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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年5月号

列島縦断ネットワーキング【岩手】

自閉症とともに育つ町づくりを目指して
~えぇ町つくり隊の取り組み

千葉寿美江

法人設立の経緯

当法人は2003年に「自閉症児・者が自立して暮らせる町づくり研究会」として発足しました。研究会では、自閉症などの発達障がい児者が自立して暮らせる町づくりを推進するため、福祉・医療・教育等のさまざまな分野の関係者が中心となり、地域における理解と活動場所を拡大していくとともに、豊かに安心して生活できる地域社会の実現を目指すことを目的に活動してきました。2007年にNPO法人いわて発達障害サポートセンターえぇ町つくり隊となりました。

えぇ町つくり隊では、年々支援の必要性が高まっている自閉症や発達障がい児者、またはその傾向の人々とその家族に寄り添った支援を本部一関をはじめ、陸前高田・盛岡の支部において、スタッフの体制整備を図るとともに、地域・支援団体・自閉症や発達障がい児者、および家族が協議し、地域理解を広げる啓発活動を実施しています。そして市民の理解を広げるとともに、自閉症や発達障がい児者を地域ぐるみで受け入れていく支援体制の構築を目指し、日々活動しています。

事業紹介

主な事業としては、本部一関において「えぇ町支援室」として、自閉症や発達障がい児にマンツーマンで課題克服に向けて支援する「本人支援」、家族または当事者の方の相談の場としての「相談支援」、学校や施設などに出向き、なかなか支援が行き届かないところへお手伝いする「学校・施設支援」「教材制作支援」等を中心に行なっています。

また町づくり活動として、年数回、地元の商店街において「えぇ町探検隊」を実施し、商店街や地域のボランティアの方々に自閉症の子どもたちとの関わり方を学んでもらう活動を行なっています。

「えぇ町探検隊」は当初、自閉症の子どもたちの余暇活動や買い物の練習として始められました。自閉症の子どもたちとボランティアやスタッフが一緒に町を歩きながら「家の人に頼まれたものを買う」「自分が好きなものを買う」「店でのお金の支払いを覚える」といった日常的なことを学習するイベントでした。自分のほしいものを買い、昼食を食べ、その後は全体で集まって解散、そのような流れで毎回行なっていました。ある時、好きなものを買い終わり、担当スタッフと一緒に本屋で時間をつぶしていた一人の自閉症の子どもが「もう終わりにして帰ってもいいですか?」と言ってきました。その一言を聞いたスタッフは、“この子たちも役割意識を持って「えぇ町探検隊」に参加していたのだ”と気づき、早速会合で、探検隊においての「子どもたちの役割について」を話題にし、子どもたちにも一ボランティアとして参加してもらおうということになりました。

探検隊は、自閉症の子どもたちにとっては、町の方々や商店街の方々への啓発活動となる場となり、町や商店街の方々にとっては、自閉症の子どもを理解する機会となり、ボランティアやスタッフにとっては、町づくりを学び考える場となりました。

今では毎回、この活動に10人以上の地元高校生や地域の婦人の方がボランティアとして参加してくれ、自閉症の子どもたちと一緒に商店街に繰り出し、買い物や食事をしたり啓発ポスターを配布したりしています。

また、自閉症の子どもたちの中には成人して、サポーターとして自閉症の子どもたちをサポートする役割で参加してくれている人もいます。自閉症の子どもを持つ親御さんたちはサポーターの人たちを見て、「将来、いつか自分の子どももサポーターとして小さな自閉症の子どもたちを支えてくれる日が来れば…」と話しています。

8月に行われる夏祭りには、市内に昔から伝わる踊りのパレードが開催され、そのパレードに子どもたちと一緒にオリジナルの袢纏(はんてん)を着て参加しています。「探検隊夜の部」として、地域の人たちと一緒にお祭りを楽しむふれあいの機会になっています。

レクリエーション活動としては「サマーキャンプ」と称し、毎年プールや海水浴に高校生以下の自閉症の子どもたちを公募し、連れて行きます。毎年この活動を心待ちにし、カレンダーに予定を書き込む子どもたちがたくさんいます。

東日本大震災後、復興支援から始まった陸前高田支部においては、全家庭へ福祉サービスのニーズ調査を行い、その結果「障がい児童の預かり場所、相談場所がほしい」と多くの要望を受け、2013年より県の認可を受け、児童発達支援事業・放課後等デイサービス事業所「さぽーとはうす☆すてっぷ」を開所し、平日10人の子どもたちと日々活動しています。

一方、盛岡支部においては、3年前から本部と同じく「えぇ町探検隊」を実施しています。少しずつ商店街の人たちの理解が広がってきています。また秋には、地域の福祉祭に参加して、自閉症の子どもたちとステージ発表をして、地域の人たちとの交流を図っています。冬には「スノーイン」と称して、近隣のスキー場へ自閉症の子どもたちとウインタースポーツを楽しむ活動を行なっています。

今後の課題

近年は、成人した自閉症や発達障がいの方の家族からの相談が非常に増えています。「大学まで卒業したのに…」「仕事が長く続かない…」など、社会に出てからの困難さを抱えている方々が増えていると実感しています。

当法人としても、現在は高校生までの支援が中心となっていますが、今後は成人期も視野に入れて支援していかなければいけないと考えています。しかし、そのためには資金と人材、場所の確保が課題となってきます。福祉制度を利用できない、いわゆる制度の谷間にある人たちへの支援になるため、資金の確保が非常に困難な状況です。事業に対する民間の助成金も年々少なくなってきています。また、人材難で求人を出してもなかなか応募がない状況です。人口も少ないうえ、まだまだ地域には「給料は安い・仕事はきつい・汚い」といういわゆる3Kと呼ばれるイメージがあってか、若い世代には人気がないようです。

また、事業展開する場所もなく、先日も場所探しを3か月かけて行いましたが、良さそうな物件を何か所か見つけ、それぞれ不動産屋さんにお願いして大家さんに交渉してもらいましたが、「子ども・障がい」という2つのキーワードが引っ掛かるのか、築年数が古い物件でも「普通の所に貸したいので…」「子ども、しかも障がいがあるのはちょっと…」とことごとく断られてしまいました。中には、名刺を出した時点で「どこの大家さんも無理だと思いますよ」と言って交渉してくれるどころか「○○不動産さんでこんな物件出していましたよ」と他社の物件を紹介してくる所もあり、ショックどころか私たちの啓発活動はまだ地域の一部分でしかなく、障がい理解がまだまだ浸透していないのだなと考えさせられました。

今後は、啓発活動を中心に、3年前に一度開設した日本初の自閉症児者の作品を集めて展示、自閉症とは何かを知ることができる「自閉症美術館」を市内の商店街へ移転させ、商店街を巻き込んだ美術館として確立させていきたいと考えています。

今年度は、移転準備期間のため「移動美術館」として、県内外で自閉症児者の美術作品と自閉症資料を展示し、一人でも多くの皆さんに自閉症児者の個性豊かな素晴らしい作品を紹介しながら、障がい理解を訴えていきたいと思っております。

社会のニーズは日々変化しています。同時に福祉の考え方も社会に合わせ変化させていかなければいけないと考えています。障がい児者個々のニーズを大切にし、新しい福祉の形を確立させていきたいと考えています。

(ちばすみえ NPO法人いわて発達障害サポートセンターえぇ町つくり隊事務局)

「えぇ町つくり隊」の第3弾ポスター
図 「えぇ町つくり隊」の第3弾ポスター拡大図・テキスト