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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年10月号

列島縦断ネットワーキング【福岡】

地域活動支援センター「翼」を紹介します

荒浪聖

高次脳機能障害者の施設として

「翼」の朝は、メンバーさんのそろう10時から始まります。曜日によって活動内容が異なりますが、おおむね、今日の日付と曜日の確認、今日は何の日?や最近の出来事などの脳トレとストレッチが朝の定番です。それから作業が始まります。

「翼」は、福岡県内では唯一の高次脳機能障害の方に特化した施設です。現在、登録者は30人(変動します)。週1日だけの方から4日の方まで、一人ひとりの希望や体調・都合などを勘案して、一日15人ほどが通っています。

年齢や性別はまちまちですが、毎日楽しく会話をし、作業をしています。昼休みはカードゲーム「UNO」をするグループと、読書・昼寝組など自由に過ごしています。

脳外傷友の会「ぷらむ」からNPO翼の会へ

「翼」の活動の始まりは家族の集まりからです。まだ、高次脳機能障害という言葉すら知られていなかった平成12年5月に、福岡県脳外傷友の会「ぷらむ」として、福岡市とその近郊の方を中心に発足しました。

当時のことをよく知り、活動を支えてくださった永吉医師は「初めて脳外傷当事者・ご家族の皆様にお会いしたのは、平成12年6月のことで、ちょうど福岡に脳外傷友の会「ぷらむ」が発足した翌月でした。その頃の家族会は、まだ将来の方向性も不安定で、お互いに寄り添いながら助け合って運営しておられたように感じました」と述べておられます。

家族会の脳外傷友の会「ぷらむ」として活動する中、平成18年度に母体の「ぷらむ」が解散という事態になり、作業所「翼」の存続が危ぶまれましたが、新たに、「福岡・高次脳機能障害者と共に歩む翼の会」(通称「福岡・翼の会」)を立ち上げました。

平成22年度にはNPO法人福岡・翼の会として認証され、地域活動支援センター「翼」として活動を続けています。

当時の会長の吉武さんは、「翼だより」1号に次のように書かれています。

「平成17年度に「あいあいセンター」(以下あいあい、福岡市立心身障がい福祉センターの愛称)のご支援・ご協力の下に、専門家のご指導をいただき、家族スタッフ・学生ボランティアの方々の努力による週1回のデイケア事業に始まり、18年度からは、福岡市補助金交付事業として認可され、福岡市小規模作業所「翼」としてスタートしました。

立ち上げ時からの基本理念は、当事者・家族の寄り添える場所、ほっとできる場所、居心地の良い安心できる場所作りです」

今もその理念を大切にした運営を第一義としています。

支援内容

現在、就労移行支援B型への検討はしていますが、まだ就労に向けたプログラムは取り入れてはいません。メンバーさんのニーズに応じ、就労支援センターや実習・訓練をしてもらえる他の機関や施設に紹介し、相談・支援をしてもらっています。毎年何人かは、A型・B型を含め就労しています。

高次脳機能障害はご存知のとおり、注意障害・記憶障害・遂行機能障害・社会的行動障害が主な症状として知られていますが、失語症、失行症、失認症、地誌的障害、半側空間無視、また、マヒやてんかん発作をもった方等々、一人ひとりの症状もさまざまで家族でも理解することが難しく、適切な理解と対応を習得するのには時間がかかります。

作業だけでなくリハビリや相談機能も備える

「翼」は「あいあい」の隣のマンションの5階の一室にあります。「あいあい」は、福岡県に4か所ある高次脳機能障害の拠点施設の一つです。言語聴覚士をはじめコーディネーターがいて、リハビリや相談を行なっています。

「翼」には、主に「あいあい」でのリハビリプログラム終了後の方が紹介されてきますが、定例の情報交換会の中で、相互に個々のアセスメントや課題・今後についてカンファレンスを行なっています。なかには午前中「あいあい」で訓練を受けた後、「翼」に来られる方もいます。

「翼」では、箸の袋入れ・袋折という定期的な受注作業のほかに、浴衣を再生して作った布ぞうりや、福岡市の「ときめきセレクション」で入賞したプッシュ手芸、新聞のカラーページを使ったペーパーリース、はいはい赤ちゃん、おすわりサンタなどいろいろな作品を制作しています。

製品化の最終工程は、ボランティアさんやスタッフが仕上げますが、材料の下準備はメンバーさんが役割分担して行なっています。クオリティーの高さが評判で、リピーターさんが多く、注文制作に追われることもあります。

売り上げは、材料費を除いたすべてを、三半期ごとに「工賃」として出席日数や習熟度に応じて支払われます。

木曜日の言語聴覚士によるグループワークと、火曜日のパソコン教室、月1回の声楽以外はスタッフとボランティアで運営しています。

これら日々の一つ一つの作業や会話は、コミュニケーショントレーニングにもなっていると思っています。

メンバーや家族の寄り添える場所として

私自身は、「翼」に関わってちょうど1年という新人ですが、メンバーさんから教えてもらうことばかりで、その人間的すばらしさに魅了されっぱなしです。

半年ほど前のこと、ある精神科の医師から依頼があり、一人の男性が奥様と一緒に見学に見えました。しばらく見学された後、作業にも参加してもらいましたが、メンバーさんから丁寧に説明があり、手順も教えてもらいました。

「翼」では、毎日の締め括りとして、その日の振り返りをし、一人ひとり自分の表現で発表していますが、男性の番になった時、自己紹介と感想をしっかりと述べられました。

同席されていた奥様は、「夫が笑顔で人と話したり、人前で自分のことを話すところを見たのは何年ぶりかしら」と涙ぐんでおられました。もちろん、男性はその後も「来るのが楽しみです」と通っています。男性を受け止め、心を解放させたのはメンバーさんたちです。

私たち「翼」は治療機関でもなく、授産所でもありませんが、メンバーさんや家族の方のさまざまな意味での心の解放を目指して楽しく活動していきます。

(あらなみきよし 地域活動支援センター「翼」施設長)