音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年4月号

列島縦断ネットワーキング【兵庫】

障害のある青年に学びの場を
~エコールKOBEの新しい挑戦~

河南勝

はじめに

障害のある青年にとって、特別支援学校高等部等を卒業した後の進路選択としては、一般企業に就職するか、福祉的就労しかないという現実があります。そんな中で、障害のある青年は「就職するには自信がない」「もう少し勉強したりいろいろと経験したい」「お兄ちゃんやお姉ちゃんみたいに大学に行きたい」といった願いを持っています。親の立場からも「もっといろいろ体験させてから社会に出してやりたい」「どうして障害のある子は18歳で社会に出ないといけないのか」という声が出ています。特別支援学校の先生からも「彼らにもゆっくりと自分づくりに取り組み青春を謳歌する時期があっていいのでは」「卒業後に学ぶ場があれば高等部教育はもっとじっくり取り組めるのに」といった思いが語られるようになりました。こうした願いや声に応える形で、福祉の事業ではあるけれど「学びの場」づくりが進んできました。それが「学びの作業所」あるいは「福祉事業型専攻科」と呼ばれる自立訓練事業を活用した取り組みです。

エコールKOBE立ち上げの経緯

「福祉事業型専攻科」エコールKOBEを運営する株式会社WAPコーポレーションは、「障害者の社会的自立を支援する」ということを社是とする会社です。福祉事業所で障害者が作る商品の販売事業を3年間展開してきたつながりを活かして、自立訓練事業を活用した学びの場を開設しました。

立ち上げの直接のきっかけとなったのは、2010年5月に訪問した岩出市の「シャイン」など和歌山の「学びの作業所」の見学でした。和歌山では「専攻科を考える会」をはじめ学びの場を求める運動があり、2008年に和歌山県田辺市でたなかの杜「フォレスクール」がスタートし、県下に広がっていました。この和歌山への見学の目的が社長と私では違っていましたが、「学びの作業所」の実践を目の当たりにして、2人で「これからやるとしたらこの事業だ」と決意して、一気に準備を進め、翌年4月の開所にまでこぎつけたわけです。

開設に至るまでは、場所確保の問題、スタッフの問題、支援学校を訪問しアピールしての利用者確保の問題、もっとも大切な理念と魅力あるプログラムづくりと多くの課題をこなしながらの準備活動でした。一期生は何とか15人が集まり、2011年4月9日の開所式には各界から170人の出席をいただきスタートを切ることができました。

「主体的に学ぶ、豊かな体験、仲間とともに」の3つを柱に

エコールKOBEは、27年度5年目を迎えます。この3月には3期生まで卒業生を送り出し、今年度は31人の学生が学ぶ予定です。活動の柱となる3つの目標に沿って事業紹介をします。

1.「主体的に学ぶ」は、学生自身の学びたいという要求を大切にし、自分たちで話し合い、考え、運営できるような学びの場にしたいと考えています。キーワードは「主体性」です。たとえば調理実習では、月曜日に「何を作りたいか」という話し合いから始めます。作りたいものが決まりグループが編成できたら、火曜日にレシピを調べ、食材の予算を立て、役割を決めます。そして水曜日に買い物に行き、木曜日に調理をしてみんなで食べて、一人あたりにかかった費用を出し決算をします。

研究ゼミでは自分の好きな関心のあるテーマを、自分で1年かけて調べていきます。それを年度末の研究ゼミ発表会で、テーマ設定の理由、研究内容、感想を入れたまとめで構成して発表します。選択講義は、就労選択(パソコン、レザークラフト、ハーブ、トールペインティング、紙すき、食品)と余暇選択(音楽、美術、書道、手芸、ダンス、ハードスポーツ、パソコン)を設け、それぞれ2つの講義を選択できるようにし、前期後期で講義を変えられるようにしています。このように自分で選ぶ、自分の好きな内容を学ぶという仕組みを作り、すべての活動を主体的に取り組めるようにしています。

2.「豊かな体験」は、生活体験、社会体験、スポーツや文化の体験を多く取り入れ、豊かな体験を通して青年として、人間として成長できる場にしたいと考えています。銀行で自分の口座を開設し、自分のカードを使ってATMでお金を引き出す体験や、交通機関を利用する場合に療育手帳を提示して、割引料金の切符で乗車するなどの生活体験、野外に出かけ、いろいろな社会資源を活用する社会体験をします。さらに、本物の体験として、プロの放送作家さんに入ってもらっての「えこーる新喜劇」、神戸大学に出かけ講義に参加しての対等な交流、ロープ1本で木に登る冒険チャレンジ「ツリーイング」などにも取り組みます。こうした体験を通して学生たちは達成感を感じ、自信をつけます。

3.「仲間とともに」は、青年期を生きる彼らが、仲間とともに楽しく協力しあって活動することで、大きな人生の財産を得ることができる場にしたいと考えています。学生自治会を中心にしてみんなで話し合い、みんなで決めることを大事にしています。自治会役員会がリードして野外活動の行き先を相談したり、土曜日活動の内容を相談したりします。野外活動では行き先とグループが決まると、グループごとに活動内容を話し合います。行き方、費用、活動内容とスケジュール、昼食、帰り方などを具体的に相談していきます。時には意見の違いや思いの違いがありますが、相手の気持ちをくむとか自分が折れることなども学んでいきます。自分たちで決めるという経験をし、自己選択や自己決定をする場面を経験することで、「主体性」というキーワードを自分のものにしていきます。

放課後には部活動(サッカー部、美術部)も行います。学生自治会の役員会、ランニングにも取り組んでいます。こうしたすべての活動を通じて仲間を意識し、一緒に活動することで生涯にわたる友達関係ができていくといいなと考えています。

エコールKOBEの目指すものと学生の変化

エコールKOBEの目指すものは、一言でいうと「人生を豊かに、楽しく生きる力をつけたい」(『エコールの挑戦』より)です。1.余暇を楽しむ、生活を楽しむこと。2.体験、経験、チャレンジをすることで「失敗してもいいんだ。よし、次や」という気持ちを育てること。3.友達とやってみる楽しさを味わい、共に生きる喜びを感じること。4.時には嫌なことは避けることや自分の気持ちを落ち着かせる方法を見つけて、穏やかに生きる幸せをつかむこと、などを大事にしています。

活動を通して学生たちは生き生きとした姿を見せ、青春を謳歌して育ち合っています。何より生活の幅を広げる体験・経験を積むことで、同じ年代の青年たちのしている生活(たとえば、友達とカラオケに行くとか映画を見に行くなど)ができるようになってきています。青年期らしい手応えのある活動をすることで表情が明るくなり、友達とやりとげた達成感が自信につながっています。また、一人ひとりが自分の言葉で自分の思いを伝えるようになり、友達の個性を認めて相手の意見も受け入れる、時には折り合いをつけて一緒に取り組むなどの経験をしていきます。こうした経験こそが、社会に出て行く上で必要な人間関係をつくる土台の力になります。

学びの場の広がりと今後の課題

強いニーズを背景に、自立訓練事業を活用した学びの場は全国で急速に広がり、2014年度には全国で25か所にもなりました。このような動きや運動はますます広がっていくと思われます。この「学びの場」は、本来教育の制度として実現するべきところをその代位として位置づいているのが現状であり、学校卒業後の教育制度として確立させることが今後の大きな課題です。

そのためには、青年期にふさわしい豊かな実践が伴わなければいけません。発達に視点をあてた「主体性」を大事にした実践、学びの場を終えた後の進路指導の取り組みをきちんとする課題があります。

2014年1月に日本も締結国になった障害者権利条約には、第24条で「他の者との平等を基礎として、一般的な高等教育、職業訓練、成人教育及び生涯学習を享受できることを確保する」と明記されているように、早期に障害者の高等教育が保障される必要があります。

(かんなんまさる エコールKOBE学園長)