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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年9月号

列島縦断ネットワーキング【滋賀】

夢をカタチに 安心をカタチに。
暮らしの安心拠点「あいとうふくしモール」の取り組み

野村正次

妄想から4年。多くの関係者の思いと努力によって、「夢をカタチに 安心をカタチに。」するための議論と実践の場「あいとうふくしモール」が、2013年4月に東近江市小倉町に誕生しました。

モールには「食」と「ケア」、「エネルギー」の充実した安心の拠り所をコンセプトに、それぞれに目的を持った3つの事業所(障がい者の働きを支援する施設、高齢者の暮らしを支援する施設、食を通じて地域循環を目指す施設)があり、各々が持つ機能を発揮しながら互いの事業活動を連携させ、さらに地域との関わりを持つことで、安心と生きがいのある暮らしを創造する場を目指しています。

妄想から構想へ

モール誕生のきっかけは、どのような状態になっても地域で安心して暮らしていくための夢や理想を語り合う場を持とうという呼び掛けから始まりました。2009年5月、1回目の会合には声掛けで集まった10数人が参加して行われ、そこから月1回のペースで集まりました。高齢や障がい者福祉の関係者、医療関係者、行政職員から農業、環境・エネルギー、まちづくりといった多職種の人にも参加の輪が広がり、自由な議論の中で課題や夢を語り合いました。

その夢が次第に妄想図として絵になり、妄想を妄想だけで終わらせないための構想図を描き始めました。東近江市愛東地区(旧愛東町)内で高齢者の介護事業を展開しているNPO法人結の家、障がい者の共同作業所を運営しているNPO法人あいとう和楽、そして、地域の持つさまざまな資源を見直し活用しながら、地域でヒト・モノ・カネがまわる仕組みづくりに取り組む東近江ハンドシェーク協議会(現株式会社あいとうふるさと工房)の三者が、愛東地域の安心拠点として「あいとうふくしモール」構想を具体化していきました。

「あいとうふくしモール」の名称は、「あいとう」は東近江市の愛東地区、「ふくし」は狭い意味の福祉ではなく広く暮らし全般を意味し、「モール」はさまざまな店が並ぶショッピングモールのように、地域の暮らしを支えるあらゆることに対応できる場を目指して命名しました。

運営委員会と拡大モール

3事業所が同一敷地内に施設を整備し、誰もが住み慣れた地域で安心して暮らしていくための拠点とすることを共有し、整備のための具体化を2011年から進めていきました。幸い施設整備に対して厚生労働省と市の協力を得て「地域介護・空間整備事業補助金」を受けることができました。これにより計画が一気に本格化していきました。

3事業所ごとに設計や運営など個々の計画を進める一方で、これまで議論に参加した人たちは「拡大モール」として継続して話し合いの場を持つことと、モールの運営に対して具体的に方向性を検討する場として3事業所と拡大モールからの代表で「あいとうふくしモール運営委員会」を設置して、多くの人がいつまでも関わっていただく仕組みも作ってきました。

3事業所の機能と連携活動

NPO法人あいとう和楽は、障がいをもつ人の就労の場として「田園カフェこむぎ」を開店し、パンづくりや喫茶・軽食を提供しながら地域のギャラリーを兼ねた憩いの場を提供しています。

また、「薪工房木りん」では、間伐材や里山整備で伐採された雑木を引き取り、薪(まき)に加工して3施設が導入した薪ストーブの燃料として提供しています。障がい者の仕事として加工された薪を、3施設が購入して燃料利用することで、障がい者の賃金になり、エネルギーの自給になり、山林整備で生まれる伐採樹木の有効活用にもつながっています。

NPO法人結の家は、介護保険制度によるデイサービス事業と訪問看護事業、居宅介護支援事業を展開しながら、インフォーマルなサービスとして宿泊が可能な部屋を設け、多様な緊急一時ショートステイを可能にしています。24時間明かりが消えないモールの中核施設でもあります。また、多職種連携をいかして、市民や専門職向けの講座や研修会を開催するなどの人材育成にも力を注いでいます。

(株)あいとうふるさと工房は、地域に伝わる食文化や高齢者の知恵を新しい形で提供するレストラン「ファームキッチン野菜花(のなか)」を開業し、地域の食材を地域のお母さんたちが調理し提供しています。福祉事業所への食事の提供や個別配食サービスの実施、次世代への食文化の伝承等食を通した地域貢献を進めています。

暮らしの困りごとを地域で解決

昨年の開設以来、3事業所が連携した活動を進めるために事務局を設け職員を配置しています。3事業所による事務局会議を随時持ち、定期的には、運営委員会と拡大モールの開催を通じて目指すべき方向性を確認しながら進めています。

モール内の連携事業としては昨年の7月以来、2か月に1回程度「もったいないやりとり市」を開催しています。これは地域の高齢者や障がいをもつ人、社会参加ができにくい人等が自分で作った野菜や手作りの惣菜、作品、技術を持ち寄り、一人一台の一輪車に商品を並べてやり取りする場です。埋もれた技術や能力を発揮する場であり、参加者同士の楽しい交わりの場でもあります。お客さんも回を追うごとに増え、開催を心待ちにする人も増えてきました。最近では、20台近い一輪車が並び、賑わいを見せています。こうした普段広く社会と接する機会がない人たちが参加することで、生きがいや楽しみ、次の一歩を踏み出す場になればと考えています。

これと並行して、地域の困りごとを仕事として解決する仕組みを模索しています。愛東地区は純農村地域だけに、少子高齢化が顕著に進んでいます。このため一人暮らしや高齢者世帯が増え、集落においては空家や農地の管理、自治機能の低下等、暮らしや地域の困りごとが増え続けています。

国や県・市の制度や施策だけでは対応できない事象が増える一方です。制度の狭間(はざま)にいる人や制度の対象にならない人で支援が必要なケースも見られます。たとえば、屋敷の草取りや農地の管理、ゴミ出し、三度の食事、買い物や病院への移動手段、空家の管理等々その内容は多岐にわたっています。

一方、地域には引きこもりや人間関係から社会参加ができない若者や中高年の人も潜在的に多くいます。どちらも地域の課題であることは間違いありません。そこで、暮らしや地域の困りごとを社会参加が困難な人が仕事として解決できることができないかと考えています。社会への一歩、一般就労につながる中間就労の場にと考えています。

蓄積された運動と関係性を土台に

モール内の三つの事業には、それぞれ歴史的経過があります。旧愛東町時代から培ってきた活動と顔の見える関係性です。「食」には30余年にわたって進めてきた「農業を基軸としたまちづくり」、「福祉」には田村一二さんの茗荷村構想の実践を受け入れた障がい者参画のまちづくり、「エネルギー」にはせっけん運動から菜の花プロジェクトにつながる資源循環による地域自立の運動。いずれも世代を越えた蓄積があります。この土台と関係性の発展の上にモールが生まれたと言えます。

モールを開設して1年半が経とうとしています。モールという形はできましたが、これで完成したわけではありません。個々の機能を高め、地域の多職種の連携を強めながら、この地域で心豊かに暮らしていける一役を担えるようこれからも頑張っていきます。

(のむらまさつぐ あいとうふくしモール運営委員会代表、株式会社あいとうふるさと工房代表)