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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年4月号

列島縦断ネットワーキング【滋賀】

移動商店街「ぎょうれつ本舗」
~障がいのある人たちの働きを通して、地域に「便利」と「安心」を~

川島和久

1 新しいモデルの移動販売事業

全体の人口は減少傾向にある中で、障がいのある人および高齢者の人口は増加傾向にあります。その中で障がいのある人が地域で働く機会が少ない、地域住民と交流する機会が少ない、障がい理解が進みにくいという福祉的課題があります。一方で、少子高齢化により過疎化や高齢化が進む地域、増える買い物困難者や独居高齢者などの生活困窮者、希薄な社会により減ってきた地域コミュニティなどの社会的課題もあります。

移動商店街「ぎょうれつ本舗」は、山間部や過疎集落などの買い物困難に対するニーズ調査を行い、それぞれ異なる商品を品揃えする販売車が複数台集まり、一体となってあちこちに出向く移動販売事業です。

今までサービスを受ける側であった障害のある人が生活等に不便を感じている人や地域にサービスを提供する新しい形の仕組みで「便利」と「安心」を届け、地域課題を解決していくなかでコミュニティを作っていくこと、また「労働」を通して、地域の中で役割を持ち自分らしく安心して暮らせる社会を作っていくことが目的です(図1)。

図1
図1拡大図・テキスト

この取り組みは平成23年4月の勉強会から始まりました。当法人で製造していたパンや菓子は近隣のみでの販売で、売り上げも伸び悩んでいました。そこで、遠方の顧客を増やすため、県内の他の障がい福祉サービス事業所とともに移動販売の勉強会を開き、高齢者等の買い物に対する課題と障がいのある人の職域開拓、障がい理解の促進という課題をマッチングさせ、さらにさまざまな店が並ぶ移動型販売の新しいモデルを考えました。

2 販売事業と地域コミュニティの提供

ぎょうれつ本舗は、常時2~4台の車両が行列をなして過疎山間集落を中心に回り、食品や日用品を販売する側面と、販売先で買い物に来た高齢者を中心に井戸端会議が始まる場所を提供する地域コミュニティの側面を持ち合わせています。移動販売にあたっては当法人だけでなく、他の社会福祉法人や地域で町おこしに携わっているNPO法人、就労支援に関わる企業などと協力関係を築いています。

ぎょうれつ本舗は、スタッフとして職員1人と障がいのある人1人のユニットで移動販売車に乗り、車両3~4台、スタッフ8~10人で出かけます。職員は運転・販売・接客を行い、障がいのある人はマイクでのアナウンス・販売・接客を行います。出発前は、必ずスタッフ全員で円形になりミーティングを実施、販売先の確認から始まり、衛生チェック、体調チェックをして全員で接客五大用語をスタッフの声掛けで復唱します。

販売している商品は、当初各団体の製造した自主製品を中心にしていましたが、お客様等の地域におけるさまざまな要望を受け、必要に応じて仕入れも行い、品目数を増やしています。

ぎょうれつ本舗の仕事は、地域に出向いて販売することだけではありません。販売している惣菜や生活用品を準備することも大切な役割の一つです。前日から、出かける地区に合わせて生活用品等の買い出しを行い、当日は出発に間に合うように早出で惣菜などの下準備や調理補助を行なっています。また、スタッフは接客技術を身に付けるため、事前に接客についてや商売を理解するための研修を行い、お越しいただいたお客様を「おもてなし」する視点で移動販売を実施しています。このように、一人ひとりがお客様のことを考え、強みと個性を発揮できる仕事を担い、力を合わせてぎょうれつ本舗を運営しています。

ぎょうれつ本舗を始めたころ、2ルートだった販売ルートも現在は5ルートになり、販売か所は3か所から22か所まで増加してきています。訪問の予定については、移動販売の地区ごとに月間訪問カレンダーを制作し、買い物に来てくださったお客様に手渡しています。また、地区の掲示板にポスター掲示を依頼、区内の放送を利用した呼びかけなど幅広く地域住民に周知していただけるよう取り組んでいます。

平成26年度からは、介護保険施設のデイサービスセンターや地域のサロン、各種イベント参加、個人宅への販売など地域のニーズに合わせて販売か所を増やして、普段買い物する機会の少ないお客様への貴重な場の提供、希薄になってきている地域コミュニティのきっかけになっています。

3 エピソード

自宅に引きこもっておられた90代女性がヘルパーから「面白そうな移動販売車が来るから行きませんか?」との誘いを受け、車いすをヘルパーに押してもらって娘さんと一緒に買い物に来られました。2年ぶりに地域の皆さんの中に出て来られたことを聞き、地域社会とつながるきっかけ作りができたことをスタッフ全員で喜びました。その後も2週間ごとに亡くなるまでの約2年間、買い物が楽しいと散歩も兼ねて来てくださいました。

平成25年9月、高島市は台風19号に見舞われ、ぎょうれつ本舗で出向いている地域を含め、一部の川が氾濫し床上浸水する被害が出ました。その際、数日間にわたり、ぎょうれつ本舗のお手伝い便が現地に入り、泥出しやゴミ拾いなどのボランティア活動に従事しました。ぎょうれつ本舗の目的である買い物の場の提供だけでなく、地域住民に必要とされ、地域に「便利」と「安心」を届けられた瞬間でした。

4 スタッフも地域住民もつながりを実感

ぎょうれつ本舗が出かけることで、スタッフと地域住民の中に変化が見られるようになりました。一部スタッフの声を紹介します。「自分が作った商品が売れるのはうれしい」と自分が携わった仕事で喜んでいただける人がいることを実感し、仕事に向き合う姿勢がお客様を意識するようになり働く意欲につながりました。また、「家族や職員以外の人としゃべるのも楽しい」と、今までは自宅と事業所の往復でほとんど家族や職員以外と話したことがなかったスタッフが、人と関わることの楽しさや喜びを覚え、コミュニケーションの幅や社会性が広がりました。

地域においては、「販売員さんと楽しい会話ができ、楽しみが増えた」と買い物するだけでなく、日ごろ話す機会が少ない高齢者の方々のコミュニケーションの場になりました。また、「来てくれるだけでにぎやかになる、人が集まるのも良いものや」と現代社会において希薄になっていた人と人のつながりを再認識する機会になり、自然とコミュニティの場ができました。

一方で、見えてきた課題もあります。ぎょうれつ本舗に参加する事業所が限定されていること、自主製品が中心で販売量が少ないため、大量仕入れができないことによる取り扱い商品の不足です。また、ぎょうれつ本舗を必要としている地域は過疎山間集落が多く、もともと住民が少ない地域であることから事業を継続し、障がいのある人の工賃を上げていくための売り上げ確保をしていくことも課題の一つです。

5 今後の取り組み

昨年10月に開設したカフェは、課題解決の一つの取り組みとして、また、ぎょうれつ本舗で培ってきた接客技術や地域住民との関わりで得た経験を活かして働きたい、という障がいのある人の思いが重なり実現しました。今後は、このカフェを拠点に、ぎょうれつ本舗が過疎山間集落に出向いて仕入れた野菜などを活用したカフェメニューの創作、野菜を加工して他の地域で販売するなど、もったいないおすそわけ野菜の調査、地場野菜の仕入れ・加工販売など地域住民協働による6次産業を視野に入れ、地域活力の担い手になるような「場づくり・仕掛け作り」を進めていきたいと考えています。

最後に、高齢化や過疎化による買い物難民の増加や生活に対する不安、障がいのある人の労働の場の提供や個人としての尊重は地域課題として取り組むべきものです。ぎょうれつ本舗を有効活用することで、障がいのある人が地域で不足する担い手となり、モノやサービスを提供し地域を支えていく仕組みを作ることができます。住民同士の助け合い、支え合いを豊かにし、誰もが豊かに暮らせる地域づくりの一歩として今後も継続していきます。

(かわしまかずひさ 社会福祉法人虹の会アイリス施設長)