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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年9月号

当事者からの評価

誰もが安心して利用でき、情報アクセスができるには

吉野幸代

平成12年に「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」(交通バリアフリー法)が施行され、公共交通機関の旅客施設、車両等の移動円滑化を促進することが定められてから14年の歳月が流れた。さらに施策の拡充を図るため、「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律」(ハートビル法)と交通バリアフリー法を一体化し、ユニバーサルデザインの考え方を取り入れたバリアフリー新法となって8年が過ぎた。

この法律により、高齢者や障害者などが暮らしやすい環境を実現するために旅客施設、道路、建築物などの一体的、多面的な整備が進められ、向上されつつあるが、聴覚障害者にとっては、いまだに安全性・利便性の向上が図られていないのが現状である。

交通機関等の利用は情報アクセスができずいつも不安

私たちは交通機関をよく利用するが、視覚的な情報を得られないことがあるため不安な思いを抱えることがしばしばある。五感(視覚・触覚・嗅覚・味覚・聴覚)のうち、情報元としてよく使われているのは「聴覚」である。「聴覚」の利用が当たり前の社会の中にいる私たち聴覚障害者はよく苦労する。

たとえば、電車や地下鉄などの車内放送がよく聞こえない私たちにとって、何を放送しているのか全く把握できない。特に、悪天候による運航中止や変更、電車の事故などアクシデントが生じた場合、車掌やスタッフが逐一音声で情報を流しても、私たちは聞こえないために余計に不安になり、判断に迷う。こんな時こそ、音声情報を全部文字化すれば視覚的に把握でき、安心して交通機関を利用することができる。

バリアフリー新法ができても

私の経験で恐縮だが、1.小笠原から東京への帰路フェリーに乗った時のことと、2.岡山から鳥取へ乗り継いだ時のことを紹介したい。

1は、悪天候により東京に到着する時間が大幅に遅れるというアクシデントが生じた。たまたま手話のできる乗客が聴覚障害者の私たちを見かけて、大幅に到着時間が遅れるという情報を提供してくれたお陰で、福岡行き飛行機の変更手配などを済ませることができた。もしその人がいなかったら、私たちは正確な情報を得ることができず、福岡に行くことができなかったかもしれない。

2は、岡山から鳥取までの路線に、土砂崩れにより運転見合わせという事態が生じた。多数の乗客への対応に追われる駅員に鳥取まで行く方法を尋ねると、○○時○○発の電車が遅れて到着するのでこのホームで待ってください、と筆談で簡単な説明を受けただけで、電車を待てどなかなか来ない。ますます不安になったので、駅室まで出向き別の駅員に聞いたところ、他の乗客からの問い合わせを丁寧に断って最後まで対応してくれたお陰で何とか別のルートで鳥取へ行くことができた。

こういう事態が生じた場合、視覚的に分かる情報の提供と担当者の対応が重要になってくる。バリアフリー新法ができても聴覚障害者の場合は解決できない。トラブルが生じたら、不安になるのは聴覚障害をもっている人たちである。トラブルの時の対応だけでない。観光地や名所などを通過するたびに電車やバス等は低速になり、車内案内放送が流れてくることがある。こういう時、私たち聴覚障害者は他の旅客と同様に楽しめないのが現状である。

安全性・利便性に係るさらなる対策を図るには

交通機関は車内での緊急アナウンスを視覚的に伝えるためのハード面を段階的に整備するとともに、駅構内での情報アクセス(券販売機・みどりの窓口など)の向上についても、その駅の規模に応じて目標の設定を義務付けるべきと考える。

バリアフリー新法およびバリアフリー基本構想では、ユニバーサルデザインの考え方や「さまざまな段階での住民・当事者の参加」が謳われているが、これらの法律は「情報アクセス」を含めていない。特にバリアフリー新法には、建築物移動等円滑化のための基準・チェックリストが設けられているが、円滑に移動するために必要な「情報」へのアクセスに対する基準が設けられていない。

「移動手段」という物理的なアクセス同様、場所に関する情報や施設滞在時に起こっている出来事に対する情報アクセス手段の提供は施設設置者が担い、その財源については「ユニバーサルサービス制度」のような形で広く一般から徴収し、その費用により運用される方法を導入することが必要と思う。

列車の遅延時は、代替手段や復旧情報も案内板や文字情報を提供することが重要である。また、駅員やスタッフは「手話ができます」という一目で分かるバッジや腕章等を付けることも重要である。現時点では、交通エコロジー・モビリティ財団において「視覚障害者・聴覚障害者等交通情報提供マニュアル作成のための調査」や、共用品推進機構の「不便さ調査」等が行われており、聴覚障害者のニーズをガイドラインに反映し改善されつつある。

私は公用で上京することがあるが、山手線など新型車両に乗車する時、車内モニター画面で情報が表示されて分かりやすくなってきており、いつも感心する。東京だけでなく、全国各地にも普及してほしいと思う。また平常・緊急の時だけでなく、観光名所なども視覚的に情報アクセスができる交通機関等が整備され、人的に対応できる(手話や筆談等)スタッフを増やすことによって、聴覚障害者や他の障害者が安心して利用しやすい交通環境を整備することを願いたい。

(よしのさちよ 全日本ろうあ連盟理事、福祉・労働委員会副委員長)