音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年7月号

ほんの森

よくわかる障害学

小川喜道・杉野昭博編著

評者 守口恭子

ミネルヴァ書房
〒607-8494
京都市山科区日ノ岡堤谷町1
定価(本体2,400円+税)
TEL 075-581-5191
http://www.minervashobo.co.jp/

本書は、工学、医療、福祉などの専門職を目指す学生向けのテキストであるが、この本の最大の特長は、37人の執筆者のうち、半数以上が障害当事者で「障害のある執筆者が、読者に伝えるべく言葉を選びながら、社会や個人の暮らしなどなど多様な領域を語っている」ところにある。

大学の授業でいくつかの事例を提示した。学生は、「そうか!」「そんな考えがあるとは知らなかった」「機器開発者は、すごい覚悟だなあ」など、自分の考えを述べて生き生きと反応した。編者は、「これからの社会を支える若い人たちが、障害ある人たちと協働する上で、今の自らの姿勢、意識を振り返るきっかけにしてほしい」というが、評者はまさにこれだ、と思った。つまり、読者は机上の理解だけではなく、何か心に残ったり、感じたりするのだ。その迫力こそ当事者の力であり、将来学生が障害ある人と協働するときに思い起こすべき原点(そのものではないかもしれないが)に近いものではないか。

次は、当事者を招いて実際に学生と討論をしてみたい。そう思わせる「障害学」のテキストである。

内容を紹介しておこう。目次の大項目は、1工学・医療・福祉のための障害学入門、2機器開発とユーザー視点、3工学技術と障害者の暮らし、4暮らしのなかでの障害、5支援の現場、支援の仕事、6支援を支える制度:歴史的展開、7支援にかかわる制度のジレンマ、8障害学の思想、である。それぞれの大項目に10前後の小項目があり、全体で77小項目、しかも1項目ごとに見開き2頁、または4頁にコンパクトに収められて読みやすくすっきりとまとまっている。

本書は、当事者主体、当事者参画に基づいて機器開発、サービス・システムの構築などがなされるべきであることを、実例や多彩な写真を用いて、一貫して主張している。評者は作業療法士であるが、一番印象的なのは、第2章の「機器開発とユーザー視点」であり、インクルーシブデザインという戦略にハッとするものがあった。そうだ、生活は、一連の流れである。機器の開発と言っても機器だけの問題ではない。それをどう使う、どのような環境で、と、開発側とユーザーが協働して生活を細かくトレースする過程が、最も重要だ。

生活は時間の流れの中にある。固定された障害に機器を適応するのではなく、当事者の意見を傾聴し、生活の中で生かされる機器にすることに価値がある。当たり前のことであるが、本書を読んで改めてそう考えた。

(もりぐちきょうこ 健康科学大学健康科学部作業療法学科教授)