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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年9月号

障害者権利条約「言葉」考

「アクセシビリティ」

中西正司

第9条は、建物や公共交通機関や情報へのアクセスについて書かれた条文である。英文で読むと非常に分かりやすく明快であるが、公定訳を読むと全くなんのことを言っているのかさっぱり分からない内容となっている。読んだ私自身が一瞬、日本語の読解能力不能に陥ったかのように錯覚する。

問題は、アクセシビリティの翻訳が公定訳では「施設及びサービス等の利用の容易さ」とされていることにある。アクセシビリティの本来の意味は、車いすでも利用しやすい建物や道路、電車やバスなどの設備や情報通信がどんな障害をもつ者にとっても利用しやすいことにある。しかし、公定訳の「施設及びサービス」という日本語からは、このような意味は一切読みとれない仕組みになっている。その上「利用の容易さ」という言葉は、利用が自由にできるという意味を全く持たず障害者が利用する可能性があるという意味にしか受け取れない。これでは本来のアクセシビリティの意味を全く理解していない、誤訳としかいいようがない。詳細に条文を検討してみよう。

第9条第1項では、「締約国は、障害のある人が自立して生活すること及び生活のあらゆる側面に完全に参加することを可能にするため、障害のある人が、他の者との平等を基礎として、都市及び農村の双方において、物理的環境、輸送機関、情報通信(情報通信技術[情報通信機器]及び情報通信システムを含む。)、並びに公衆に開かれ又は提供される他の施設[設備]及びサービスにアクセスすることを確保するための適切な措置をとる。このような措置は、アクセシビリティにとっての妨害物及び障壁を明らかにし及び撤廃することを含むものとする。」(川島・長瀬 訳)と厳しい内容になっている。

日本のバリアフリー法においては、交通機関や建物等の設備を整備することに主眼があり、そのために、障害者の利用の権利の侵害や制限に対しては対応できていない枠組みになっている。そこでは、障害者の移動の権利は明確に確保されていない。そのために、設備が整備されても相変わらず乗車拒否や利用拒否が生じている。つまり、障害者のサービス利用にあたってどういう機能や対応が必要であるかという視点が欠落してしまっている。第9条では「障害のある人が自立して生活すること及び生活のあらゆる側面に完全に参加することを可能にすること」が目指されており、他の者と平等の生活が可能となるような実質的な移動の権利が目指されている。

情報のバリアフリーについては、視覚障害者や聴覚障害者の自立生活を支援するためにアクセシブルな情報、通信その他のサービス(電子サービス及び緊急時サービスを含む。)が求められているが、広報・公共料金明細の表示は利用不可能であり、エレベーターや銀行のATMなどは、公共性が高いにもかかわらず、タッチパネルやスイッチによって光が点滅するものなどが増え、視覚障害者にとっては使いづらいものになっていることも条約の批准とともに改善しなければならないことである。

(なかにししょうじ DPIアジア太平洋ブロック議長)