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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年5月号

1000字提言

車いすで広げよう!!(2)
~あなたは何を広げますか?~

杉本昌子

このイベントでは、ごく基本的なハンドリムの握り方やこぐ時の腕の回し方、ブレーキング、方向転換、片手こぎ、扉の開け方、キャスタの上げ下げ、段差越え、段差昇降、スロープ昇降など、初歩的ではあるが、車椅子を扱うには必要な技術講習を行なっている。我々が心がけているのは頑張れ!頑張れ!の気合や根性ではなく、一人ひとりに合った内容とスピードと表現とで伝えることである。

この講習会は、スキル以外の複次的効果も用意している。トレーニングを受けながら、子どもたちは順番を守る、その日初めて会った子と友達になる、うまくいったら褒(ほ)めたたえあう、などの社会性も知らず知らずに身に付いているのだ。もちろん他の子よりうまくなりたい、あの子には負けたくない感情もわきあがってきて当然である。車椅子という移動手段を通じて、当たり前のことが当たり前に経験できる機会をこのイベントでは提供しているつもりである。

『車椅子インストラクター』という言葉を聞きなれない方も多いのではないだろうか。中途障害の方は、病院やリハビリテーションセンターなどで基本的(と思われている?)な車椅子の操作を教わる。あくまでもリハビリテーションの一環なので、生活に必要と思われる最低限の内容でしかない。

先天性障害の子どもたちは、実は教えてもらったことがない場合がほとんどなのである。そして、社会に出て不自由を感じる。車椅子から落ちたり転んだり。初めて失敗したことで、自信を失い恐怖を感じ、一人では外出できなくなる。車椅子があるから自由に動き回れるはずなのに、車椅子だから動き回れない状況になってしまう。そんな人たちが実は多いのが現状である。

車椅子インストラクターは、より自由に・より楽しく・よりアクティブに乗りこなせるように、生活場面に即した技術や知識が必要である。道路の歩道の段差には? レストランでドリンクバーを利用しようと思ったら? 玄関の扉はどうやって開ける? 日常生活の中できっとつまずく場面を想定して、安全に楽に、回避と解決できる方法を伝えている。

この知識や技術はスウェーデンで獲得されたものではある。ただ、それだけではない。インストラクター自身が車椅子ユーザーで日々の生活の中で車椅子だからできること、車椅子でもできることを経験・獲得し、もちろん、時には失敗したことも加えて伝えている。当たり前のように感じるうれしいこと・楽しいこと・悲しいこと・悔しいこと・苦しいことを私たち同様にインストラクターも経験しているからこそ、同じ車椅子ユーザーへ伝えることができるのだろう。


【プロフィール】

すぎもとまさこ。パシフィックサプライ(株)事業開発本部。川村義肢(株)に入社して10数年、地域のお客さまに対して義肢装具や福祉機器のご相談・ご提供を行う。グループ会社のパシフィックサプライ(株)に移籍して5年。現在は『シーティングエンジニア』として、車椅子・姿勢保持製品を全国のお客さまへ提供できる環境作りを行なっている。