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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年9月号

台北市の公共交通機関調査を行なって
~どこかで間違った日本のバリアフリー~

山名勝

13年9月末、交通まちづくり研究会の海外視察で、数人の研究者と共に台北(たいぺい)市を訪れた。私の目的は、介助者なしの車いす使用者が公共交通に乗車し、バリアフリー法施行10年余の実績がある日本との違いなどを、体験的に調査することであった。

台北松山空港からMRTで市内中心部へ

初っぱなから驚いたのは、松山空港の搭乗口段差が、専用スロープで解消されていたこと。日本では大きな段差は当たり前で、携帯スロープが使われることもまず無い。

市内への足はMRTといわれている鉄道路線で、地下鉄であったり新交通であったりするが、全線全駅の戸口で段差解消されており、案内サインは大きく明快で迷わず移動でき、改札の前にどの方向に行けばよいか示されていて、大変有効だった。乗り換え案内や地上への街路誘導も分かりやすく、サインの役割や持つべき機能がよく理解されているのが分かった。

自力乗降できる台湾高速鉄道

台湾国内を縦貫する台湾高速鉄道(新幹線)は日本の新幹線N700系を使用しているが、フリースペースと移乗座席が各2あり、トイレもシンプルで広く使いやすい。ホームと戸口の段差も解消され自力乗降できる。同じ車両を使いながら開業以来、車内にスペースを作らない日本の状況は、実におかしいと実感。

弱者優先を徹底

エレベーターに弱者優先ゾーンが設けられているのが目を引く。鉄道の乗車券発売も専用窓口が設けられ、主要駅ではボランティアの支援員も配置されていた。台北市でこれほど多くの車いす使用者が街に出ているとは予想外であった。

交通に関するすべてを一体管理

台北市交通局のショールームや交通管制センターは市民に解放されていて、自由に見学できる。台北市交通局は日本の交通局と全く違い、交通事業を行う現業部門ではなく、政策立案をはじめ交通事業者の調整や情報提供、交通管制や取り締まり、歩道整備に至るまでの「交通に関するすべてを行う行政機関」であることが分かった。

台北市の交通やバリアフリーが、切れ目無しに考えられている理由がここにあり、歩道整備やノンステップバスの普及など日本より遅れている部分はあるが、全体のシステムは数段優れている。

ひるがえって日本の現状は?

調査同行の新田保次先生は、調査報告「台北市の都市交通視察を終えて~取り残される日本」で「日本の都市交通システムは台湾からも遅れを取っていると痛感し、忸怩(じくじ)たる思いを抱いた。韓国からも遅れを取っていることが顕著であり、このままでは中国、マレーシアにも遅れを取ることは確実である。なぜ、このように立ち遅れたのか。それは90年代以降、先進事例から学ぶこと、そして専門家としての人材を育成することを行政が怠ってきた点にあると思う」と述べている。

同感であるが、私は次の点を指摘しておきたい。「バリアフリー法が劇的な成果をあげたことは否定できないが、その内容や運用に根本的な欠陥を持っている。第1点は、目的が『移動経路の円滑化』を主眼としており、乗車拒否や利用のしにくさについては無力であること。第2点は、運用のためのガイドライン作成や基本構想策定における当事者主体性の希薄さである。当事者よりも一部の専門家の意見が優先され、甚だしくは『事業者が理解しないことはガイドラインには書き込めない』と認識されている」ことである。

たとえ困難な目標でも、数値目標を決め、時間がかかっても達成を目指す姿勢が必要ではないかと考えている。台北市と比較すると、日本のバリアフリーはどこかガラパゴス化し、世界の常識と異なる部分が顕著に見えてくるのであった。

(やまなまさる 交通まちづくり研究会会員)