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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年10月号

列島縦断ネットワーキング【沖縄】

JDF地域フォーラム IN 沖縄を開催して

長位鈴子・高嶺豊・新田宗哲

去る8月16日(土)、浦添市てだこホールにて、国連障害者権利条約批准記念「JDF地域フォーラムIN沖縄」(主催:障がいのある人もない人もいのち輝く条例づくりの会、共催:JDF)を開催しました。副題は「輝け!!誰もが人生の幸せを選択できる暮らしやすい沖縄県!インクルーシブ社会条例を活かしていくために」です。

第1部 フォーラムの概要

2014年、日本でも障害者権利条約が批准され、沖縄県では「障害のある人もない人も共に暮らしやすい社会づくり条例(通称:インクルーシブ社会条例、以下条例)」が4月1日から施行されています。

今回のフォーラム開催にあたっては、二つの目的がありました。一つ目は、障害当事者のエンパワメント。障害当事者が、自分たちに必要なことを行政に発言していけるように、精神的・肉体的に力をつけることです。条例制定までの6年間の行動で、確実に力をつけていくのを実感してきました。

二つ目は、行政側が、これまでの相談業務だけでなく、差別に該当する事例についても適切に対応できる仕組みづくりを地域ごとに実施していくことにより、実際に差別をなくしていくこと。マスコミの協力も得ながら、条例に対応する徹底的な底上げと行動を起こすことが今、必要だと考えました。

フォーラムには、JDF幹事会議長の藤井克徳(ふじいかつのり)さん、ピープルファーストジャパン副会長の土本秋夫(つちもとあきお)さんをお招きしました。第1部では基調講演「国連障害者権利条約批准後の課題と私たちに問われること」として、権利条約批准、障害者差別解消法制定後に日本がどのように変わり、また変わっていないのか、また、これを国の義務としてどう国連に報告するのかを藤井さんにお話いただきました。

第2部では、県条例の特徴と私たちが取り組むことについて、条例づくりの会顧問の高嶺豊(たかみねゆたか)さんにご報告いただきました。

第3部では、今回初の試みの、クロスディスカッション「条例や条約を活かした生活」と称して、事前に障害当事者や学生、家族会等に一堂に会していただき、4つのテーマ(「障壁とは」「幸せとは」「学生たちに伝えたいこと」「どういう社会になってほしいか」)に関して自由に語っていただいたものをまとめて、当日ビデオで放映し、パネリストにコメントをいただきました。事前の録画で約3時間のものを短くまとめる作業は大変でしたが、ビデオを使用することで、分かりやすかったという感想がありました。5人のパネリストのうち3人は、事前のディスカッションにも参加しており、舞台裏のリラックスした雰囲気で話した内容を当日まとめたり、追加でコメントしたりと、複層的な議論が展開できたと感じています。

参加者は、精神障害当事者団体や相談事業広域アドバイザー、行政、県・市議会の方々も見えられ、条例施行後の試行錯誤の中で、情報を求めている様子が伺えました。

(ながいれいこ 沖縄県自立生活センターイルカ代表)

第2部 条例の特徴とこれから私たちが取り組むこと

当日の権利条約批准記念フォーラムにおいて、私は、「沖縄県インクルーシブ社会条例の特徴とこれから私たちが取り組むこと」と題して講演を行いました。この条例は、当事者のイニシアチブで始まり、当事者が主体となって実現された条例との認識があります。その分、障害当事者の思いや、魂が入った条例との評価が高いです。この条例の作成に関わった者として、よくやったという自負の思いがあります。

条例は、本年4月から施行されています。条例が施行されたことによって、条例を引き合いにして、権利を主張する事例が少しずつ聞かれるようになりました。しかし、これまでの経過を見ると、差別があった場合に、最初に相談にのることになっている市町村の相談窓口がほとんど整備されていないと思われます。市町村にとっては、あくまでも県の条例で、自分たちの条例であるという認識はまだ低いのです。

フォーラムでは、条例は高く評価されたものの、条例の制定だけでは、障害のある人もない人も共に暮らしやすい社会の構築には、まだ道半ばだとの思いが共有されました。条例が障害当事者や県民に理解され、実行されるためには、障害当事者のさらなる運動が必要であること、そのための戦略や活動が話し合われました。その一つに、条例の解説書を発行することが提言されました。

条例には、差別を禁止し、合理的配慮をすべき領域は示されているが、具体的な事例の分析や、解決方法については述べられていません。そのため、条例を理解するための解説本を条例づくりの会が中心になって作成することになります。藤井さんは、それは県につくらせるべきではないかという意見でしたが、県の動きが遅いので、県を刺激するために、こちらから仕掛ける必要があることが確認されました。

具体的には、条例づくりの会を中心に合宿を行い、典型的な事例の分析を行いながら、今年度中に解説書を作成することが話し合われました。これは、自分たちの条例案をつくった時に用いた方法であり、初心にかえったような感覚があります。

解説書を今年度中に発行し、来年度からは、その解説書を用いて、市町村の障害当事者や相談事業者の研修を実施し、市町村の対応を強化することが必要でしょう。特に市町村の当事者団体(たとえば、市身体障害者福祉協会等)との連携を強め、各市町村で差別事例相談員の設置を要請することが急務です。

(たかみねゆたか エンパワメント沖縄代表)

第3部 クロスディスカッション

障碍者にとって、残念ながら住みにくい社会づくりとなっている現状に対し、我々当事者が力を合わせ、声を大にし、社会をも揺り動かすことができたことは、これからの社会に対しての、弱者と言われる者たちに対し、勇気と知恵と希望をもたらす大きな出来事だと私は思います。

第3部クロスディスカッションでは、以下の4つのテーマで議論がなされました。

テーマ1「障壁とは」

もともとどんな生きものも存在するものであり、特に障碍者などと位置づけたり、区別することはできないはずです。大多数の健常者といわれる人たちを中心に物事が考えられ、物作りがなされたために生じえたことに過ぎず、我々当事者が周りの目を気にせず、当たり前に、生活できる社会づくりをしてこなかったみんなが恥ずべきことであり、反省すべきなのです。

テーマ2「幸せとは」

生きていくということは、愛情をどれだけ学びとるかということだと私は思います。間違いに気づけばやり直せばよい。そして、その過程の中で幸せとか不幸とかいろいろな感情が湧いてくると思いますが、命の危険性がなく、食べて生きていかれれば、私は十分幸せだと感じることができます。幸せとは、何も周りと比べるようなものではないと思います。本人の気持ちの問題です。

テーマ3「学生たちに伝えたいこと」

未来を担う若者たちに対し、我々大人たちは、彼らに見守られながら生きてゆく存在になることを理解せねばなりません。自分より年下だからといって傲慢になってはいけないのです。また、若者は我々大人たちから自分の意に反したことを強いられるかもしれません。ですが、その時は自分が正しいと思ったことは信念を枉(ま)げず、主張すればよいのです。たとえ一人でも。ただ分かってほしいのは、他人の命を犠牲にするようなことは絶対にしてはならないことは肝に銘じてください。

テーマ4「どういう社会になってほしいか」

生きていく上で生き物は必ず誰かの犠牲の上に成り立っています。だからと言って、自分の目的のために、周りの者を犠牲にするという間違ったことだけはしてはいけないと私は思います。武器を持つことが抑止力という言い方がありますが、それは間違いです。自分さえよければいいという考え方なのでしょう。私たちの言う「支え合う」という考え方と相反します。武器を持つという行動が相手を全く信用していないということにつながるのではないでしょうか。歴史を学ぶ時、常々考えます。

(にったそうてつ 那覇市地域生活支援センターなんくる)