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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年5月号

障害者支援施設における栄養支援と「食」をとおして地域とつながる取り組み

佐藤明子

はじめに

障害者施設では、平成21年4月の障害福祉サービス等報酬改定において、「栄養マネジメント加算」が創設された。当施設では、介護保険施設において栄養マネジメントが導入された平成17年度から多職種協働の栄養支援に取り組んでいたこともあり、創設時から「栄養マネジメント」を実施している。栄養支援に取り組み始めた当初は、利用者の意向がつかめず、咀嚼(そしゃく)・嚥下(えんげ)障害や食事摂取量、体重、体重変化、疾病などの課題に着目した栄養ケア計画を作成していた。体重の改善や生活習慣病を予防する計画は、利用者の健康維持・増進には重要なことではあるが、体重が適正となり、栄養リスクが低くなるとその後の計画に行き詰っていた。また、利用者からは、体重を減らすことで好きなものを食べられないのは嫌だと言われてしまうこともあった。

サービス管理責任者が立案する個別支援計画は、利用者の「どのように生きたいか」や「どのように過ごしたいか」等の意向をもとに達成可能な目標を立て、そのために必要なケア内容が計画されている。そこで、栄養支援も同じではないかと思い、栄養ケア計画の立案の考え方を変えるため一から研修し直し、見直しを行なったことにより、利用者の理解が得られ、利用者・家族の満足度を高めることができた。

また、当法人では、社会・地域貢献を積極的に展開することを命題としており、管理栄養士は、専門性を活かした情報提供と、地域と連携した食に関する事業を展開している。地域と関わりを持つことで、住み慣れた地域で健康に活力ある生活を営むためには、食の果たす役割は大きいと実感している。

障害者支援施設における「栄養マネジメント」

当施設では、多職種から得られた情報をもとに管理栄養士が栄養スクリーニング、栄養アセスメント、栄養ケア計画(案)を作成している。栄養ケア計画は、大きな変化がなければ3か月に一度見直しを行なっているが、個別支援計画書に併記して立案しているため、個別支援会議の中で他の計画と連動して話し合っている。その話し合いには、利用者とサービス管理責任者、担当生活支援員、看護職員、作業療法士、管理栄養士が参加する。

栄養アセスメントは、咀嚼・嚥下障害や食事摂取量、体重変化、疾病、食行動等の課題の情報を得るほか、多職種で行う利用者の日常の観察、エピソードの記録から利用者の意向をくみとり、ICF(国際生活機能分類)により課題と意向を整理している。

栄養ケア計画は、ICFの参加と活動に視点を置き立案している。単に栄養状態を良好にして維持するケア計画から、利用者の意向をくみとりICFを取り入れた栄養ケア計画にすることで、他職種からの理解が深まり、利用者は計画された栄養支援内容がなぜ必要なのか理解し、自分の計画として受け入れることができている。それはご家族も同様である。

事例を紹介する。50歳代、男性、脳性小児麻痺による移動機能障害、知的障害があり、身長143センチ、体重56キロ、BMI27.5kg/m2の利用者である。空腹時血糖が600ミリグラム/dl以上と高くなったことから入院となり、仙骨部に褥瘡を発症したが、血糖安定、褥瘡(じょくそう)完治により退院となる。しかし、母親が高齢で全介助が困難であること、2型糖尿病の食事療法が必要であることから、施設入所となった事例である。

入所前の事前調査では、糖尿病は安定し、食事は残歯が少なく硬いものの咀嚼ができないため、誤嚥や窒息等のリスク予防から全粥・軟菜・きざみ食を提供、全介助で全量摂取、意思疎通は難しいなどの情報を看護師から得た。

入所時に、母親からは「家から外に出ることがなかったため、外出しいろんなところを見せてあげたい」、姉からは「病院に入院しないように、糖尿病のコントロールを良好に保ってほしい」という意向と、入院前は常食を食べていたとの情報を得て、栄養ケアの目標を「糖尿病の安定状態を維持したい」「食形態を常食に戻し、外出・外食を楽しみたい」とし、食事摂取基準を病院と同様に、エネルギー1200キロカロリー、たんぱく質45グラム、脂質は脂肪エネルギー比率25%(30グラム)、炭水化物180グラムの糖尿病食とした。食事形態は、全粥・軟菜・きざみ食を提供し、摂食状態を確認したところ、現在の残歯で咀嚼が可能であることが分かり、全粥・常菜・一口大食とした。厚みのある硬い肉は薄くスライスし、全介助で咀嚼状態を確認することとした。

その後の咀嚼状態は、硬い食べ物を食べる時には時間はかかるが、薄くスライスすることで咀嚼が可能となり、全介助により全量摂取できている。なお、手に持つことができれば自分で口に運び食べられることも、バナナなどの提供で分かった。さらに、家にいた時には、おにぎりを手に持って自分で食べていたこと、義歯をつくったが使用せず、合わないので使っていないという情報を得た。また、バイキング食や選択食の時の様子から、料理を選択はできるものの料理名と料理が一致していないことが分かった。

そこで、「外出した時には、好きな料理を選びたい」「自分で楽しんで食べたい」をケア計画の長期目標に加え、食事の自力選択・自力摂取を支援する計画を立案した。短期目標を1.バイキング食や選択食時に、メニュー名で選択できるようになる。2.自分の歯で食べられるようになる。サービス内容は、1.写真の料理と料理名カードを組み合わせる訓練をする。2.義歯を合わせ、義歯によって硬い物を咀嚼ができるようにする。3.主食をおにぎりにし、持って食べられるようにする。4.自助具を使って食べられるようにする、ことを段階的に支援することとした。

その結果、高血糖になることもなく、義歯を装着したことにより硬い食べ物も咀嚼でき、海苔で巻いたおにぎりを手に持って召し上がり、スプーンを使っておかずを、フォークを使って麺類を食べることができ、自分の食べたい料理を摂取できるようになった。また、毎日、食事の前に「今日の料理は何?」と職員に聞き、選択メニューの時には、料理を自分で選べるようになり、現在は外出時に食事を楽しまれている。

生活介護における「栄養支援」

生活介護では、自宅で生活している身体障害者10人の利用があり、利用開始時には疾病や咀嚼・嚥下障害、食物アレルギー、食事形態、嗜好、食事への要望、現在の身長と体重等を伺い、食事を提供している。一つの事例を紹介する。

中国から両親の住む日本へ移住してきた咀嚼障害をもつ方が利用することになった。まず、食習慣の違いや咀嚼状態を把握するため自宅を訪問し、家庭での食事内容をご本人も含め家族に伺い、実際に食べる様子を見せていただいていた。食べられないものは納豆のみであり、咀嚼はあまりせずに飲み込んでいる様子から、食材を1センチ程度に切った常菜・きざみ食を提供することとした。日本語が通じないため表情から判断しているが、酸味のある料理はあまり好きではない様子はあるもののムセや誤嚥はみられず、食事はほぼ全量摂取されている。特に、嚥下障害のある利用者は、摂取不足から低栄養のリスクが高まることもあるため、ケア会議では適した食事形態の提案や食事摂取量、摂食時の様子や体重の変動等から栄養・食生活で必要な支援を個別支援計画に組み込んでいる。

食を通して日中活動を支援する

利用者の「どのように過ごしたいか」を支援するため、日中活動として茶道や絵画、書道などを行なっているが、個々人がやりたい活動はさまざまであり、食に興味がある利用者も多い。地域移行を進めている面からも「食事が作れる」は大切な支援となる。

そこで、生活支援員とともに「食事作り」と「お菓子作り」のサークル活動を支援している。食事作りサークルは、地域で自立したいと考えている利用者に対する食の自立に役立てばと始めた。自分で調理できるようになることが目標ではなく、調理加工品を選ぶ時や調理や買い物の支援を受ける時に、献立の組み合わせを考え、適切なエネルギーおよび栄養量が補給できるようになれば自立できると考え、昼食一食分の食事を作る活動にしている。参加者は、自立を目標としている利用者と、月に1回のお菓子作りでは物足りないと思っている利用者を1グループ5人程度で実施している。

始めた当初は、身支度、手洗い、調理、盛り付けまで助言指導していたが、今では次に何をするかを考えて行動できるようになり、職員は調理道具の準備や補助的に手を添える程度となっている。自主的に、積極的に取り組んでおり、お互いに声を掛け合い、助け合いながら調理し、味付けは味見をしながら薄味に心掛け、配食はそれぞれの食べる量を考えて盛り付け、参加者全員で食卓を囲み試食している。

自分たちで作った料理は、誰一人と残すことなく、みんなで会話をしながら食べ、自分が作った料理が好評であることが分かると誇らしげな表情をされ、達成感を味わっている。試食した事務員から「おいしかった、ごちそうさま」と言われると、さらにうれしそうな表情をされる。施設の中では、「ごちそうさま」と言うことはあっても言われることはない、料理を作ることが楽しみとなり、誰かの役に立つ喜びともなっている。

最近、入所して間もない利用者が参加した。入所後は自分の部屋で過ごす時間が多く、ホールに出ても新聞を読むくらいで、何もせずに1日を過ごしていたことから、参加できる日中活動を把握するため情報を収集した。入所前は飲食店を営んでいたこともあることが分かり、担当生活支援員と一緒に「食事作り」活動を勧めた。参加すると、職員の手を借りる場面はあったものの、最初から最後まで熱心に調理し、入所以来見せたことのないような笑顔を見せ、参加した利用者と職員みんなを驚かせた。また、通所している利用者も入所者と同じで、家では調理に関わらない方が多く、人気のある活動となっている。

月1回開催する「お菓子作り」は、参加者が利用者全員のおやつを作っている。片手しか使えない人が、片手で生クリームの泡立てていると、そばにいる利用者がボウルを支えるなど、日頃あまり会話を交わしていない利用者同士が協力し合い、出来たお菓子はみんなでおやつとして楽しむ、調理工程の話を得意げに話しながら笑顔で食べている姿を垣間見て、楽しみの時間をもう少し増やしたいと考えている。

また、入所している利用者の中には外出が難しい方もいる。季節を感じるように、春には施設の近くでヨモギを摘み、ヨモギだんごを作り、6月には笹を取ってきて郷土料理の笹巻作りをしている。さらに、行事として、バレンタインデーにはチョコレートのお菓子作りなども行なっている。利用者とサークル活動を行なっているうちに、誰かの役に立つ喜びや自信につながり、自分の食事の量や味付けなど食生活を考える力が身に付き、利用者との交流のきっかけになるなど得ることが多い活動である。

地域における栄養・食生活支援

管理栄養士が行う地域と連携した食に関する事業は、栄養に関する情報提供の場をつくることを目的に、個別の栄養相談と配食サービスを実施している。

個別の栄養相談を開設していることをお知らせしているものの、顔が見えない管理栄養士にはなかなか相談がない。その機会を得るため、地域に出向き、講話や調理実習を実施している。主に、地域の老人クラブや子育てサロンで活動しているが、子育てサロン主催の調理実習は、年3回程度開催で7年間継続してきた。子育て中のお母さんのほか、孫を見ているおばあちゃんの参加もあるため、子どもと高齢者、家族全員で楽しめる料理やお菓子を作り、試食時には栄養の講話を行なっている。回を重ねるごとに参加者が増え、子どもたちもエプロンに三角巾と身支度を整えるようになり、調理実習のお手伝いを行なっている。また、みんなで作って試食を行うことで、家族が食卓を囲む豊かな食生活を体験し、家庭における共食の大切さを感じていただけるよい機会になればと思っている。なお、調理実習を通してお母さんたちとの距離感も縮まり、徐々に声をかけてくださっている。

配食サービスは、山形市から食の自立支援事業の委託を受け、一人暮らしの高齢者と高齢者世帯を対象に実施しているが、障害者を含め日中独居の高齢者にも必要と考え、自主事業でも行なっている。自主事業は、安否確認を目的の一つとしていることもあり、申し込みを地域の民生児童委員、福祉協力員、ケアマネジャー等からいただいている。サービス開始時には、食事に関する聞き取りを行なっているが、主な項目は、嗜好、日頃の食事内容・摂取量、疾病、食事療法の必要性、内服薬、歯の状態、視力や聴力、歩行状態、調理や買い物ができるかどうか等である。

情報収集をする中で、地域の高齢者への食支援の必要性を強く感じている。特に、男性の高齢者一人暮らしの場合、買い物、調理が難しいことも多く、食事内容を聞くと栄養素の不足等が懸念される。その場合、本人には買い物や調理の工夫をお話ししたり、ケアマネジャーに情報提供したり、ヘルパーに助言をしている。また、認知症により心疾患や糖尿病等の食事作りが難しい方の利用もあり、療養食を提供しているが、福祉施設の管理栄養士が関わる配食サービスだからこそ、食事になんらかの課題も持った方の申し込みがあると思っている。同時に、食事アセスメントを行い、食習慣の改善ができるように支援していくことも重要な役割であると感じている。

昨年からは、地産地消にも取り組んでおり、地域の農家との交流を図り、地域で生産されている野菜や果物を使って施設の食事を提供している。地元の新鮮な野菜や果物を提供することで、利用者に美味しい旬の食べ物を味わっていただきたいという施設側の思いと、若手農業従事者を元気にしたいという地域の意向から始めた事業であったが、その取り組みでもっとも張り切っているのが地域のお年寄りである。自分が作った野菜を施設の食事の材料として販売できる、そして、地域の中にある施設の入所者が食べてくれるということが予想以上の張り合いになっているようである。食を通して高齢者の「生きがい」づくりの支援もできることに驚いている。

おわりに

施設の栄養マネジメントは、単に栄養状態を見るだけではなく、日常生活全般を見て、利用者の意向に沿った栄養支援を計画することが重要であると感じている。そして、食べることは、誰にとっても楽しみであり、生きる源となり、やがて活力となる。咀嚼や嚥下障害の利用者も多いが、口から食べることを大切に個々人の状態に合わせた支援を行なっていきたいと思う。

また、配食サービスで地域の高齢者を訪問する機会を得たが、食材をそろえて調理して食べること、身体状況に合った食事を摂ることが難しい人も多く、困っていることを相談できずにいる人も多いことを実感している。また、「温かい食事を久しぶりに食べて生きる元気が出てきた」と話すお年寄りもおり、真の食事の大切さを感じている。さらに、地産地消の取り組みから、頼られることで張り合いとなっている高齢者が多いことも分かった。施設が地域の社会資源のひとつとして、福祉の拠点として位置づけられる時であればこそ、管理栄養士にできることを幅広く捉え、食を通じて地域とつながり、地域が元気になる地域貢献を考えていきたいと思う。そのためには積極的に地域に出向き、ニーズを把握し、気軽に相談できる関係をつくっていくことが私に課せられた使命だと考えている。

今後、糖尿病や脂質異常症、高血圧症などの生活習慣病をもつ方の相談も多くなり、食習慣指導の必要性が増大すると考えられる。現在は、家庭での食事に関する食事アセスメントができていないことから、栄養支援ができていないのが現状である。在宅生活を継続し、やりたいことや目指すことの実現には健康であることが欠かせない。そのため、食習慣を適切に評価して栄養支援ができるよう、食事アセスメントを行う体制づくりを進めていかなければならないと感じている。

(さとうあきこ 社会福祉法人輝きの会 総合福祉施設いきいきの郷 管理栄養士)