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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年5月号

時代を読む67

手話通訳士の社会的認知を目指して

現在、多くの人は自分では手話ができなくても、テレビ放送や地域の各種行事の会場で「手話」や「手話通訳者」を目にすることがあるでしょう。その際違和感なく受け入れられているのではないでしょうか。このように手話は今や、社会に存在することが当たり前で市民権を得たともいえると思います。しかし、「手話」とそれを必要としている「聴覚障害者」を結び付けて考えられるかと言えばなかなかそこまではいきません。「手話」と「聴覚障害者」の存在は、切り離せないものとして理解されることが大切だと思います。

わが国の手話通訳者の養成事業は1970年、都道府県が行う身体障害者社会参加促進事業の中の「手話奉仕員養成事業」に始まります。1973年には「手話通訳者設置事業」、1976年には「手話奉仕員派遣事業」として実施されていきました。しかし、これは都道府県や市町村が選択して行うメニュー事業であったため、全く実施していない市町村がある一方で、独自事業を実施する市町村がある等、地域格差が発生していました。

1981年国際障害者年を契機として障害者の権利を守る運動が進み、聴覚障害者の「知る権利」「コミュニケーション保障」の要求も高まりをみせてきました。その中で、厚生省(当時)は全日本ろうあ連盟に手話通訳制度の調査・検討を委託、その後、報告や提言がまとめられ、1989年の「手話通訳士試験」に繋(つな)がっていきました。私事ではありますが、第1回試験の時、当然ながら誰もが初体験だったので、全国の手話通訳仲間が各地で受験対策講座を開催したり、情報交換を行い懸命に受験勉強をした記憶があります。3年後に「日本手話通訳士協会」(現:一般社団法人日本手話通訳士協会)が設立されました。設立目的は、手話通訳士の資質および専門的技術の向上および手話通訳制度に寄与することです。現在、全国に手話通訳士有資格者は約3,200人、当協会の会員は約2,200人です。

手話通訳事業開始時は、手話通訳は奉仕活動であるという要素が色濃く、手話通訳に関する社会の認識も位置づけにも大きな課題がありました。

このような中、手話通訳士資格が厚生労働大臣公認資格になったこと、また、専門職集団としての日本手話通訳士協会の設立には大きな意義があります。手話通訳士資格が社会的に正当に評価されることや手話通訳制度が確立することは、社会の中の「手話言語」の必要性、および聴覚障害者の福祉の発展に貢献できるものです。

現在、手話通訳士はさまざまな分野で活動をしていますが、特に国政選挙や首長選挙の政見放送の手話通訳を担うことは定着し、自治体などの手話通訳事業実施において、手話通訳士を採用条件とするなどの社会的認知を広げています。今後も会員や関係団体と力を合わせて改善していきたいと思います。

(小椋英子(おぐらえいこ) 日本手話通訳士協会会長)