音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年5月号

列島縦断ネットワーキング【北海道】

終(つい)の棲家(すみか)は住み慣れた地域で
~NPO法人「はこだての家 日吉」の概要

和泉森太

「はこだての家 日吉」は、障がいのある人もない人も家族や仲間と離れず、住み慣れたまちに住み続けたい、そんな想いをかたちにしたいと願って北海道函館市に建設した、ユニバーサルホームです。平成25年12月にオープンしました。

「住み慣れた地域で暮らしたい」

私は、平成12年春に国立身体障害者リハビリテーションセンター(当時)から国立函館視力障害センター(以下、同センター)に赴任し、平成20年3月に同センターを定年退職しました。東京都下に自宅はありましたが、そのまま函館で借家住まいを継続していました。

同年12月に同センターの元同窓会長夫人(現・法人事務局長、元同窓会長は前年春他界)と地元市議会議員とが拙宅を訪問されて、視覚障がいのある方が特別養護老人ホームへの入所を希望しても市内では受け入れられず、遠く離れた町の施設に入所せざるを得ない現状と、この状況をなんとか変えられないだろうかという話をされました。

勉強会の開始

翌年(平成21年)1月より、週1回の勉強会を開始しました。最初は視覚障がい者団体の方だけの参加でしたが、途中から聴覚障がい者団体からも参加があり、平成22年末まで継続した議論を重ねました。当初は、特別養護老人ホームのような介護施設をイメージしていましたが、介護施設が増えることにより函館市民の介護保険料が増加することが分かり、共同住宅とすることになりました。家賃については、障害基礎年金で入居できる範囲にすることが求められ、了承されました。また、視覚障がいや聴覚障がいのある方だけでなく、高齢者も共に暮らせる共同住宅とすることにしました。

共同住宅の建設

平成23年9月上旬、特定非営利活動法人(NPO法人)の設立認可が得られ、法務局に登記。建設資金の確保のため寄附金集めを始めました。

同年11月、寄附金の一部を使用して、函館市日吉町2丁目の現在地にあった北海道開発局の公務員宿舎跡地の購入を決めました。

平成24年末、国土交通省住宅局の「高齢者・障害者・子育て世帯居住安定化推進事業補助金」申請の手続きを行なったところ、先進的事業と評価を受け、助成が決まりました。総工費約3億円、うち補助額は10%、約3千万円で平成24年度・平成25年度の2か年計画で受理されました。北海道の建設工事期間は、2年にわたることが多く、当該事業もこのため平成24年度内には着工に至らず、25年6月着工、同年11月竣工となりました。この間、工事担当者を交えた会議が開催され、毎週定例の会合をもって建設の修正等の打ち合わせを行いました。竣工前には、10月と11月に2回内覧会を行いました。内覧会はそれなりに盛況でしたが、この間、市内各所にサービス付き高齢者住宅の建設が増え、入居利用者の奪い合いの様相を呈していました。このため当初の入居者数が予定を下回り、経営上心配しなければならない状況となってしまいました。

安心して暮らせる支援

現在、入居されているのは、視覚障がいのある方(14人)、聴覚障がいのある方(2人)、精神疾患のある方、高齢者など、28人です。入居されている方々が安心して暮らせるように、運営スタッフはガイドヘルパーの資格を持つ人や手話通訳のできる人もいて、24時間職員が常駐することで、緊急時の対応にも応えられる体制を整えています。

また、入居者の皆さんとスタッフ、法人理事などが一緒にイベントを考えていこうというのが、活動の柱の一つです。月1回、入居者の方々との懇談の場を設け、皆さんからの希望や意見などを出していただき、季節の行事やレクリエーションに反映させています。これまでにお花見や夏祭り、餅つき大会などを行いました。その他、カラオケは毎月入居者の皆さんで楽しんでいます。

各地からの入居の照会

平成26年の5月に、NHK教育テレビ「ろうを生きる難聴を生きる」で紹介され、6月にはNHKラジオ第2放送の「聞いて聞かせて」に出演する機会がありました。これらの放送により反響があり、栃木県那須塩原市から入居者がありましたし、東京・多摩市や稲城市、大阪市、滋賀県草津市、北九州市、札幌市などからも入居に関する照会の電話などがありました。

照会のあった方々はもちろんのこと、多くの函館市民が訪れて見学者が多くなりました。現在でも見学者は毎週のようにあります。

また、東日本大震災の関連では、陸前高田市の市議会議員一行が見学に来られました。詳細は不明ですが、この大震災では、身体障がい者等の置かれた居住環境は被災各県とも悲惨だったと伝え聞いています。障がい者の情報は発信する方も受信する方も情報不足となることが知られており、災害があると情報そのものが途絶えてしまうとも言われています。

今後の課題

今後の課題としては、入居利用者の家賃等の収入が運営原資となっていますので、入居利用者の安定的確保が必要不可欠です。

おおむね安定経営の目安が8割の入居率と言われていますが、これまでその入居率を達成したことがないため、それへの挑戦の連続でしたが、これからは達成できる見通しとなる予定です。

また、住宅建設を請け負った地元の土建会社が住宅建設完了直後に倒産し、再建の見通しが立たないことから、今後予定される保守・点検、修繕等の保証が得られないため、それらの費用のストック等について検討する必要があります。そのためには、一定の利益率を見込める事業の推進を図らなければなりませんが、視覚障がいのある役員や視覚障がいのある入居者の中に「あんま・マッサージ師、はり師、きゅう師」の国家資格のある方がおられるため、これらの方々にご協力いただいて「施術所」を開設し、収益を上げる努力を行う予定です。

障がいのある入居者や高齢の入居者の方々の意向や望んでいることを実現していけるよう自立への道を模索しつつ、よりよい人生を送っていただけるよう援助していきたいと考えています。

(いずみしんた NPO法人はこだての家 日吉理事長)