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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年9月号

バリアフリーの現状と課題、今後の展望

秋山哲男

1 はじめに

2000年(平成12年)から始まったバリアフリー法が2006年(平成18年)に改定された。その後、2010年(平成22年)の整備目標値を2020年(平成32年)の目標値に改定された。ここでは、バリアフリーの法制度の変遷と、2000年(平成12年)以降の法律の整備がどの程度の効果があったかをバリアフリー整備達成率で説明する。最後に、障害者差別解消法、2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催、人口減少、超高齢化社会の到来など、新たな動きを踏まえ、今後のバリアフリーがどのような展開を目指すのかを示しておきたい。

2 バリアフリーの制度の変遷

バリアフリーに関する法律は、1994年(平成6年)に建築分野の「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律(通称:ハートビル法)」の施行がスタートラインである。その後、2000年(平成12年)に「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律(通称:交通バリアフリー法)」が施行されて交通の法律ができた。そして、2006年(平成18年)に交通と建築に関する法律が一体化し「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(通称:バリアフリー法)」が施行された。この法律の柱である道路・交通と建築に加え、都市公園・路外駐車場などが加わった。

3 交通のバリアフリー整備の達成率1)

1.鉄道駅舎と車両等(図1)

鉄道駅舎は、2012年(平成24年)で全国に9,482駅存在し、そのうち5,000人以上の駅舎は2,823駅、3,000人以上が3,457駅である。ここでは、統計数値がそろいやすい5,000人以上の駅を対象としたデータを示す。バリアフリーの法律ができて以降の公共交通施設整備の整備達成率を示したものが図1である。これによると、一日の乗降客数5,000人以上の鉄道駅舎のバリアフリーは最も整備ができていなかった障害者用トイレが2002年(平成14年)に13.0%であったが、2012年(平成24年)の10年経過で86.5%まで整備されている。

図1 公共交通のバリアフリー整備達成率
図1 公共交通のバリアフリー整備達成率拡大図・テキスト

また、段差解消と視覚障害者誘導用ブロックも2012年(平成24年)にそれぞれ89.3%、97.5%まで整備が達成された。駅舎の整備達成率は法律の効果が大きかったことが読み取れる。

2012年度末の整備達成率は、鉄道駅舎の目標値一日5,000人以上の乗降客の駅が100%に対して82%であった。今後の目標値は、2020年(平成32年)が一日乗降客数3,000人以上の駅について100%のバリアフリーを目標としている。

2.車両・船舶・航空機(図1)

2002年(平成14年)から2012年(平成24年)までの整備達成率の変化は、鉄道車両が19.4%から55.8%(目標値50%)、旅客船が2.1%から24.5%(目標値50%)、ノンステップバスが6.5%から41.0%(目標値30%)、航空機が24.5%から89.2%(目標値65%)である。

整備達成率の目標値を鉄道車両やノンステップバス、航空機はクリアしているが、旅客船が目標値を達成できてない。

今後の目標値は2020年(平成32年)であり、鉄道車両が70%、ノンステップバスが70%、旅客船が30%、航空機が90%である。

4 交通以外のバリアフリー整備達成率1)

2002年(平成14年)から2011年(平成23年)の9年間の達成率を述べる。建築物のバリアフリー対象は2000m2以上であり、地方自治体の条例で面積を引き下げている。建築物は26.1%→50.1%、道路は28%→81%である。都市公園に関しては3つあり、園路および広場が42%→48%、駐車場が32%→44%、便所が25%→33%である。

以上から、建築物・公園はなかなか進みにくい現状がある。道路に関しては、かなり頑張っていることが分かる。

図2 建築物・道路・路外駐車場・都市
図2 建築物・道路・路外駐車場・都市拡大図・テキスト

5 基本構想の達成率2)

基本構想制度は2012年(平成24年)からスターしたもので、駅周辺など施設が集積した地区でメンテナンス的なバリアフリーを図ることを狙いとしている。

表1は、市町村から国土交通省がバリアフリー法に基づく基本構想の受理件数を示したものである。これによると、2001年度(平成13年度)は策定築が15地区であったが、2013年度(平成25年度)の12年間で426地区が策定している。この基本構想は、鉄道駅舎は1ルート以上障害者が通行できるルートを整備すること(エレベーターや視覚障害者誘導用ブロック、トイレなどが整備される)や、道路も生活関連経路として障害者が通行できるルートを定め、バリアフリー化する(段差解消や視覚障害者誘導用ブロックを敷設、交差点の音声誘導信号などの整備)ことである。

表1 基本構想の受理件数2)

  基本構想の受理件数
平成13年度 15地区
平成25年度 426地区

国土交通省総合政策局:基本構想作成件数グラフ(平成26年3月末)

6 バリアフリーの今後の課題3)

2013年(平成25年)にバリアフリーガイドラインの見直しを行なってきた。その時に欠けていた課題を以下に示しておく。

(1)基本理念は、公共性の位置づけ、空間の作り方、多様な施設などを統合的に整備すること、事業者との連携などである。

1.公共交通機関の旅客施設および車両等の公共性を確保

バリアフリーの観点から見た「公共性」とは、高齢者、障害者等の移動制約者が他の人と等しく、同じ施設、同じ車両を使い、同じ所用時間、同じ運賃で利用できることを意味する。つまり、自律的な移動環境を確保し、移動経路を分かりやすくすること、大規模旅客施設は複数ルート確保すること、などである。

2.明瞭な空間構成

多くの人は、環境や空間、対象物などから、たくさんの情報を視覚によって得ている。空間構成そのものを視覚的に分かりやすくつくる発想を持つことが重要である。

3.統合的な整備の方針

多様な利用者、多様な施設・設備を包括的に捉え、旅客施設だけではなく都市機能と一体的整備など統合的に考える視点が必要である。さらに、その全体をシームレス(継ぎ目のない状態)に整備する考え方である。

4.事業者間の連携

公共交通の乗り継ぎだけでなく、道路空間、隣接建築物等との連続的な動線を確保すること。

(2)施設・設備の整備については、トイレに関しては、アクセスしやすいこと、多機能トイレに利用が集中するのでこの機能を分散的に配置すること。また、複数設置が今後必要である。

(3)分かりやすい空間の整備を前提として、さまざまな移動制約者の情報コミュニケーション制約の特性と、各種情報提供設備の特性を考慮し、適切な情報の内容、方法、配置等を検討し、整備する必要がある。

(4)人的対応拡充のための職員研修においては、公共交通機関のバリアフリー化にあたって、高齢者や障害者等の自立した日常生活および社会生活を確保する観点から、自律的に移動できる旅客施設、車両等の整備を目指すこと。移動制約者等の利用者の多様なニーズに配慮すること。高齢者、障害者等に尊厳をもって対応すること。一定の対応技術と知識を習得することが必要である。

(5)災害時・緊急時対応は、安全確保と避難が必要になるが、バリアフリー経路の確保ができないことを前提とした計画を立て、適切な情報提供、適切な人的対応を検討すること。

(あきやまてつお 中央大学研究開発機構教授、日本福祉のまちづくり学会会長)


【参考文献】

1)「公共交通機関の旅客施設に関する移動等円滑化整備ガイドライン」(車両編)平成19年

2)国土交通省総合政策局:基本構想作成件数グラフ【年度推移・累計】(平成26年3月末現在)

3)国土交通省総合政策局:公共交通機関の移動等円滑化整備ガイドライン(旅客施設編、車両等編)改訂(平成25年6月12日)