音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年9月号

知り隊おしえ隊

発達障害のある方たちの学習・コミュニケーション支援に役立つツールやアプリ

井上芳郎

1 はじめに

発達障害者支援法では、発達障害とは「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害」であると規定している。その多くは全般的な知的発達に遅れはなく、聴力や視力は正常であるのに、たとえば、話し言葉の意味理解や文字の読み書きなどに、特異的な困難をもつ方たちである。いわば「見えにくい」障害であることから、周囲からは気づかれにくく、社会生活上の困難をもつことがある。しかし適切な支援があれば、その持てる力を発揮し円滑な社会生活を送ることができる方たちでもある。その特異的な能力を開花させ、実業、学術、芸術、スポーツなど各界で活躍している方たちもいる。

このような発達障害の方たちに対する、学習やコミュニケーション支援ツールの一つとして、コンピュータは以前から利用されてきた。最近はタブレットコンピュータ、スマートフォンなどの、いわゆるモバイル端末の爆発的な普及と無線LANの整備とにより、時と場所を選ぶことなく、コンピュータやインターネットが利用できるようになってきた。

このように、誰もが、「いつでも」、「どこででも」、「手軽に」、使えるようになったモバイル端末での、各種ツールやアプリの活用方法を紹介する。なお今回取り上げたのは、必ずしも発達障害だけに特化した、専用ツールやアプリとして開発されたものではなく、広く一般にも利用されているものであることを、あらかじめお断りしておく。

2 「音声認識」ツール

障害の有無にかかわらず、キーボード入力を苦手とする人は多いのではなかろうか。パソコンしかなかった時代にも、キーボード入力の代わりとしての音声認識ソフトはあったが、認識率のわりには高価であったこともあり、あまり普及することはなかった。最近は、クラウド型音声認識の技術がめざましい進歩をとげ、一部のブラウザやOSでは最初から組み込まれるようになってきた。

オンライン状態でないと使えないのが欠点ではあるが、音声認識の精度はかなり向上してきている。周囲からの雑音が少ない静かな場所で、ゆっくりと明瞭にしゃべると、十分実用になる。モバイル端末の「メモ」や「メール」、「スケジュール」などの各種アプリにも連携しており、「音声認識」で入力できるので、発達障害やキーボード入力を苦手とする方たちに限らず、使ってみたいものである。

3 「音声コマンド」ツール

クラウド型音声認識の技術をさらに進化させたのが、音声コマンド(命令)ツールである。人間の話す自然言語を正しく聞き取り、その意味をクラウド上のデータベースを使って解釈することで、簡単な操作であれば音声だけで実行できるようになってきた。やはり、オンライン状態での利用に限られるのが欠点だが、OSや端末の種類ごとに開発が進んでおり、その実行能力についてはそれぞれ一長一短あるものの、一定レベルの実用に耐えうるところにまできている。

代表的なものとしては、iOSの「Siri」や、AndroidではNTT docomo「しゃべってコンシェル」などがある。これらは、あたかも人間と対話しているかのようなインターフェイスをもち、初心者にも使いやすいものになっている。

4 「時計」ツール

「時計」ツールはOSの種類を問わず、はじめから組み込まれているものである。しかし、本来の「時計」の用途としてだけではなく、むしろストップウォッチやアラーム、タイマーなどとして使われていることも多いようだ。発達障害の中には、通常のアナログ式やデジタル式時計では、時間経過の認識がしにくいタイプの方たちがいる。このような方たちには、タイマーの経過時間が視覚的に分かりやすいものがおすすめである。これ以外にも、アラーム機能や、タイマー機能に特化したアプリも多数公開されているので、お好みによりいろいろと試して使ってみるとよい。

5 合成音声「読み上げ」アプリ(TTS:Text-to-speech)

発達障害には視力は正常なのに、文字の認識に困難のあるディスレクシアと呼ばれる方たちがいる。このような方たちにとっては、テキストを合成音声で読み上げてくれるアプリは極めて有効なものである。一昔前のパソコン時代のTTSでは、漢字の読み間違えがあり、発音やイントネーションも不自然なものがあったが、最近では、無償または安価のアプリであっても、実用に耐えうるレベルのものが出てきている。これらはオフライン状態でも使えるものが多く、各OSに対応したものが多数公開されている。そして、読み上げ部分のハイライト表示や、読み上げ速度の調節、フォントサイズ変更などの機能をもつものも多い。ただし、最終的なTTSの性能は「合成音声エンジン」で決まるので、高性能のものを求めるのなら、やはり有料の「合成音声エンジン」をダウンロードして使うのがよいだろう。

6 「電卓」アプリ

モバイル端末で使える電卓アプリは多数あるが、おすすめなのは、計算過程が画面に残る「計算機+式が見える電卓」という名前の電卓アプリ。発達障害のお子さんで筆算が苦手なような場合、たとえば算数の宿題などの「答え合わせ」に使うとよいだろう。周囲に電卓を使うことへの抵抗感があるようなら、このような名目で使ってみるのも工夫である。

変わり種としては、「聞こえる電卓」という音声読み上げをしてくれるアプリがある。これは音声で確認しながら入力できるので、ミスを防ぐことができる。また「My Script Calculator」という、手書き入力の数字や計算式や数学記号などを認識し、そのまま計算してくれるアプリなどもある。

電卓アプリを使わずとも、ごく簡単な四則計算、単位の換算や為替レート計算などであれば、音声認識ブラウザのGoogle Chromeに、直接計算式などを音声入力すると、結果を返してくれる。ただし、認識精度はそれほど高くないようだ。

7 「音声付きカメラ」アプリ

発達障害には、その場で必要事項を素早くメモに取ることや、手渡された書類やメモなどを読むことが苦手なタイプの方たちがいる。そのような場合は、このようなアプリを使って書類やメモ用紙を写真に撮り、さらにその内容を読み上げてもらい、そのまま録音できるとよい。もちろん自分自身で読み上げて、録音してもよい。撮影した音声付き写真はモバイル端末に保存することや、ネット上で知人などと共有することもできる。ただし、個人情報の保護や、共有範囲などに注意する必要がある。

8 デイジー図書や教科書の定番リーダー、「ボイス オブ デイジー」

デイジーはデジタル録音図書の国際標準規格であり、マルチメディアにも対応し、音声(肉声)、テキスト、画像などを同期させて再生することができる。もとは視覚障害者のためのデジタル録音図書として開発されてきたが、プリントディスアビリティと呼ばれる、通常の印刷物を読むことに困難のある、発達障害の方たちにも有効であることが実証されている。またデイジー図書形式により、アクセシブルなデジタル教科書が、ボランティア団体の手によって「デイジー教科書」として多数製作されている(注)

これらのデイジー図書や教科書の定番リーダーとして、iOSで使える「ボイス オブ デイジー」がある。フォントのサイズや色、読み上げ部分のハイライト表示の色や、読み上げ速度、読み上げのポーズ時間の調節など、ユーザの個別ニーズに対し細かくカスタマイズができるようになっている。また無料版の「ボイス オブ デイジー LITE」は、再生時間が120秒までという制限があるが、それ以外は「ボイス オブ デイジー」と同一機能であるので、試用版としてダウンロードし使ってみるとよい。「ボイス オブ デイジー」の最新のバージョンでは、縦書きやルビ付きのデイジー図書にも対応している。また近日中には、Android版のリリースも予定されているとのことである。

(注)詳細は「エンジョイ・デイジー」 http://www.dinf.ne.jp/doc/daisy/参照。

9 NHK「NEWS WEB EASY」やさしい日本語のニュース(用語解説やルビ付き)サイト

最後にツールやアプリではなく、便利なウェブサイトを紹介しておく。この「やさしい日本語のニュース」サイトは、モバイル端末からでも利用できるので、ブックマーク(お気に入り登録)しておくとよいだろう。

以下、NHKオンライン「NEWS WEB EASYについて」から引用。

「NHKは、人にやさしい放送やサービスをすることを目標にしています。「NEWS WEB EASY」は小学生・中学生の皆さんや、日本に住んでいる外国人の皆さんのために、分かりやすいことばでニュースを伝えるウェブサイトです。漢字には全部ひらがなで読み方をつけました。難しいことばには辞書の説明をつけました。そして、できるだけやさしいことばでニュースを書いています。やさしいことばで書いたニュースは音で聞くこともできます。」

※NHK「NEWS WEB EASY」 http://www3.nhk.or.jp/news/easy/

(いのうえよしろう 埼玉県立ふじみ野高等学校教諭)