつつあった。いわゆる『退院支援』も通常業務の一つとして取り組んできた素地があったといえる。

そして、平成18年度から東京都がモデル事業を経て退院促進支援事業(以下、都事業)の本格実施を開始したことを受けて、平成20年度より、当センターでは“退院支援業務”の常勤専任担当者(筆者)の法人独自予算配置を開始した。東京都では、精神科病院の“西高東低”の偏在という特有の課題がある(図参照)。そのため、都事業では、病院ごとに担当コーディネーター事業所を配置し、広域支援連携の取り組みがなされてきている。

図 東京都圏域別の精神病床状況(人口万対病床数)
図 東京都圏域別の精神病床状況(人口万対病床数)拡大図・テキスト

そして大田区は、23区の中でも人口70万人という県レベルの規模の自治体であるが、約60床の単科精神科病院が1か所で、人口万対病床数が2.5(注1)という典型的な“東低”の病床の無いエリアである。

一方で、1年以上の精神科病院の入院者数は毎年300人前後で推移をしている。つまり、多くの方が区外、それも片道1時間以上の遠方の病院に入院せざるをえず、入院期間が長くなればなるほど元の居住地域である大田区には帰りにくいという状況となっている。

当センターの専任担当者が都事業と積極的な連携を図ることで、2年間で17人の大田区民支援対象者がエントリーされた。それは、病院連携を密にしている都事業コーディネーターが「A病院で今退院を進めようとしている方がいるんだけど」という段階から病院に出向く、というフットワークの軽さを大事にしてきた故ではないかと思っている。

筆者は主に退院した後、地域で安心して暮らし続けるための支え手としての位置づけではあるが、入院中から関わることで、退院時という支援の切れ目の“のりしろ”部分の支援体制づくりに努めてきた。

そうして平成21~25年、大田区地域保健福祉計画に『地域生活移行支援コーディネート体制の整備事業』が重点施策計画とされ、平成22年度より東京都地域包括補助事業(予算:都1/2、区1/2)として大田区から当センターが補助受託された。

安定化支援事業の目的と取り組み

東京都が掲げた本事業の目的は、1.主体的、継続的な医療利用の支援、2.地域で安定した地域生活を送るための見守り支援、となっている。大田区での当センターの2年間の先行事業の取り組みにおいては、退院後の主体的な医療継続が困難性を伴い、支援の重要性が明らかであった。

入院医療機関と退院後の外来医療機関が違う場合、単純に診療情報提供書という仕組みだけによると、本人が主体的に医療を継続することが困難な場合が少なくない。本人に通院時間などの負担がかかる部分はあったとしても、あえて、遠方であっても入院医療機関に外来通院することを退院時のプランとすることがむしろ多い。

その方の生活全体の中で、精神科医療(服薬支援、訪問看護も含む)という社会資源を主体的に利用していくことは、地域生活には欠かせない。そのため、特に都で示された事業目的の1は、大田区における安定化支援事業要綱では、“入院中から支援を行う”と表された。また、2の見守り体制の構築というところは、退院後原則1年(更新最長1年延長可)だが、事業終了後再利用可とすることで、支援の継続性を担保できるようにした。

地域移行・定着支援の個別給付化へ

安定化支援事業の取り組みの中で、圧倒的に多い業務は“連絡調整”という“つなぐ”相談支援機能となっている。もちろん情報提供、住まい探しや通所先などの社会資源の斡旋(あっせん)といった具体的な支援も重要である。そのための本人との信頼関係構築についても大切である。しかし、支援者間で、情報だけでなく目的を共有していくことは、本人を中心とした支援チーム体制を整備し、地域で安定して暮らし続けること=地域定着には欠かせない。

平成24年度からは、地域移行・地域定着の両支援ともに個別給付化が開始された。安定化支援事業では、給付事業優先としていく整理をしたところである。

個別給付の課題として、現在は「退院までの動機づけ支援」は入っていない。また、1年給付後の更新については審査会を経なければならないため、2~4年の給付期間を得るのが難しい場合が出てくる。

安定化支援事業では、特に期限を設定していない入院期間中の支援が可能となっている。支援期間を要さざるをえないことも多い数十年の社会的入院をされている方への支援に取り組める素地を活かしていかなければならない。

地域定着においても、安定化支援事業は最長2年間の利用としているが、できるだけ給付事業の計画相談支援や地域定着支援につなぐようにしている。その上で、再入院等で支援の継続性が危惧されるような時には、安定化支援事業を再利用することが可能となっている。

おわりに―課題に向けて

前記のように、安定化支援事業は地域移行・地域定着支援の個別給付、すなわち一般相談支援事業を補完強化する「基本相談支援」部分を担っているといえる。退院に向けての動機づけ支援などの段階から、病院の「押し出す力」に「引き出す力」の協力は必要である。しかし、本人の病状の変化などで対面支援が空振りになることも多く、緩やかで柔軟性のある支援体制が確保されることが必要なのである。また、今回の改正精神保健福祉法では、入院して早い段階で地域支援者が関わることが制度化されたことで、個別の契約可否の有無にかかわらず病院に出向く相談支援事業が求められているといえる。

また、通常の生活支援においても、支援に困難性を伴う方々へは、サービスにつながるまでの手厚い支援が求められることが多く、これは計画相談支援という給付事業だけでなく、基本相談支援事業を土台とした相談支援体制の整備によるところが大きい。

それには、自立支援協議会という地域課題として共有する仕組みが実質どう稼働していくかにかかっており、大田区においても6年経過しているが、進捗状況としては課題が多い。今後の障害福祉計画において、地域移行を重視していく方向性が国から出されたことを契機としていく取り組みの工夫がよりいっそう求められているといえる。

(いまむらまゆら かまた生活支援センター、社会福祉士・精神保健福祉士)


注1 平成24年度「東京都精神保健福祉の動向」(特別区・島しょ編)