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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年5月号

専門家による栄養・食事相談の活動

宮永恵美

はじめに

腎不全となっても、年齢や性別、社会的立場や所得に関係なく、週3回、1回4時間の人工透析を誰もが受けられるようになり、多くの患者が職場や家庭に戻り、それぞれの役割を果たしながら生活を送ることができるようになった。透析患者の平均年齢は67歳(2013年末)、20年以上の透析歴をもつ患者は、1992年は透析患者全体の1%にも満たなかったのが、現在(2013年末)は7.9%に増加し、透析歴40年を超える患者もいる。

飛躍的な医療技術や薬の進歩など、いくつかの要因がもたらした長期の透析生活だが、当事者の声に耳を傾けると、食事を中心とする自己管理が無理なく身についていることに改めて驚かされる。長期透析に伴う合併症の発症を最小限にとどめるのは、食事管理が重要なカギとなることを身をもって教えてくれ、失敗を重ねて身につけた患者たちの自己管理の工夫は、とても参考になる。しかし、個人差があるため、一人ひとり栄養士からの基本的な食事指導が欠かせない。

栄養・食事相談の概要

全国腎臓病協議会(以下、全腎協)では、1990年秋から管理栄養士による「栄養・食事」電話相談を開設し、全国の患者やその家族の声に応えてきた。相談日は月2回、基本的に1人20分、事前予約制で行なっている。電話代を心配せず相談しやすいようにと1992年からフリーダイアル(無料電話)を導入し、毎回「相談予約票」はほぼ満杯になる。

開設当初は、患者会の会員からの相談が圧倒的だったが、現在は、ホームページ等を見てかけてくる患者会を知らない一般の患者、家族からの相談が半分を占めるようになっている。

透析患者が高齢化しているように、栄養・食事相談でも、高齢な70歳代、80歳代の患者・家族からの電話も比例して増えており、1回の相談では理解は難しい方も多く、2~3か月継続して相談するケースも増えている。

寄せられる相談は、腎臓病の進行を抑え腎不全とならないための「腎臓病食」に関するもの、腎不全となり透析治療を受けている「透析食」に関するものと大きく二つに分かれる。

楽しみながら食事療法が続けられるためのポイント

食事は、腎臓病患者にとって、腎不全の進行や合併症の発症、時に命を落とすことにも直結するほど、その管理の有無が病状に大きな影響を及ぼす。そのため、毎日3回の食事を調理する側、食べる側、それぞれにストレスを抱えることが少なくない。全腎協の電話相談では、長くつきあっていく透析生活を楽しみながら食事療法が続けられるように、次のポイントを柱にし、個々の相談に応えるようにしている。

(1)食べていけないものはない。加減して楽しく食べる

「何を食べてよいのか分からない」と途方にくれる患者・家族が少なくない。「食べていけないものはない」こと、気を付けなければならないのは、その個々に応じた量であり、基本的に何でも食べてよいことを伝えている。特に、うす味の食事への切り替えは、味の濃い食事に慣れ親しんだ高齢患者にとってはおいしく感じられず、食事量が減少し、栄養不足になることがある。そのような場合、食事が摂れるようになるために、漬物も一口分添えてもよいことを伝え、「食べること」の大切さや楽しさを伝えている。

(2)食事はみんなと一緒に同じものを食して楽しむ

家族や友人と食事をする時、自分だけ異なる食事は誰でも寂しい気持ちになる。同じものを一緒に食べて楽しんで量を加減して調整すれば問題はない。

(3)外食、加工品も上手に活用して楽しむ

外食は塩分が多くなりがちだが、外食した翌日は、いつもより減塩にするなど、計画的に調整して工夫することで楽しむこともできる。食材や分量の目安をたてやすい定食は、しょう油やソースなどは自分で加減できる。漬物を残したり、汁物の具だけを食べ汁を残すなどでも塩分管理ができる。

現状と課題

(1)専任の管理栄養士の減少

以前は、透析施設には専任の管理栄養士が配置され、食事指導を丁寧に受けることができたので、自身のデータを見て体質を知り、食事で調整できる力や工夫を身に付け合併症予防に活(い)かすことができた。10年前頃より、栄養士が他の施設と兼任しているケースが増えはじめ、現在は、検査値が上昇してから食事指導を受ける状況になっている。電話相談でも、透析を開始して合併症が出てきてから、初めて食事指導を受けるという患者の相談が珍しくなくなっている。

(2)自己管理に無関心な患者への啓発

本来、食事などの自己管理で軽減できる症状を、薬や透析で治療してもらえばよいと考える傾向の患者が増えていると指摘されている。合併症のない安定した透析生活を続けていくために、食事を中心とした自己管理の大切さをいかに患者が理解し、実行に移していくかは大きな課題だ。

(3)介護保険施設入所時の食事管理

介護保険施設の入所は透析患者には厳しく、その理由の一つに「透析食」の提供や水分管理を挙げ、断られることがある。実際、介護保険施設の入所を検討する要介護透析患者は、一般の高齢者と同じ食事でよい場合も多く、透析施設と相談することで解決できることも多いことから、透析患者の正しい理解と、介護保険施設と医療機関との連携がこれからの課題といえる。

(みやながえみ 全国腎臓病協議会)


【参考文献】

・日本透析医学会:わが国の慢性透析療法の現況、2013年12月31日現在