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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年7月号

ワールドナウ

メコン川流域国における障害者政策の最新事情とAPCDの活動

佐野竜平

急速に変化する東南アジア

2015年末の共同体設立に向けて、ブルネイ、カンボジア、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、ラオス、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの10か国から成り立つ東南アジア諸国連合(アセアン)は、政治・安全保障、経済、社会・文化の3局面から域内協力を推し進めている。

アセアン加盟国の一つであるタイを拠点とするアジア太平洋障害者センター(APCD)は、アセアン域内における国際協力活動を重点方針の一つとしている。タイ政府と日本政府が協力して設立したAPCDであり、深化するアセアン―日本関係に連動した活動も少なくない。

そこで本稿では、アセアンわけてもメコン川流域国のカンボジア・ラオス・ミャンマー・ベトナム(CLMV)の障害者政策の最新事情およびAPCDによる関連活動について、そのポイントを紹介する。

メコン川流域各国政府を中心とした障害と開発の動き

○CLMV全体

2011年11月17日にインドネシアで採択された「アセアンにおける障害者の役割と参加の増進に関するバリ宣言」およびバリ宣言によって規定された「アセアン障害者の十年2011―2020」の枠組みをベースに、APCDは、特にメコン川流域のCLMV内でさまざまな国際協力活動を行なっている。APCDがCLMVに焦点を当てている背景には、1967年に発足したアセアンにあって、CLMVが概して後発の開発途上国に位置づけられている点がある(注:2014年6月現在、国連によってカンボジア、ラオスおよびミャンマーが後発開発途上国に認定されている)。実際、メコン川流域のベトナムが1995年、ミャンマーおよびラオスが1997年、カンボジアが1999年にアセアン加盟した。

具体的な活動として、APCDはアセアン加盟国間の格差是正を念頭に、貧困削減を目的にした日本―アセアン統合基金(JAIF)プロジェクトを2012年10月から実施している。タイやフィリピン等の他のアセアン加盟国の経験を生かしながら、アセアン事務局、タイ政府、CLMV各国政府、日本政府、地方自治体、障害当事者団体および地元ビジネス業界等と連携しながら、モデル地区での農村市場アクセス改善が主となる活動である。

他にも、APCDのJICAプロジェクトを通じて立ち上がったメコン川流域知的障害当事者ネットワークやアセアン自閉症ネットワーク等を通じて、CLMV内でこれまで比較的サポートの行き届きにくかったテーマに、アセアン統合の前後で引き続き取り組んでいる。

○カンボジア

近年、いくつかの具体的な進捗が見受けられる。起草作業開始後から10年以上を経て、2009年7月に施行された、いわゆる障害者権利擁護法および2010年8月の障害者雇用に関する政令等を経て、2012年12月20日、アセアン加盟国内では、第7番目に国連障害者権利条約(CRPD)を批准した。

2013年5月28日には、フン・セン首相の主宰で「CRPDおよびインチョン戦略2013―2022の実施に関する公式発表会」が行われた。800人以上の障害当事者およびその団体、政府機関、ビジネス等の関係者が参加する形で、社会福祉・退役軍人・青少年更生省(MOSVY)と障害者活動評議会(DAC)が、国連ESCAP、APCDおよびオーストラリア国際開発庁(AusAid)と連携して行なった。障害当事者が参画する形で戦略的国家障害計画(NDSP)2014―2018を作成することが公約化された点は特筆すべきといえよう。

なお、APCDはNDSP2014―2018への助言機関としてカンボジア政府から招請されており、これまで継続して意見交換を繰り返している。MOSVYとDACが、APCD、日本・アセアン統合基金(JAIF)、国際協力機構(JICA)および他の関連パートナーと協力して、NDSP2014―2018を、2014年7月3日に公式に発表することになっている。

○ラオス

1995年6月の首相令第18号により設立された国家障害者委員会(NCDP)は、各省庁間を調整し政策を進める役割を期待されていたが、長い間機能を果たすことはできていなかった。その後、新たに制定された首相令61号第2条によると、NCDPの役割は「政府機関として、首相および他の関係省庁、地方政府による障害と開発に関する支援や権利保護等の活動を調整すること」とされた。労働・社会福祉省(MLSW)下にある国家調整機関であると同時に、県および地方自治体の代表者も参加するようになったが、それでも期待された役割を担うことはできていなかった。その後、2013年9月の首相令232号により、NCDPは「国家障害者・高齢者委員会(NCDE)」に発展的に改編された。ラオスの副首相がNCDEの議長となり、MLSWの年金・傷病・障害部がその事務局を担っている。

なお、アセアン加盟国内で、ラオスは3番目にCRPDを批准している(2009年9月25日)。同時に進められていた障害者権利政令の起草については、2004年からいち早く専門家を現地に送るなど、JICAが重要な役割を果たしてきた。その後も、MLSWはラオス障害者協会(LDPA)、APCD、JICA、国連開発計画(UNDP)およびハンディキャップ・インターナショナル(HI)等と連携して、障害者法制度に関するセミナーや意見交換を繰り返してきた。

諸事情から障害者権利政令策定プロセスは一時停滞していたが、2014年4月18日の首相令137号により、ラオスにおける障害に関する基幹政令として採択された。省庁間の調整機能を持つMLSW下のNCDE事務局が中心となって、LDPA、APCD、日本―アセアン統合基金(JAIF)およびHI等と連携した障害者権利政令の公式発表が、新たに定められたラオス障害者の日(9月27日)前後に予定されている。

○ミャンマー

2011年3月に軍事政権から民政移管したミャンマーの障害者事情は、引き続き、社会福祉・救済復興省社会福祉局(DSW)が中心となって実施されている。民政移管後の2011年12月7日、アセアン加盟国内では第6番目にCRPDを批准した。国内では、児童の権利条約および女子差別撤廃条約に次いで三つ目の国際人権条約批准となった。

この動きをいち早く国内の障害者関連政策に反映すべく、2012年6月27日、首都ネピドーで「ミャンマーにおける権利の実現を:CRPDの促進」と題した条約批准の公式報告会が、DSWおよびミャンマー自立生活イニシアティブ(MILI)主催、国連ESCAP、APCDおよび日本財団を後援に行われた。会議の名称を含め、ミャンマー政府が障害者の権利を前面に置いた史上初めてのイベントとなり、国として障害と開発分野に重点を置いていく姿勢が示された。

また、2014年6月、障害当事者団体やNGO関連団体の後押しを受け、障害者代表が参画する「障害者権利協議会」の設立が合意され、近く正式に発足することになった。

なお、2014年のアセアン議長国はミャンマーである。MILIと日本財団がDSWやAPCD等と連携して2014年12月に開催予定のアセアン障害者国際芸術祭は、これまでのミャンマーにおける障害に関する社会的障壁への理解をより深め、障害者の社会参画をより促進する手立てとして有効なものになると期待されている。

○ベトナム

1998年7月に施行された障害者法令によって設立された各省庁間を調整する障害国家調整委員会(NCCD)と連携して、労働・傷病兵・社会問題省(MOLISA)は、国家として初めて国家障害者計画2006―2010(第1次)を策定した。そのひとつの成果として、2010年6月17日、MOLISAが主導し、障害者の参加と平等を念頭に、保健、教育、雇用、文化、公共アクセス、情報技術等を網羅した包括的な障害者法が史上初めて制定された。NCCDはその後、MOLISA下の社会保護局内の一部署として継続されている。なお現在では、国家障害者計画2012―2020(第2次)が実施されているところである。

こうした背景のなか、2013年8月29日に「障害者の役割と参加を増長するCRPD促進のためのアセアン会議」が、MOLISA、アセアン事務局、APCD、日本―アセアン統合基金(JAIF)および国連児童基金(UNICEF)によって実施された。本会議の成果として、MOLISAがベトナム政府として公式の場で初めて2014年内のCRPD批准を明言し、国内外の障害当事者および他の関係者から広く歓迎された。2014年6月現在、アセアン加盟国内ではブルネイおよびベトナムがCRPD未批准国となっている。

なお、MOLISAとの協定に基づいて、APCDはCRPD批准前後でより一層ベトナムとの国際協力を進めていくよう要請されている。批准へのプロセス以外では、たとえばMOLISA、ベトナム障害連合会(VFD)、APCD、アセアン自閉症ネットワーク(AAN)およびJAIFの協力によって2013年8月に設立されたベトナム自閉症ネットワーク(VAN)のフォローアップである。ベトナムでは、地理的および歴史的背景から、北部・中部・南部の関係者を巻き込む手立てに創意工夫が求められており、この点からもVANは好事例として取り上げられている。

タイおよび他のメコン川流域国を含むアセアンと日本の架け橋に

以上のように、メコン川流域国でのAPCDによる国際協力活動は多岐にわたる。アセアン域内の障害者およびその団体・ネットワークに加えて、タイ政府、CLMV政府および日本政府との連携活動のさらなる深まりが期待されているところ、先のCRPDの第7回締約国会議(2014年6月10日―12日、国連本部、ニューヨーク)では、日本政府の国連代表が国際協力のモデルとしてAPCDを取り上げた。

激しく変動するタイおよび他のメコン川流域国を含むアセアンと日本の架け橋として、APCDの国際協力活動を一つずつ着実に進めていきたい。

(さのりゅうへい アジア太平洋障害者センター(APCD)ゼネラルマネージャー)