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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年4月号

列島縦断ネットワーキング【福島】

こころとからだを開放して、自由になろう!
英国との文通、そして、インクルーシブダンスワークショップの開催

矢部久美子

ふくしまフレンズUK(FF-UK)は、英国ロンドンに拠点を置くグループで、主に、福島とイングランドの子どもたちの文通支援(参加学校募集と組み合わせや手紙翻訳など)をしています。また、昨年9月には、特別事業として、ロンドンのダンス・カンパニー、スライドと共同し、福島で、インクルーシブダンスのワークショップも開催しました。

http://www.fukushimafriends.org.uk

http://www.slidedance.org

子どもたちの世界を広げたい

名称を決め、ウェブサイトを立ち上げ、正式に活動を始めたのは、2013年の5月ですが、前年の春より文通支援を始めていました。2015年3月現在、日英の300人近い子どもたちが参加しています。狭い空間に行動を制限されていた福島の子どもたちに、心の窓を開けて広い外の世界とつながってもらいたい、少しでも子どもたちの元気がますようお手伝いしたい、そして言語や異文化の学習、国際的感覚の育成にもつながればいいという思いが、イギリスの子どもたちとの文通支援の始まりでした。

古い知人との再会から、新しい出会いに

なかなか文通参加者を増やせずにいたのですが、偶然再会した古い知人が、クリス・ラインさんという小学校の補助教員を紹介してくれました。文通の趣旨に賛同してくれたクリスさんは、すぐにアビィ小学校4年生の24通の手紙を用意してくれました。

その手紙を持って、故郷の福島に帰ったのは、2012年秋のことです。ただ、「24通の手紙を受けてくれる学校をどうして探せばいいのか」。迷っているうち、高校時代のクラスメイトの紹介で、小学校を退職したばかりの大竹仁子さんと彼女の元同僚の須賀川市立西袋第一小学校4年生の担任の管野文江先生に出会い、同先生がアビィ小学校の手紙を受け取って、文通相手になってくれました。

この出会いを機に、翌2013年5月に、大竹さんとふくしまフレンズUKを始めました。今も文通参加者の開拓が一番の課題で、FF-UKの活動を広報してくれるコーディネーターを募集中です。また遅延している手紙の返事を促すのもなかなかのチャレンジです。

手紙の翻訳には10人ほどのボランティアが登録しています。無理なく楽しくできるよう、常に翻訳ボランティアを募集しています。

インクルーシブダンスワークショップ

特別事業として、ロンドンのスライドというダンス・カンパニーと共同でインクルーシブダンスワークショップを開催したのは昨年9月のことです。私が、スライドの活動に何度か参加して、福島でも「運動不足の解消や、精神衛生に役立ててもらいたい」と思ったのがきっかけです。

インクルーシブダンスは、参加者がリーダーの指示・促しのもとに、自由に独自の体の表現をする創作的ダンスです。スライドの地域プロジェクトは、私のように年齢が高く(現60歳)、ダンスの経験がない者でも、小さい子どもでも、障害があっても、一緒に自然に楽しく参加できました。新しく、不思議で楽しい、クリエイティブな体験でした。

「福島でワークショップを開催したい」という思いを、スライドの共同ディレクターでダンス・アーティストのジェマ・コルディコットさんに話すと、彼女は英語の先生として、富山県で2年ほど生活したこともあったため、すぐに同意してくれたのです。問題は資金と参加者でしたが、皆さんから寛大なご協力とご理解を得て、実現にこぎつけました。

9月21日~28日の5日間、計8回のワークショップを実施し、参加者は、全部で160人ほどでした。参加してくれた学校は、福島大学附属特別支援学校、郡山市の大成小学校1年生、福島県立あぶくま養護学校です。時間は30分から50分で、それぞれの学校の体育施設などで行いました。

最初に行なったのは、福島大学附属の生徒たちとです。理想は18人くらいが望ましいのですが、このワークショップの場合は、3回に分けて、各回、生徒や大学生、保護者、先生など30人ほどが参加しました。ジェマさんのインストラクションにしたがって、輪になってそれぞれの動きを他の参加者たちが繰り返したり、2人一組になって広い体育館を目いっぱい使って自由に動き回ったり、音楽に合わせて低く、高く、あるいは中くらいの高さになったり、空間を動きまわりいろいろな形を別々に、また集合的に形成したりなど、30分間フルに楽しく踊りました。取材に訪れていた記者が、参加者の笑顔に驚いていました。

身体はいろんなふうに動き、イメージは無限

公民館でのワークショップは、土日の2日間、2回に分けて実施しました。昼食をはさんで4、5時間。参加者は1回20人ほどでした。小学生から72歳までの多様な世代で、あさかの子ども劇場会員、ふくしまフレンズUKのペンパルやその保護者たち、そして県外からの応援者7人も参加してくれました。2人一組になるところでは、小学生と70代や60代の人が組んだペアが数組あり、素敵な世代間交流になりました。

参加者の「人の身体は、いろんなふうに動く、イメージは無限。人と人の関わりで変化していく」や「みんな、開放されてるなあ」という感想を聞き、インクルーシブダンスの可能性を強く再確認しました。

「ふくしまインクルーシブダンス」発足

ワークショップは、多くの皆さんのご協力のおかげで成功し、特別事業名目でいただいた寄付金にも残額がでました。これをもとに、何とか福島の人に継続してインクルーシブダンスを行うグループを立ち上げてもらいたいと願っていたところ、参加者の一人であった熊谷貴子さん(郡山市)が代表になって、ダンスサークル「ふくしまインクルーシブダンス」を、この1月発足させました。以下は、熊谷さんのメッセージです。

「昨年9月にジェマさんのワークショップを受講し、年齢や性別、障がいの有無に関係なく皆が楽しく参加できる活動に大変興味を持ち、この団体を発足するに至りました。福島大学でダンス教育に永年従事されている鈴木裕美子先生と、ダンスを専攻する生徒さんたちを講師にお招きし、郡山市を中心に福島の地でインクルーシブダンス活動を展開していきたいと考えております。鈴木先生もまた、昨年ジェマさんのワークショップに参加され、インクルーシブダンスが福島の子どもたちや大人たちの心と体の健康、そして生活の質を豊かにすることに役立てることができると確信されたお一人です。

まず第一弾として、春に、福祉事業所においてワークショップを行う計画をしています。その際、事業所の利用者さんだけではなく、ジェマさんのワークショップに参加された方々にも参加をよびかけ、地域のダンスとして開催できればと思っております」

FF-UKは「ふくしまインクルーシブダンス」の活動にロンドンからできるだけの協力をしていきます。そして、熊谷さんたちが、すでに日本でインクルーシブダンスに取り組んでおられる方、また関心のある方たちと交流する機会があればどんなにすばらしいでしょう。

(やべくみこ ふくしまフレンズUK代表)

表1 ワークショップ計画例

○挨拶、緊張をほぐす。みんなで自由に空間を移動する。動く中で出会う、近くの人と、両手を打ち合う。移動して、また近くの人と両手を打ち合う。それを繰り返す。

○ネームゲーム。

○輪になってウォーミングアップ。参加者の一人一人が順番に自由に動いてみせ、それに続いて、みんながいっしょに同じ動きをする。

○床にゴム製のいろいろな色のついたマットを置く。音楽に合わせて空間を自由に動き、マットの近くにきたら低い形、指示にしたがい中間の高さの形、高い形などを創る。

○2人1組になってダンス。一人が形を創る。もう一人は空間を動き回り、パートナーのところへ戻って、パートナーのまわりに重なるように形を創る。最初に形を創ったパートナーは相手の形から抜け出すようにして動きだし空間を動き回る。

○2人1組になったまま、空間の端から各方向へ、いっしょに独自の動き方を考えて動く。

○フィードバック、そして休憩。

○グループ作業。みんなが自由に空間を動く。一人が動きを創る。そのまわりにみんなが集まり、それぞれの形を創る。その後、またみんなが自由に動き出し、誰か一人が形を創ると、みんながそのまわりに集まっていっしょに形を創る、という繰り返しをする。

○2つのグループに分かれる。各グループの一人がまず形を創り、次の一人がその先につながるようにして形を創る。それを全員が繰り返し、独特の曲線を創りながら空間の端から他の端へと移動する。

○2人1組になって、一人が他の体を粘土のように形づくる。次に、その役割を交換する。

○上記3つのアクティビティをどういう順番で行うかを決め、2、3回練習して短い「ダンス」を仕上げ、パフォーマンスをする。

○軽い運動、ストレッチ、そしてフィードバック、挨拶。

表2 参加者アンケートの一部

表現すること
いままでやったことで一番楽しい。自分を表現できるのが楽しい。体を動かして表現する楽しさ。自由な表現はリラックスした気持ちにさせる
開放感
とても気持ちがよい。身体だけでなく、魂がのびのびした。はじめてでも緊張しないでできる。気持ちの開放の仕方を学んだ
交流・コミュニケーション
ペアになって創作ダンスをするのが楽しかった。いろいろな人との交流があった。子どもも大人もつながっていくダンスだと感じた。すべてを受け入れる。みんなと一体感を感じられる。人と関わることが大切だと学んだ
クリエティビティ
人と人がつながるといろんな形が、うまれるのが面白い。思いがけない自分の反応に驚いた。集中力がもてた。これはだめということはない。可能性が無限だということがわかった