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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年6月号

患者の立場から

新たな難病対策の評価 既認定患者の立場から

池崎悠

1 はじめに

今年1月、「難病の患者に対する医療等に関する法律」が施行された。私の疾患は慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)。四肢(私の場合は主に上肢)の運動障害を起こす神経炎である。10万人に1人程度の発症率で、末梢神経に対する免疫異常が原因と言われている。2009年に特定疾患に指定されていたため、既認定患者として3年の移行措置が取られる対象となった。

発症は今から7年前の2008年冬であった。発症時からステロイド療法、免疫グロブリン大量投与療法を行なっている。当時は特定疾患治療研究事業の対象外で、初回入院時は莫大な請求額に驚いたりもした。幸いにもその1年後、事業予算が約4倍に増額され、CIDPとともに他10疾患が特定疾患に指定された。そして今回の改正である。私は発症から今日までの間に、大きく2度の制度改正を経験している。

今回の法律の概論、一般的な問題点は他でも広く議論されているので、ここでは一患者としての評価できる点、課題、そして提案を述べる。

2 評価できる点

まず、小児慢性疾患、福祉サービス、そして医療費助成など、難病患者の支援について一貫した法的根拠ができたことである。安定的な患者支援のために非常に重要なことである。

次に、研究推進のためのシステムの導入は患者にとって大きな意義がある。データベースが構築されると、それだけ疾患についての研究が進みやすくなる。指定医療機関や指定医制度も広く整備されることにより、より質の高い医療が提供されるであろう。研究の情報公開、情報提供にも期待したい。

また、今回の法律に直接的な関係はないが、対策の議論が交わされる中で難病がマスコミに多く取り上げられた。「悲劇の主人公」の文脈において語られることの多い難病を、より実情に即した形で知ってもらう機会が増えたと感じる。

3 課題

前述のように、評価できる点は多くあるが、もちろん課題点も多い。まず挙げられるのは周知である。周知の不足によって、患者すら自分が支援の対象であると認識していない場合があり、提供する側も混乱している。これでは適切な支援がなされるはずがない。

ここで、周知の重要性について私が体験した象徴的な事例を紹介したい。既認定患者である私は、昨年末までに医療機関登録を含めた申請を済ませたが、先日、薬局を新たに登録する必要に迫られた。保健所で尋ねると「指定難病」の言葉すら理解してもらえず、窓口が違うと言われ、登録作業を済ませないまま診察へ行った。主治医にその旨を伝えると、今回のみ院内処方で、と対応してもらった。後日市役所に行って尋ねると、なんと次回更新の9月末までは、薬局を含む登録医療機関ならばどこでも登録なしで2割かつ限度額内での会計が可能であると説明を受けた。加えて、このことを知らない薬局もあるので、受診の際にはお知らせの紙を出してくださいと依頼された。

この件に関して、保健所、主治医のどちらかがこの暫定措置について知っていれば、私はより早くかかりつけの薬局を探すことができた。幸いにもこれはまだ些細(ささい)な問題である。しかしより重要な問題について、どの窓口もまだ知識不足で、事業所側も患者側も混乱している状況を耳にする。広く適切な支援のためにも、情報を持ったスタッフの配置は勿論(もちろん)、患者や支援者に対する積極的な周知の機会を設け、理解の徹底を図ることが喫緊の課題である。

二点目は、就労支援である。今回の法律には就労支援についての言及がある。難病相談・支援センターをはじめ、難病患者就職サポーターの活用も考えていかなければならない。医療的な支援に加え、患者の社会参画を促すためにも就労支援は非常に重要である。

三点目は費用である。私は今回の改正で負担限度額が約4倍に増加した。患者は医療的側面だけでなく、就労でも問題を抱えていることが多い。対象疾患が増えたこともあり一概に課題とは言えないが、入院時の食事費用なども含めいかに負担を軽減していくかは、常に検討していくべき問題である。

最後に、難病の指定要件にも課題がある。新たに発見され、診断・治療方針も何も確立していない疾患に対する支援が十分とは言えない。このような病気に対する支援も考える必要がある。

4 提案

障害者総合支援法の対象となる「難病等」は難病対策の基準を考慮して決定されている。よって、難病対策の基準、つまり病名で区切ることで必要な支援が受けられない人が数多くいる。訪問看護やその他福祉サービスには必ずしも病名での区分は必要ない。私のように、指定難病であり福祉サービスの対象疾患ではあるが自力での生活が可能な患者、指定難病ではないがサービスが必要なレベルの患者を比較すると、どちらに支援が必要なのかは一目瞭然である。医学的な支援には病名での区分が必須になるが、それ以外はもっと柔軟な区分であるべきである。

また、審議に上がる対象疾患の公開についても疑問が残る。今後増えるであろう対象疾患も考慮すると、審議の公開、情報提供は不可欠である。今回の法律成立の際も、各患者団体や個人の声が限度額引き下げ、その他改善に大きく貢献した。このように、一方的に支援や制度改善を待つのではなく、法律や制度を我々当事者も常に監視し、改善点を上げていくことが重要である。

(いけざきはるか 難病NET. RDing福岡代表)