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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年4月号

ワールドナウ

ロックトインシンドローム患者3人へのインタビューを通して:天畠大輔 in フランス

天畠大輔

天畠大輔は蝶の夢を見る!

「ロックトインシンドロームと生きる人々の意思疎通問題を支援する協会を創(つく)る」。私はこの夢を叶えたい。日本にはさまざまな障がい種別・難病支援組織があります。しかし、いずれも私と類似した障がいをもつロックトインシンドローム患者(以下、LIS患者)の抱えるコミュニケーション障がいに特化していません。LISとは言語障がいと四肢マヒにより発話や手足の動きで意思疎通が不可能な状態を指します。つまり、意識はあるのに喋(しゃべ)れず動けない。そのため、瞬(まばた)き等のわずかな動きをイエス/ノーのサインにしてコミュニケーションします。

私自身、14歳の時に医療ミスによって全身麻痺になり、LIS患者に近い重度障がいと共に生きています。養護学校を卒業した後、4年間浪人をして大学に進学し、現在は立命館大学の博士課程で「障がいとコミュニケーション」について研究しています(詳しくは拙著『声に出せないあ・か・さ・た・な』をご覧ください1))。

LIS状態にある人の支援組織をつくるヒントを探すために、2月7日から13日にかけて約1週間、渡仏してきました。

なぜフランスなのか。きっかけは遡(さかのぼ)ること2008年、『潜水服は蝶の夢を見る』2)という映画に出合ったことです。この映画は、フランスのLIS患者であるジャン=ドミニック・ボービー氏の自伝が原作となっています。私と似たコミュニケーション方法の人がフランスにいたことに驚き、ボービー氏が創立に尽力したAssociation du LockedIn Syndrome(ALIS)という協会を調べ始めたのがきっかけです。彼が遺したこの協会を日本にも創りたい。フランスでは協会の紹介で、パリ近郊に暮らすLIS患者3人と会えることになりました。私の夢の実現に向けたヒントを求めて、フランスで出会ったLIS患者の暮らしを皆さんにご紹介します。

ロックトインシンドローム患者の日々

初めに訪ねたのは、アパートで一人暮らしをしている50代男性のジュリオさんです。彼は10代の時に仕事を求めポルトガルからフランスに移住しており、家族はいません。そのため、20代でLISとなって以降、生活保護を受けながら24時間介助を利用して暮らしています。彼は視線でパソコンを操作する意思伝達装置を用いており、そのスピードに驚かされました。彼は「カチッカチカチッ」と視線でマウスを操作して、自分の生活についてパソコン伝いに話してくれました。彼は「重度障がいのある移民の自分が安心して暮らせるのは、フランスの社会保障制度のおかげです。この国に私は感謝しています」と話してくれました。

彼の場合、自分の発しようとする言葉がパソコンの画面に表示されるため、より直接的に自分の意思を表示できるように感じました。台所を見せてもらった時「今日は夕飯に何を作るのですか」と、彼のヘルパーへ質問すると「僕はジュリオさんの指示したレシピ通りに作るだけだから彼に訊(き)いて」と返答を受けました。何をどのように食べるのかは彼自身が決めて指示しているそうです。生活の主体は彼自身なのだと、わずか2、3時間に垣間見た彼の生活から感じました。

次の日に訪ねたのは、マンションで一人暮らしをしている50代女性のヴァレリーさん宅です。社会派の問題を取材するジャーナリストとして活躍していた彼女は、40代にして脳梗塞で倒れてLIS状態となり、5年間の入院を経て、自宅に戻ることができました。彼女もジュリオさん同様24時間介助を利用していますが、彼女の場合は、上の階で両親が生活しています。彼女には視覚障がいがあり、パソコンでの意思表示が困難なため、特殊な並びの文字盤と瞬きのサインでコミュニケーションをしています。

主に両親が読み取り通訳をしています。一人でパソコンが使えるようにトレーニングも行い、両親は彼女のためにさまざまなリハビリの専門家を家に招き、機能回復を目指しているそうです。両親とヘルパーとリハビリの専門職が毎日彼女の部屋にやってくるので、「忙しい生活だ」と彼女の父親は言います。私は「最近、どこかに外出しましたか?」と尋ねました。「11月に映画を観に出かけたね」と父親が答えました。それは3か月も前の話です。自宅に人の出入りはあるけれど、外に出て人と関わる機会から遮断され、どこか閉塞的にも思えました。

最後は、パリ市内の障がい者施設に入所している30代男性のアルノーさんを訪ねました。大学生活を送っていた彼は20歳の時に脳梗塞で倒れ、自宅療養を経て、現在は施設で暮らしています。彼の意思伝達方法はヴァレリーさんと同じで、文字盤と瞬きを使ったコミュニケーション方法です。私はヴァレリーさんにしたのと同じ質問をしました。すると、同席していた若い男性のスタッフがアルノーさんに確認して「彼はベジタリアンなので先週末に無農薬・有機野菜の展覧会へ行ってきたよ!」と答えました。私は驚きました。

そもそも、私は施設に対して偏見を持っていました。私が以前入っていた施設と同じように、辺ぴな田舎の大部屋に複数名で暮らしているというイメージを持っていたからです。しかし、アルノーさんが入所している施設はパリの街中に位置しています。しかも入居者全員に個室があり、ここでの生活はすべて税金で賄われているそうです。施設での彼の暮らしは活気で溢れているようにみえました。

そこで、インタビューに同席した彼の両親に、息子を施設へ入所させた理由を尋ねました。すると、母親は「息子を家に閉じこめて世話をするのではなく、ケアは専門家に任せて暮らすほうがお互いにとって幸せだと思います。受障当時20歳だった若い息子には、親以外のたくさんの人との関わりのなかで社会的な生活を送ってほしいと思うのです」と答えました。「つまり、在宅生活だと社会性が失われてしまう」という母親の一言を鮮明に覚えています。

インタビューの最中に私のパソコンに不具合が起きた時、彼は「パソコン大丈夫?」とボランティアの女性を介して私に話しかけてくれました。彼の生活をみて、施設にいても自立はできるかもしれないと私は衝撃を受けました。

施設より在宅?

私が施設に居た頃、毎日3時頃になると、私はスタッフから車椅子の障がい児たちと大部屋のテレビの前に並べられて幼児向きの番組をひたすら見せられた記憶があります。当時15歳だった私は「ここは地獄だ」と思っていました。自分の意思が示せず、話相手もなく、なされるがまま受け入れるしかない生活だからです。こうした私自身の経験から、LIS患者に必要なのは自分に合った意思伝達装置と、自分のペースで暮らせる在宅介護体制だと考えていました。

しかし、フランスでの経験を通して、私自身が持っていた施設への偏見を見直そうと思いました。在宅でも施設でも、社会との接点を持ち続けることができれば、自立した生活だと言えるからです。LIS患者のようにコミュニケーションが極めて限られた人たちにとって、意思伝達装置などの意思表示のためのツールはとても重要です。しかし、ツールがどんなに進化してもコミュニケーションとは互いの信用無くしてはできない行為です。だからこそ、それと同じぐらい必要なのはLIS患者に「喋りたい!」というモチベーションを抱かせる「人」と「環境」をつくることではないでしょうか。今回、フランスで学んだことを活かし、今後も日本で調査を継続しながら、LIS患者支援の活動を展開したいと思います。

(てんばただいすけ 立命館大学博士課程)


【脚注】

1)天畠大輔『声に出せない あ・か・さ・た・な』生活書院(2012)

2)ジャン=ドミニック・ボービー 河野万里子(訳)『潜水服は蝶の夢を見る』講談社(1998)